TIME WAITS FOR NOR ONE~立川直樹同世代トーク~

第14回 後編

M: コンサートは?
T: コンサートは、二人には、「えっ?」って言われるかも知れないけど、そして自分がプロデュースしたからいうのもなんなんだけど、万博の時のユーミンがベストだったね。
I: いや、ぼくも泣きましたよ。ユーミンすごかったですよ。
T: あそこまでとは思わなかった・・・。本当にベストですよ、今年の。
   
それからやっぱり万博なんだけど、ヨー・ヨー・マとシルクロード・アンサンブルのコンサートも、湯川れい子さんが、今まで1,000を越えるコンサートを見たけどベストだって書いてくれた。
本当に、いろんなものを全部抜きにしてああいう生楽器をコラボレートしていく中であそこまでテンションが上がっていくのを見ちゃうとねぇ・・・。技術と知性がかみ合った時にすごいことが起こるんだっていうのはすごく思った。
M: 演劇とか舞台はどうでしょう?
T: 演劇、舞台はねぇ、やっぱり今年は勘三郎に尽きるね。もう、年頭の襲名披露3連発で、僕、昼夜で6回全部見たけどやっぱりすごいよ。ものすごい役者。
で、夏にミック・ロックを連れてきて、(楽屋)裏も含めて撮った時にも改めて思ったけど、これまた今ちょっと別格かもしれないね。
M: 藤十郎さんとかよりもすごい?
T: うん。やっぱり、勢いが違うかもしれないっていう気がする。
M: そうか・・・。立川さん、今回のシルヴィ・ギエムは見ました?
T: 見てない。最後のボレロでしょ、見たかったんだよなあ。
M: すっごく良かったですよ。ヤバかったですね、あれは。
T: 良かった?
ぼくね、バレエでいえば「エトワール・ガラ」のルシア・ラッカラが良かった。きれいだったな。
あと、舞台はやっぱり蜷川幸夫さんの「天保12年のシェークスピア」は長かったけど面白かったね。

T: 展覧会はねえ、岡倉天心。
M: そんなに良かったですか。
T: うん。
あと、ノール・フィニー。全然、入らなかったらしいけど。
M: へぇ。
T: いいんだよ。でもこういうもんは入んないんだなあって思ったな。どこかの変な巡回展みたいな、しょうもないの
には人が入るのに。北斎展なんて、でたらめに入ってたもんなあ・・・。
そういえばおととい、森山大道の展覧会に行ったんだよ、ロゴスギャラリーの。「あゝ、荒野」っていう、寺山修司と森山大道の本の出版記念で211点枚オリジナルプリント焼いたっていう。すごくいい。

