往復書簡

往復書簡 9 立川直樹

<往復書簡 9 立川直樹>

三島様

桜の花が咲く頃には久しぶりに会ってトークでもしましょうかと書いておきながら、アッという間に2ヶ月近くが過ぎてしまいました。
好きな曲の順位がどう入れ変わってもまずベスト10圏外になることのないローリング・ストーンズの「タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン」でミック・ジャガーが歌う「快楽に我を忘れているうちに時は流れ去っていく レジャーに飽き飽きしているうちに時は矢の如く過ぎ去っていく 時は誰も待ってはくれない 俺のことも待っちゃくれない 人類は死後のために 永遠の名声のために塔を建てる 切り刻み 収穫する人間を見ろ 人々のあざけりに笑い返す人間の声を聞け……」という名曲が頭の中で流れ、いくつになっても、もっと時間があればいいのに……と欲張ったことをつぶやいている始末です。
でも、本当に世の中が悪くなっていてなおかつ幼稚化していることがはてさてどう対応すればいいのかと思っている感じ……。
昨日(4月27日)の深夜に何となくテレビをザッピングしていたら3月に84歳で亡くなったアメリカ初の女性国務長官となったマデリーン・オルブライトのワシントン大聖堂で行われた葬儀をBBCが生中継しているのに偶然あたり、バイデン大統領やオルブライトを64代目長官に任命したクリントン元大統領の弔辞のきちんとしていることと、全体のたたずまい、それに見ることはできませんでしたが、ハービー・ハンコックの演奏までが仕込まれていることに大人だなあと思い、その数時間前に事故を起こした知床遊覧船の会社の社長が土下座して訳のわからない対応をしているのをあれやこれやとほじくっている日本のテレビ・ニュースのレベルに思わず苦笑いが出てしまいました。
エンタテイメントの状況も全体が本当に劣化してますよね。
今年のグラミー賞とアカデミー賞の授賞式などその最たるものだと思うし、この前は金沢の本屋さんで吉田健一の「金沢」を買おうと出向いた時、店員が全く商品知識がないことに、嫌になってしまいました。
だけど、本もCDもDVDも死ぬまでには全部読んだり、聞いたり、観たりはできないくらいにストックがあるので安心と言えば安心です。
そして、ポーラ美術館で今開催中の(9月6日までやっています)「モネからリヒターへ」のような展覧会を見ると、過去の作品は決して過去のものではないと実感できるし、WOWOWやCINEMAHDなどで偶然あたる拾いものの映画も中々魅力的です。
86歳で作ったロマン・ポランスキーの最新作「オフィサー・アンド・スパイ」は重厚な傑作ですが20年前の「赤い航路」を数日前にwowowで観た時、やっぱりこの人はいけてるなと思いました。
それに対して、同じwowowで数日の差で観たガイ・リッチーの「ジェントルメン」は安っぽい劇画のようなものをカッコつけて撮っているだけでがっかり……
こうなってくると、やっぱり一度会ってネーム・ゲームみたいなことをやったら楽しいんじゃないかと思えてきました。
明日からはまた、関西です。
3月20日に大阪の中之島美術館の開館記念展にどうしても行きたいと出かけてから4月は大阪で「伝説の一日」を見た翌日は京都、その後が金沢、日光、「沖縄・記憶と記録」という展覧会の仕込みと沖縄国際映画祭のイベントのために那覇を2往復し、幕張でイベント、大阪、箱根というスケジュールをこなすのは年令を考えるとやや狂気の沙汰に入りつつあるような気さえします。
では、5月は是非!

2022年4月28日
立川直樹

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