往復書簡

往復書簡 3 立川直樹

<往復書簡 3 立川直樹>

代官山の蔦屋書店のDVDレンタルサービス終了に続いて今度は3号館にあった品ぞろえ充実のCD売場がウタイ文句によれば「個人の時代における働き方の自由」を応援する空間ーというSHARE LOUNGEなるスペースになってしまった。内覧会に出かけてみたが帰りの車の中ではボブ・ディランの「時代は変わる」があればなと思った。
だから11月に10日間近く滞在していた金沢で行きつけの”二の字”の謎めいた姉妹から教えてもらい、気になっていた”あうん堂本舗”という小さなカフェと古本の店に行った時はホッとした気分になった。広さは大きめのリビングルームという感じだが実に品揃えがよく(これは趣味が合っているということでもある)海野弘編の「上海摩登(シャンハイモダン)」、ジュリエット・グレコの「グレコ恋はいのち」、昭和25年3月発行の長編名作全集、江戸川乱歩の「蜘蛛男・盲獣・陰獣・パノラマ島奇談」を購入した。3冊とも既に絶版。これは思わぬ拾いものとばかり、ホテルの部屋でレナード・コーエンのベスト盤をBGMにパラパラとやり始めたら、完全に時空を超えた世界へと連れて行かれた。
11月22日の日記録にはこう書いている。「パルチザン」から「ハレルヤ」、「エブリバディ・ノウズ」… 平穏で知の感覚が高まり、様々な記憶がミックスし始める。窓の外の金沢の雨模様の景色と北京のホテルから見下ろした胡同の景色…… 江戸川乱歩の「蜘蛛男」は今は亡き戸田ツトムの造本装幀が申し分ない「上海摩登」の中にはまり込んでいき、コートの襟を立てたレナード・コーエンが向こうから歩いてくる。これはホテルの部屋ならではのイマジネーションの飛翔…… よく泊まるホテルでは昔から部屋を決める習慣をつけているがこれはオススメ…
そして今回は1月売りのDISCOVER JAPANの撮影と取材。SUGIZO×TOKU×シシド・カフカ×真言宗豊山派僧侶による”ロック×声明”、CHARとSUGIZO初共演で僕も加わった”LIVE, TALK & PLAY”という2つのライブイベント、<食の歳時記、いしかわを食べる~収穫の秋の宴~>という食のイベントをプロデュースし、夜は僕がプロデュースをした”Blue Bar 夢”に入り浸ってワインと音楽に溺れていたが、日記録をチェックしてみると21日にホテルの部屋で観たロジャー・ウォーターズの「ザ・ウォール」の凄さは特筆もの。パッケージの中にはこんなメモも挟んだ。「ブレヒト=ワイル的な匂い。ジェラルド・スカーフのアニメーション多用。映像と美術の境界がなく、本当に凄いものが作られていた。コンサート会場と墓地の重ね合わせ方は涙もの…」。ロジャーとデヴィッド・ギルモアの違いがとてもクリアに日曜の午前中のホテルの部屋でわかるのがとてもおもしろいと思う。その後は2月にやる宮澤正明写真展「石川を撮る」の打合わせに出かけた。

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