往復書簡

往復書簡 12 三島太郎

<往復書簡 12 三島太郎>

立川直樹様

東京は本日(6/27)、梅雨明けしました。過去、最も早い梅雨明けだそうです。
すでに数日前から熱い日が続いていますが、東京の夏の暑さは年々厳しくなっていますね。湿気の無さや風のせいもあって東京より沖縄の方が凌ぎやすいので、「沖縄に避暑に……」が普通に使われるようになりそうです。

少し前にお招きいただいた東郷記念館での「祈り」をテーマにしたレコードコンサート、楽しかったです。ピーター・ガブリエルの「ビコ」など、自分で積極的に聴こうとはしないけれど聴いておくべき曲に触れられるのは、ああいった会の醍醐味ですね。
少し前から、ビジネスマンは基礎的教養としてアートについて学ぶべきだと盛んに言われるようになってきていますが、文学やクラシック音楽がすでにそう扱われているように、ロックも単なるエンターテイメントを超えて大人の教養の一つとみなされる時代になりつつあるように思います。
教養と言うと堅苦しいようですが、自分が興味を持てることについての学びを深くし、その学びを通じて世界をもう一度見つめ直すことは、人が豊かに生きるための近道でしょう。
遠からず、大学やカルチャースクールで、ロック、ポップミュージック、ジャズなどに関する講座が多く開かれるようになると思われ、立川さんが今、SUPER AUDIO LIVEでしておられることは、そういった学びの場のオーガナイザーとしてまたカリキュラムの編成者として、立川さんが新しいジャンルを開拓されることの序章なのかもしれないと思うことがあります。

「リコリス・ピザ」は今、一番観たい映画です。ポール・トーマス・アンダーソン(P・T・A)は「ハードエイト」と「インヒアレント・ヴァイス」がピンとこなかったぐらいで、他の作品は大好きなので。
P・T・Aといえば、彼の「ブギーナイツ」で主役を演じたマーク・ウォールバーグの「ザ・ギャンブラー/熱い賭け」をamazonで観たらこれが良く、さらにそれはリメイクで、“元”はその40年前に作られた「熱い賭け」だというところから、頭の中で(「熱い賭け」の主役の)“ジェームズ・カーン祭り”が始まりました。フランシス・フォード・コッポラが「地獄の黙示録」とは違った視点からベトナム戦争を描いた「友よ、風に抱かれて」、キャシー・ベイツが狂気のファンを演じてアカデミー主演女優賞に輝いた「ミザリー」、ベット・ミドラーの傑作音楽映画「フォー・ザ・ボーイズ」、キアヌ・リーブスとのライトなバディもの「フェイク・クライム」、風変わりなコメディ「スモール・アパートメント ワケアリ物件の隣人たち」など、共演する役者の持ち味を引き出すことが実にうまく、粗削りな格好の良さ、粋な雰囲気を身にまとう貴重な俳優だと思います。
前述の「熱い賭け」にも登場するポール・ソルヴィノがマフィアの幹部として貫禄の演技を見せる「グッドフェローズ」も何回観直したか分からないほどです。レイ・リオッタ演じる若きギャングとガールフレンドの初めてのデート、彼らがクラブの裏口から厨房を経由して特別席に着くまでを長回しで撮ったシーンにザ・クリスタルズの“Then He Kissed Me”丸々一曲を合わせるセンスなどはたまらないものがあります。ジョー・ペシの有名な“funny how?”のシーンもそうですし、オープニングからラストまで、名場面の宝庫のような映画だと思います……

コロナ騒ぎがだいぶ落ち着いてきたおかげもあって、最近、おいしいお店をいくつも引き当てています。心斎橋の割烹「浅井 東迎」、溜池のまだ新しい香港料理店「龍皇軒」、幡ヶ谷のカジュアルなモンゴル料理居酒屋「青空」など、やはりハッとくるようなおいしいものを食べると頭の中が覚醒し、幸せな気分になりますね。立川さんのお好みに合うかどうかは分かりませんが、どこかのお店で近々ぜひご一緒したいです。

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