立川直樹の内省日記

2010年5月24日(月)

5月18日(火)朝刊に“スイングジャーナル”休刊の記事。夜、“ROCK AROUND THE CLOCK”で催した“KIRIN LAGER BAR”のゲストとして来てくれたマッケンジー、森永博志と早乙女クンともその話になったが、実にショックだ。広告収入の減少が主な原因とのことだが、何だか本当に一区切りしてしまった感じがする。同じ日に名ジャズ・ピアニスト、ハンク・ジョーンズの死亡記事が載っていたのも偶然を越えている。その時、ふと昨年見たハンク・ジョーンズの至芸とも言えるピアノ・プレイが甦ってきたが、午後試写で見たタンゴ版「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」とも言える映画「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」のラストシーンでたった1人でバンドネオンを弾いた96歳のガブリエル・クラウシの凄さには理屈抜きで唸らされた。時代を生き抜いたマエストロたちの芸にはジャズもタンゴもクラシックも、ジャンルに関係なく香り立つものがある。その素晴しさ、崇高さに対して、参議院選挙を前にして乱立する有名人候補の何と愚かしいことか……牧伸二のウクレレ漫談のアタマのフレーズが思わず頭に浮かんだ。


5月19日(水)妙蓮寺で行われた芳賀さんの葬儀に出席する。予想されていた死とはいえ、斎場で会ったcobaとも話したが、やっぱり“痛い”。芦野さんの心のこもった弔辞からジンガロのバルタバス、ジェーン・バーキン…といったゆかりの人たちからの弔電まで、フランス映画の一場面を見ているようだったが、実に芳賀さんらしい感じだった。その後、“オステリア”で久しぶりに日本に赴任してきたスティーヴン・バーコフとUさんと遅いランチをとったが、その会話も雰囲気もまた映画的で、その感覚は1日中持続していた気もする。夜のオーチャードホールでのミュージカル「ドリームガールズ」は予想通り演し物に対して会場が大き過ぎるせいか、テレビを見ているような印象だった。そして、帰宅してテレビをつけると、ますます過激さを増しているバンコクの市街戦のような政府軍とデモ隊の対立と、これも拡大化している宮崎の口蹄疫、それに韓国哨戒艦の沈没が北朝鮮による攻撃だったというニュースが連続して流れ、ちょっと不謹慎な言い方かも知れないが、現実の出来事が作り物のエンタテインメントよりもエンタテインメント度が増してしまっている。街の景色もそうなりつつある。


5月21日(金)久しぶりの金沢。10時15分発の飛行機が羽田を発ったのは11時30分過ぎ。カウンターのインフォメーションも曖昧だし、何だか今の日本の情況をそのまま反映しているような感じだった。でも昼の“太平寿し”で気分はすっかりよくなってしまうのだから、人間なんて現金なもの。工大での“世界を変えた書物展”の打合わせもうまくまとまったし、夜の“さか根”でのY氏との酒飯も人と人との直接の会話にメイルや電話でのやりとりはどうしたってかなうわけがないことを改めて実感させてくれた。金沢21世紀美術館で見たヤン・ファーブルと丹越桂の二人展“新たなる精神のかたち”も人間の知力と発想はアナログであることを示したもの。いろいろと考えてしまったが、そういえばこの半年でかかってくる電話が激減している。他の人に聞いてもそうだというが、これもメイルのせいだ。そして人は段々にコミュニケーション能力が低下していく。機内誌の中で見た祇園町の“出しもの”である“手打ち”などはアナログの極致ともいえるものだから、これはもう無形文化財のレベルに突入している。


5月22日(土)金沢城公園三の丸広場で金沢城河北門完成記念を祝う葉加瀬太郎のコンサート本番日。昨年9月末の中村勘三郎の野外歌舞伎以来の三の丸広場だが、天気の心配が全くないので、バックステージで読書をしたり、スタッフとたわいもない世間話をしたり穏やかな気分で時が流れていく。この日のためにジュネーヴから来てくれた林正子と葉加瀬太郎と地元合唱団がコラボレーションする「フニクリ・フニクラ」のリハーサルも問題なくすんだし、全体リハーサルも本番も時間通りにかつ満足すべき内容で過ぎていった。勘三郎さんも昨年夏の“The 地球LIVE”に出てくれた今井美樹さんも言っていたが、やっぱり三の丸広場には“いい気”が流れている。小さな誤算は打上げの店。40人ぐらいの宴会なので、地元プロモーターの選択肢も限られていると思うが、愛情のない食べ物と供し方……大型店は本当に苦手だ。


5月23日(日)2日ほど前から遠藤周作の「沈黙」を読んでいる。まだどうなるかわからないが、マーティン・スコセッシの映画の仕事の予習で何年かぶりで読み返したが最高にドラマティックだ。機内チャンネルのリブラの声がイマジネーションを飛翔させる。帰宅後は、新聞を読んだり、郵便物の整理をしたり、外は雨だし、とても静かな1日。夕方、WOWOWでトニー・ギルロイ監督の「デュプリシティ スパイはスパイに嘘をつく」を観るが、話はおもしろいのに、時間軸をいじり過ぎたことで変てこりんな映画になってしまった感じがする。でも、ジュリア・ロバーツは久方ぶりに魅力的だった。


5月24日(月)カセットテープを整理していたら出てきたイギー・ポップの2003年のアルバム「スカル・リング」を聞きながら大学に向かう。イギーのパワーで朝から異様にテンションが上がる。やはり、この人は別格だ。同じように思ったのが午後の試写で見たジェームス・ブラウンのステージ。今まで幻と言われていたザイール・キンシャサで1974年に開催された“ブラック・ウッドストック”とも呼ばれた音楽祭のドキュメンタリー・フィルム「ソウルパワー」のオープニングとエンディングで見ることができたが、生々しい躍動感に理屈抜きで身体が反応した。近頃、本当にこういう音楽と出会うことがなくなった。体調もこういう映画と出会うとよくなる気もする。石坂氏や行方さんと一緒の浅草“米久本店”でのすき焼きの会も楽しかったが、夜のニュースでびっくりしたのは、レナウンが中国企業の傘下に入ったこと。来るべき時が来たと思いながら、いろいろなことを考えてしまった。

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