<往復書簡 14 三島太郎>
立川直樹様
音楽伝道師としての動きがますます活発になっているようですね。立川さんの音楽イベントにはいつも驚きと感銘と、そして主張があります。そこが今、世の中に溢れている、通り一遍のキュレーションやフェスとは一線を画すところなのだろうと思います。
私の本業のWeb制作プロダクション界隈も近年細分化が進んでおり、今まで以上に知恵を絞ってやっていかなければと感じているので、立川さんのイベントからはいつも多くのことを学んでいます。
西麻布の事務所のビルはついに取り壊しですか。立川さんの日本人離れした都会的な雰囲気というか、たたずまいにぴったりの風情のある事務所でした。あそこで起きたいろいろなことを思い出します。
私の方は最近、野菜スープ作りにはまっています。久しぶりに滞在した沖縄・読谷のホテルで野菜のおいしさと身体への良い影響を再認識したことと、ノーベル賞の有力候補と目されながら昨年、この世を去った前田浩さんの本を読んだのがきっかけでした。6〜10種類の野菜を刻み、水で40分間煮て冷ましたものをブレンダーを使ってポタージュにし、塩や生クリーム、りんご酢を加えて飲みます。10ccの「人生は野菜スープ」の歌詞のようにパルメザンチーズをかけたり、トロロ昆布を少し乗せるのも良いです。素朴な味で毎日飲んでも飽きない上、始めてひと月ほどですが、体調や血液検査の結果が飛躍的に改善しました。食べ物の好みも変わり、今まで理解できなかったベジタリアンの人たちの気持ちも少し分かってきました。
スーパーマーケットで売られる食品(特に魚!)、街場の飲食店のメニュー、ユニクロのフリースからスコッチウイスキー、ハバナシガーに至るまで値上げラッシュなのに加えて、相変わらずの自粛圧力で街に出る意欲も減退しているので、家でちくちくと野菜スープを作ることの幸せはなかなかのものです。何よりやれば必ず成果が出るのが素晴らしい。世の中、あんまりそういうことはないものですから。
昔、「今の倍、生きる可能性がなくなったらそれは歳を取ったということだ」という意味のことを立川さんに言われたのを覚えているのですが、このところの目覚ましい医学の進化は多くの人を100歳どころか120歳まで生かすようになりそうで、そうなると私などはまだ若者かもしれないと愚にもつかぬことを考えたりしますし、生きている間は身体的、経済的、社会的に自立していたいと思うと、それはそれでなかなか大変なことですね。
本は相変わらずの乱読で、「ストーリーが世界を滅ぼす-物語があなたの脳を支配する-」「泥水のみのみ浮き沈み 勝新太郎対談集」「テスカトリポカ」「イベルメクチン 新型コロナ治療の救世主になり得るのか」「最高の老後 『死ぬまで元気』を実現する5つのM」といったあたりを読みました/読んでいます。特に佐藤究さんの「テスカトリポカ」は、麻薬カルテル、アステカ神話、臓器ビジネス、金や自らの妄執に翻弄される人間たちといった要素を見事に料理した、直木賞に選ばれたのも頷けるノワール小説でした。
映画はなんとなく気分が乗らなかったのですが、前にミヒャエル・ハネケの「ピアニスト」を観て凄いと思ったままだったイザベル・ユペールが出る作品をいくつか観られたのが収穫でした。同じハネケの「ハッピーエンド」、風変わりなコメディ「アスファルト」など、アートフィルムでもエンターテイメントでも自然な存在感で作品をぐっと良くする、まさに名映画女優の名にふさわしい人だという思いを強くしました。
三島太郎