往復書簡

往復書簡 10 三島太郎

<往復書簡 10 三島太郎>

立川直樹様

相変わらず強烈にお忙しそうで、私としては喜ばしいような心配なような複雑な気持ちです。立川直樹オフィシャルinstagramのスタート、おめでとうございます。私の力不足もあってこれまで立川さんの活動を告知する場が無かったのですが、ご自身の手掛けるイベント・番組・書籍などの情報をそれを求める人たちに届けたいという立川さんの想いを、スタッフの方たちが今回こういった形にし、ファンの方たちとのリアルタイムな交流がスタートすることは本当に素晴らしいことだと思います。

前回の書簡で立川さんに薦めてもらった「ナイトメア・アリー」を映画館で観た。最初はちょっと入り込みにくく感じたものの、どんどん作品世界に引き込まれていき、圧巻のラストに導かれた。観た後の感動の質は映画というより鶴屋南北あたりの歌舞伎を観た後のそれに近い。今やそんなものは初めから存在しないかのように扱われようとしている制御不能な人間のどす黒い情念や社会の闇を、セレブリティが放つまばゆい光との対比で鮮やかに描き出す、エンターテイメントの枠をはみ出した大傑作だ。
製作にも関わっているブラドリー・クーパーはこれ(主人公のスタン役)、すごくやりたかったんだろうなぁ。どちらかというとバランスの取れた善人役が多い彼が、本作では悪と狂気に取り憑かれた男の役を見事に演じている。観終わって数日間は「これ、ホアキン・フェニックスがやった方が良かったんじゃないの?」と勝手なことを思っていたが、だんだん、そういうことではないという気がしてきた。この世の天国と地獄を演じる「振り幅」の大きさは、今のブラドリー・クーパーならではであろう。ほかにもしばしばスクリーンに大写しになる俳優たち、特にケイト・ブランシェットの表情が素晴らしく、確かにこれは大画面で観ないともったいない!と納得した。「キャロル」でのアンサンブルが素晴らしかったケイト・ブランシェットとルーニー・マーラ。今回は共演シーンこそ多くないが、スタンを媒介にそれぞれが強烈な存在感をぶつけ合い、互いに共鳴し合っているかのようだった。

相変わらず配信やDVDで気の向くままに観る作品の中で良いと感じたのは「プラトーン」「アナザーラウンド」「ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡」「ブラックホーク・ダウン」「コミンスキーメソッド」「戦慄の絆」「処刑人」「シングルマン」「ドライブ・マイ・カー」など。中でもソマリアでの「モガディシュの戦闘」を描いた「ブラックホーク・ダウン」はウクライナ情勢が緊迫している中で観たせいもあるかもしれないが、凄まじいインパクトだった。

最近、Elephant Gym(大象體操)ばかり聴いている。マスロックにカテゴライズされているらしい台湾の3ピースバンドで最初はキング・クリムゾンの影響を強く感じたがポップな感覚もあり、熱さとクールさのバランスがとても気持ち良い。ギターのTell Chantとベースの KT Changは兄妹なのだそうで、メンバーの素朴だがスマートなルックスやビジュアルのセンスも個人的に好みである。

立川さんの還暦祝いパーティーのお手伝いをしたのはつい昨日のことのようだが、私もあと2年足らずで60になる。気分とは裏腹に身体は正直で健康診断の結果にいろいろ綻びが出てきており、仕方がないので運動量を増やそうと、このゴールデンウィークは毎日歩いたり筋トレをしたりしていた。幸い天気も良く、サウジアラビア〜スウェーデン〜スペイン〜アメリカと大使館近くを巡る、緑が多い上に車も人も少ないコースを速足で歩くのは気持が良い。ただ何も考えずにうろうろしていると急な坂にぶつかることがあり、特にホテルオークラ近くの江戸見坂の登りはなかなか大変だった……。
寄る年並みに抗ってジタバタしている中で行った小旅行先で、先日85歳で亡くなったある著名人について話す機会があった。その方と日頃から交流があった知人は、「よく(酒を)飲む人でねぇ。しかし、早過ぎましたよ……」と言う。確かに各方面でいろいろな仕事をされた立派な方だったし直前までお元気だったらしいのでその言葉の意味は分かるのだが、それにしても85歳で亡くなった時に「早過ぎた」と惜しまれるのは凄いことだと思う。どうしたらそんな生き方ができるのだろう、と我が身を振り返ってちょっと居心地の悪いような気持ちになった。

tachikawanaoki_official(立川直樹オフィシャルinstagram)
https://www.instagram.com/tachikawanaoki_official/

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