WORKS~立川直樹全仕事~

1986年 SIDESTORY 5

マルサの女

m: 『マルサの女』が伊丹十三監督との映画での仕事の始まりという事になると思うんですが。
t: うん、これはまたね、実は前があるの。
70年代に『古代への旅』っていう番組をテレビマン・ユニオンが制作してたんです。
伊丹さんはそのメイン・キャスターだったのよ。それが最初の出会いだよね。
テレビマン・ユニオンとは、あの『海は蘇る』とか『獅子のごとく』とか、3時間ドラマっていうのをテレビマン・ユニオンが最初に作ったときの音楽プロデュースっていうのを、ぼくがやってたの。コスモス・ファクトリーって、ぼくがやってたバンドに全部音楽頼んでて。
で、その実は3時間ドラマの前に、映画で言うと、『仁義無き戦い』の前に『人斬り与太』があったみたいに、『B円を阻止せよ』っていうこれ、結構凄いドラマなんだけど、岡田英次さんが主役のがあって。
で、それをやって、『海は蘇る』とかになだれ込んでって、テレビマン・ユニオンの仕事をわりと一手にやってた。
で、まぁ、(伊丹さんとは)仕事はその時しかしなかったんだけど、しばらく間があって、ぼくがロマンポルノの音楽やってた時に、細越さんていうプロデューサーがいて、で、細越さんが、伊丹プロに入ったわけですよ。
今でも覚えてるんですけど、細越さんは、最初ぼくんとこ来て、今度、伊丹十三と仕事する事になって、『お葬式』って、なんか『陀助の夏』とかってタイトルだったんだよね。変な映画作ちゃってさ~とかって。結構大変なんだよっとか言ってさ、あの(独特の)ノリで。
で、一応試写見たりすると、凄く面白いの、ま、『お葬式』はすごく当たって、で、『タンポポ』は海外では評価高かったけど、日本では興行的に、いまいちで・・・
伊丹さんとしては、音楽が弱い、って話になって、そいで、細越さんと相談して、細越さんがぼくの名前を出して、伊丹さんが、そうか、居たな~、みたいなことになったらしいんだ、どうもね。

で、ぼくが伊丹プロに呼ばれたんです。
ぼくも生意気だから、伊丹さんの仕事はやりたいけど、やるんだったら、好きなようにやりたいと。
で、(伊丹さんは)「ぼくもそういう人とやりたいんだ」みたいな、なんか、例のくぐもった声で言うわけだ。
で、わかりましたっつって、で、マルサ、今度こういうのやるって言って、台本見た時に、絶対これはねぇ~、変態ジャズだなって思ったの。
ぱっと、スティーブ・マーカスだと。
スティーブ・マーカスっていたんだよ、『トゥモロウ・ネバー・ノウズ』ってビートルズのやつやったり、ジャズ・ロックのすごいのが。サンフランシスコ派みたいな、チャールス・ロイドと同じ系統ですよ。
で、ぼくは、スティーブ・マーカスが頭にあって、こういうのできるやつは誰かなと思った時に、本多(俊之)君を思い出したのよ。彼とはその前に、テレビマ ン・ユニオンの仕事で、2、3本、『歴史の涙』とか、あと、倍賞千恵子さんが出てた、なんかあやしげな、今思えば、『流されて』みたいな映画の音楽とか やってて。
で、これは面白いから、彼とやろうかなと思って。
それでぼくは、変態五拍子っていうの考えてたの。五拍子だから、マルサの女ってのは。あれ4分の5なんです。
1,2,3,4,5。2,2,3,4,5って。それであの変態っぽいメロディーが、そこに絡んでくることで、あのなんか、えもいわれぬ、007のテーマみたいなもんが出来上がったわけです。
m: 伊丹監督と立川さんと本多俊之さんと作業分担みたいなものってどういうものだったんでしょう?
t: それはねぇ、伊丹さんとぼくが、こう、あれ(打ち合わせ)するでしょ。で、俊之には、曲を書いてもらう。デモで、何曲もモチーフを書いてもらう。
で、ぼくが調理人だから、使えるものを伊丹さんに聞かせるの。
全部聞かすと怒るからさ、本人。なんでぼくがこんな変なもん聞かなきゃいけないんだって(笑)。
選んで、組み合わせも変えて、で、こういうことでぼくは行きたいと言うと、もうちょっとこうしろとか、一応偉い客だから(言う)。
で、俊之が作ってきて録音し終わったものを、仕上げの時に、ぼくなんか、メロとサビにハサミ入れて、どんどん組み換えちゃうからね。
ただそこには、俊之とぼくとの信頼関係があって、ぼくがサビを半分に切っちゃって、そこに関係ないAのテーマをつないできても、彼は、絶対ぼくには、文句言わない。
元より良くなるの、わかってるから。
あれは客観的に見ても、面白いことしてたんだと思うよ。
m: 『マルサの女』を昨日もう一回見直したんですよ。
改めて思ったのは、タイミングというか間がすごくいいじゃないですか。オープニングで、看護婦がおじいちゃんにおっぱい含ませるところの後に、権藤が踊りだすところで音楽が初めて入ってきて、あそこから映画全体が一気にドライブしてくる。
そういう、きっかけのひとつひとつが、すごく綺麗にできているな、と。
t: あのね、それはどういう事かっていうと、音楽の生理ってあるじゃない。それをぼくが伊丹さんに、「あとこれ2秒長いと タリリリタリリリってフェードアウトしてく時に、タリリリが綺麗に収まるから、あと2秒さえ長ければ綺麗ですよ」って言うと、伊丹さんすぐ、鈴木晄さんっ て編集のじいさんに言って、「晄さ~ん、2秒流すと何コマ足すと大丈夫なの?」ってやってくれたんですよ。
m: マルサの女の音楽の後半の方、アバンギャルドなギターが入ってきますよね。
t: あれは是方(博邦)君なんだ。
m: その部分が、ガサ入れの場面から入ってきます。
t: そうそう。
ガサ入れのとこはよく覚えてるんだけど、長いんですよあれ。4分以上あるとと思う。
で、あれ、最初セリフ入ってたんですよ、全部。「ガサ入れだぁ」とか言って、で、音楽ガンガン鳴らして、そのセリフとバランスとってたの。で、もっと(音 楽が)大きくないとかっこよくないなっって言って、で、大きくしていった時に、ぼくが、「一回、セリフとか全部抜いちゃったら、かっこいいんじゃないかな ~」って言ったら、ちょっとやってみようかって言って、で、やったら、凄いかっこよかったの。それで、あのドキュメンタリー感が出たわけ。

