<往復書簡 2 三島太郎>
立川さんの書簡を見て思い出した。昔、六本木には誠志堂書店や青山ブックセンターがあり、魅力的な音楽・映像ソフトを揃えとんがった映画をかけるミニシアターやカフェを持つWAVEがあり、確かに文化の匂いのする街だった。
WAVEの向かいにあった爐談(ろだん)という店で初めて立川さんに会った。店のご主人とママが話していた「あの映画、立川さんも面白いって言ってたわよ」という言葉を耳に挟み、「それって立川直樹さん?」と尋ねたのが今に至る立川さんとのご縁の始まり。あれからもう20年近くがたったとはまるで夢のようだ。
「スクリーン派」の立川さんと違ってぼくは映画をamazonやNetflixで観ることが多い。「アイリッシュマン」や「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」といったオリジナル作品も面白く、最近ではNetflix発で爆発的なヒットになった「イカゲーム」に止めを刺す。
「イカゲーム」は日本映画の「バトル・ロワイアル」や「カイジ」にも似ているが、映像の質感や道具立てがよりゲーム的というかメタバースの時代を予感させるものがあり、それらと登場人物たちの激しい情念の発露との微妙なズレが面白い。韓国映画はなんとなく性に合わずあまり観ていなかったのだが、立川さんおすすめの「悪人伝」や「パラサイト 半地下の家族」が呼び水になって少しずつ観るようになり、「新感染」や「エクストリーム・ジョブ」などもそれなりに楽しんでいたところに「イカゲーム」がガツンと来た感じだ。
メタバースとは特定の仮想空間を指すというよりは、複数のネットサービスの中で日々の営みの多くのことが完結する状況を指すのだろうとぼくは解釈している。メタバースの世界にどんなインターフェースで接続するかというのは重要な問題で、フェイスブックがメタ・プラットフォームズと社名を改めたのもその世界でリーダーシップを取ろうという意気込みの表れだろう。個人的には任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」が持つインターフェースとしての可能性は大きいと思っている。任天堂が本格的に家庭用ゲーム機にシフトしていったのは東証一部に上場した1983年ぐらいからだと思うが、40年ほどの間に同社はほとんどの人が想像もしなかったであろう成長と変化を遂げた。同様の時間軸で起きたこととしては東芝の分割もショッキングなニュースで、日経の報道では綱川社長は「解体ではなく未来に向けた進化」と述べているようだが、自分が若かった頃の同社の姿を思うとやはり隔世の感がある。
最近印象に残った本は「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」「宇野亞喜良画集 Kaleidoscope(カレイドスコープ)」。「嫌われた監督…」は、かつて中日担当記者だった著者がプロ意識の塊のような落合博満の孤高の姿を描いた好著でamazonのカスタマーレビューが絶賛の嵐なのも納得。落合氏の本では、長年の映画ファンというスタンスからのエッセイ「戦士の休息」や食について書いた「戦士の食卓」も面白い。「Kaleidoscope」は俳句から着想を得て2020年からの約2年間で描かれたという44の新作を収録したもの。キャンバスに石膏を塗り下地をつくってから描き重ねる手法を用いたというが、一つ一つの作品が信じられないぐらいに素晴らしい上に印刷も凝りに凝っていて、4,950円という価格が破格なものに感じられる。
往復書簡って?と手探りで書いてみたが思いのほか面白い。何より立川さんの反応(?)が楽しみだ…。