<往復書簡 6 立川直樹>
「音楽の聴き方」おもしろく読んでいただいたようで、うれしく思います。 “爐談”で最初に会ってつきあうようになってもう10年以上経つと思うけど、僕の仕事を身近で見ていて、デジタル化もしてくれた(これにはとても感謝しています)三島クンならではの見方がおもしろかった。
“奇書”というフレーズを目にしてエスクァイア・ジャパンで連載していた「クラブ・シャングリラ」が「シャングリラの予言」と言う分厚い単行本になった時に青山ブックセンターのPOPに“平成の奇書”と書いてあって思わず笑ってしまったことを思い出しました。
そしてたくさんの人からいろいろな形で感想のようなものが届いて、それを見るのも楽しみで、「クラブ・シャングリラ」が進化するような形で始まりもう7年以上も続いているFM COCOLOの「ラジオ・シャングリラ」(日曜日の16時から17時にON AIR - 最近はradikoという便利なものもあるので関西エリア以外の人でも聴くことが出来、沖縄や秋田あたりからもおもしろいメールがたくさん寄せられている)では1月23日に大阪・心斎橋のBrooklyn Parlorと言う店で新刊発売記念の公開録音も実現し、そこでは本にも出てくるテクニクスの強力なオーディオシステムでデヴィッド・ボウイの「レディ・グリニング・ソウル」やジョン・レノンの「Mother」、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」、レナード・コーエンの「テイク・ディス・ワルツ」などをかけ、やってきてくれた人の涙をしぼり出しました。とりわけ、ジョンの「Mother」はもうあのアタマの鐘の音からジョンの叫び、しぼり出すようなボーカルが尋常ではなく、1970年12月の発表当時、放送禁止になったことを思い出しました。昔、ダミアが歌った「暗い日曜日」が自殺者が続出したことで放送禁止になったこともあり(同名の映画が10年かそこら前に作られ日本でも公開されている)、音楽の力と永遠性を名曲や名演・名盤は感じさせてくれます。
2月11日に公開される「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs ビリー・ホリデイ」という、FBIがビリーの代表曲「奇妙な果実」が公民権運動を盛り上げるからという理由で陰謀を仕掛けていく実話をもとにした映画もアンドラ・デイのパフォーマンスが素晴らしく、ウェス・アンダーソン監督の通算10作目になる最新作「フレンチ・ディスパッチ」でもデスプラのオリジナル・スコアに加え、古今東西の名曲が流れまくって目と耳が幸福になりました。ピアソラのリベルタンゴに詞をつけたグレイス・ジョーンズの「アイヴ・シーン・ザット・フェイス・ビフォー」はいつ聞いても気分が覚醒します。
世の中はコロナのせいでいろいろな面、いろいろな意味で完全に今おかしくなってしまっているけど、つい先日、偶然テレビで見たブラジルの金の不法採掘で大量の水銀が使われていて、“ブラジルの水俣”と呼ばれる情況がアマゾンで起きている事実は衝撃だった。先住民協会の31歳の若い会長がアイアン・メイデンのTシャツを着ていたのが妙に印象に残ったけど、スティーヴン・キングは執筆中はヘヴィメタルを大音量で流しているそう…。
「シャイニング」を大スクリーンでかけ、それに合わせてヘヴィメタルの名曲・名演をスーパー・オーディオシステムかもっとやるならPAで流すイベントやったらおもしろいかも知れない。ややマンネリ化している映画とオーケストラのコラボのコンサートにも一石を投じられると思う。こんなふうにアイデアが浮かぶのも音楽あってこそだ。