伊丹十三氏について

m: 伊丹さんと立川さんは、マルチなフィールドで活躍されているという共通点があると思うんですが、その辺で、伊丹さんと の距離感というか、伊丹さんは立川さんにとって、全くもうすばらしい仕事のパートナーだったということなのか、それともそこにまた何か別の思いがあったの か・・・
余計なことかもしれませんが、お聞きしたかったんです。
t: 思いっていうより、自分の未来を見てるような気が、すごくしてた。ぼくが年とると、こういうふうに意地悪も助長されるだろうし、マニアックの度が過ぎて、一般の人からするとイヤミな人間になったりするのかなぁって。
でも、イヤミな人間っていうのは、こう、愛を込めて言ってるんだよ?
やっぱりなんかこう、自分が嫌いなものは許さないとか、マニアックなこだわりとかってことも含めて、なんかこう年とっていくと、どんどんどんどん、ねちっ こくなってくじゃない?そのねちっこさっていうのを、(伊丹さんは)ぼくより一回り以上(年が)上だから、伊丹さんの中に見てたんだよね。


ぼくは伊丹十姉妹(ジュウシマツ)って言われてましたからね、銀座で(笑)。
似てんですよ、早い話が。意地悪なカンジとか、こう、もののこだわり方とか。
t: で、なんかやっぱり、わがまま感とか、あぁ、きっとぼくはこうなるんだろうなぁみたいなことと、むこうはむこうで、ぼくがいないとこで、例えば、(宮本)信子さんとか細越さんに「立川君って、自分の若い時を見てるようだよ」なんて言ってて。
ゴシ(細越)さん、またうれしそうに・・・ね。
i: やっぱそうなんで、だからいろんな、映画のこと調べる時なんかでも、立川さんも一緒に、という感じがあったんでしょうね。
t: だからお昼も二人だけで、食べに行ったりしてたじゃん。
i: で、ものすごくべったりが好きじゃないですもんね。
t: お互いにね。
それが多分、伊丹さんも居心地がよかったんじゃないかな。みんな伊丹さん、伊丹さんってべたべたっていう感じがあったけど、ぼく全然違って、あんまり、言われないと行かないし。
i: そうっすよね。いつも終わったら、「いや、もうちょっと居てよ、立川さん」とかっていう感じで。
t: うん、「次があるんで」とか(ぼくは言ったりして)。誰も言わないからさ、あの人に(笑)そんな、次があるんでなんて。
m: 今はどうですか。
例えば伊丹さんって、製作もやってる方じゃないですか。今回『マルサの女』のメイキングを見て思ったんですけど、あの時点でも製作ってすごく辛いことですよね、予算的にも何も。
立川さん、ああいう形での製作、または映画監督みたいなことってやろうって、思われたりしますか?
t: う~ん、映画はわかんないけど、でも展覧会の仕事とかって、それに近い部分があるからね。(成功する)確証はないわけだから。
i: ぼくの中では、立川直樹の究極は、映画だとずうっと思ってたんで。(立川)事務所入ってから、そういう(監督をすると いう)チャンスはいくつもあったんですけど、なんでやんなかったんですかって聞くと、「だってさぁ、おまえ。○○とか××と同列になんの嫌だろう」って (笑)
t: 異業種監督なんて、言われたくないよな。
i: でも、そこで(立川さんの)才能を認めてたのが、伊丹さんですもん。
いや、絶対にそういう風になんないから、って。
m: 確かに、全てでは無いにしても、異業種監督と言われる人って、映画になると途端にセコくなっちゃう人、いますもんね。
t: バカなんですよ。映画ってのをわかってないんですよ。
映画ってのは、映画の言語と映画の生理ってのがあるんです。だからそれは、本当にやっぱ、撮影所とか、映画のスタッフの間で同じ時間を共有しないとわかん ない部分って、あるわけよ。それを本当にわかんないでいて、○○先生とかって言われて、「監督っ」とかって言って、「よ~い、スタート!」なんてやってて も、絶対できない。
伊丹さんってやっぱ俳優だったから。
だから、異業種監督って言うけど、異業種監督じゃないんですよ。


だから、唯一、和田誠さんっていうのは、ぼくは仕事もしたけど本当によく映画を見こんでて、映画を知ってるから、あの人は。
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