立川直樹はデジタルである

I: でも、これはやっぱり毎月やったほうがいいですわ。
T: そうだね。今日、話してても映画以外は手ぬるいから、やっぱり来年からは1ヶ月に1回ずつ、特に音楽で“今月はこれを聞いた”ってやっていって、 それを年末にまとめて、1年間でにこれだけアイテムを出したけど、今正直にどう思うか、っていうのをやったらすごく面白いと思う。
1月には時の勢いでいいって言ったけど、もう忘れてるわとか、5回聞いたら飽きちゃったとか正直に言っていったら、すごく面白いんじゃない。
M: 新しいものだけじゃなく、古いものも全部。
T: うん、そうだよ。
M: この前、「永遠の質問」で聞いたマイルスの21枚セットにしてもそうだけど、とにかく今、ものが多すぎるんで すよ。   
だから、どれが聞く価値あってどれが聞く価値無いっていうのさえもわからない・・・。
T: それはさ、どれが聞く価値あってどれが聞く価値無いかっていうのは、エルヴィスは聞く価値あって、ボブ・マーリィも聞く価値あるんですよ、今。
そこで「新しいものが出てこないじゃないか」って言われたら、それは確かにおっしゃる通りかもしれないけど、でもこれは飯食うのと一緒で、いいものはいいのよ。古くても高くてもいい。
ぼく、ハービー・ハンコックの「ポシビリティーズ」だったら、極端なこといったら、1枚7,000円でもいいと思うよ。
M: でもね、エルヴィスの中にも駄作はあったと思うんですよ、過去にね。
T: あったよ。買っちゃいけないレコードってあるの。でも今回の「エルヴィス・バイ・ザ・プレスリーズ」とか、ちょっと前に出たエルヴィスのラブ・バラード集、これはめちゃくちゃよくできてる。
M: だからそういう風に、あるアーティストの中で、これを見たり聞いたりしたら幸せな出会いになる、っていうの を聞きたいんだなぁ。
T: 飯田、あれ、ラブ・バラード集って今年だっけ?
I: 今年です。今年の頭ぐらいです。
T: あれいいよなあ。すばらしいよ。
I: でも、よく考えたらそれは反則ですよね(笑)。今年良かった音楽っていうテーマでエルヴィスとボブ・マーリィ っていうのは(笑)
T: でもあれは本当にすごくよくできてる。
I: でも、それと「フー・ファイターズ」って太刀打ちできないですよね?
T: いや、でもさ、太刀打ちできないってのでいうとさ、新譜紹介として選べって言われたらぼくはそこにたとえばジョン・レノンの2枚組ベストは入れないよ。
だけど今キャメロンが言ったような、お金出して聞くのに何聞いたらいいですか?っていう質問に対しては太刀打ちできないと言われようが定番だと言われようが入れるよね。
たとえば予算3万円でCDを10枚買いたいんだけど、何を買えばいいですか?って聞かれたら、やっぱりそこにはエルヴィスが入ったり、ジョニ・ミッチェルが入ったりするわなあ。
M: だからそういう情報が求められてるんじゃないですかね。お金出して買う側は、新譜だから買うわけじゃないわ けだから。
T: そうでしょ。
そうすると、カウンセラーじゃないけど、「あなたはどういう映画が好きなの?」って聞いて、たとえば「思い出の夏」が好きだっていうおばあちゃんがいたら、ぼくは、「あなたはマイルス・デイビスの『スケッチ・オブ・スペイン』は絶対いいと思うでしょう」って言うよね。
ミッシェル・ルグランの「サマー・オブ・42」が好きだった人が、マイルスの「スケッチ・オブ・スペイン」聞いたら、これはもうしょんべん乳しぼりぐらい泣きますよ。
やっぱり、あのマイルスの「スケッチ・オブ・スペイン」てすごいもん。ジャズの中で、美しいハーモニーとか美しい音楽の名盤っていったら絶対入る。
M: ほお。しょんべん乳しぼり・・・。
I: でも、やっぱり意外なのは、今も生きてて一生懸命やってる人、ロッド・スチュワートとかサンタナの名前が 立川さんの口から出てこないっていうのが・・・。
T: サンタナはさぁ、好きだよ。好きだし最新作なんかよくできてんだけど、あの流れでいくと「スーパーナチュラル」が一番いいんだよ、曲とか。で、もうちょっと前にいっちゃうと「キャラバンサライ」とか、歴史的な、あの「アブラクサス」とかね。
M: だから、今の映画評論家とか音楽評論家の多くは新譜とか新作の評論家じゃないすか。
T: うん。
M: ぼくは立川さんって、ジャンルだけじゃなくて時空をも越えた評論家っていう画期的な存在だと思うんですよ。
I: おお!
T: 素晴らしい視点だね。
I: うまい。三島さん、座布団3枚ぐらいですよ、今の。
時空を越えた評論家!これ、三島さんすごいわ(笑)
T: すごいよね。
M: だって今日の話だって、新譜と昔の何十年前のエルヴィスのことが同列に語られてるっていうのは、そういうこ とですよ。思考の連続性とか脈絡みたいなものもきっちりしてるんだけど、事象の核心部分に最短距離でパッパ ッとリーチしていく感覚がある。立川さんってすごくデジタルっぽいところがあるって思うのはそういうところ なんです。まあ、立川さんは無意識にやってることなんでしょうけど・・・。
I: 立川直樹ドットコムの来年からはこれで行きましょう。
T: じゃ、今日は予告だね。ぼくが実は時空を越えていたっていうことを発見したというのが、今日の結論ですよ(笑)。
M: これ、結論なんだ(笑)。
I: いやほんと(笑)。“時空を越えた”発言だけで今日は十分ですよ。
M: だって真面目な話、これからますますアイチューンみたいなものが普及していったら、うまい下手は別として、 自分でライブラリをサクサク編集できちゃうんだもの。“目利き”というか時空を越えたナビゲーターというかイ ンデキシングの師匠、みたいな人は絶対、すごく価値が高まっていくはずですよ。それこそエデュケイショナル な話ですよね。
I: 確かにアイチューンやアイポッドの中ではみんなもう時空を越えてるんですもんね。
M: そうですよ。
I: すごいな三島さん、早く出さないと誰か真似しますよ。
T: これはもうキャメロン© だね。さすが“分析のキャメロン”。
やられたね。今日は。

とてつもないバカ話、そして感動の教え

I: オジー・オズボーンの話はしなくていいんですか。
T: あれは・・・でも、しようかな。
オズボーンがね、全曲カバーの新しいアルバムを出したの。ビートルズの「イン・マイ・ライフ」とかキング・クリムゾンの曲とか、一見バラバラな選曲みたい なんだけど、ぼくは同じぐらいの世代だからわかるんだけど、実はあるテイストでまとまってるの。でまあ、それはよくできてます、と。
で、ボーナスDVDが付いてるんですよ。これがとにかく最高なんだけど、飯田が先に見ちゃって、「すごいですよ!」っていわれたからインパクトに関して10%欠けてるのが悔しいんだけどね(笑)
あれは予備知識無しで見たかったね。
I: すいません。(笑)
M: どんなものなんですか?
T: オジー・オズボーンとのディナー。これくらいのテーブルで、オジー・オズボーンとオジー・オズボーンのバカ息子とモーターヘッドのレミーと、あと オジー・オズボーンの担当ディレクターと元マネージャーだかで5人でメシ食ってるのよ。オジー・オズボーンちで。で、カメラは2カメしかないわけ。
それで話してることが何かっていうと、レミーがジミヘンのローディーをやってた時の話で、「あいつは楽器もうまいけど、女の扱いもうまかった」、「そうだよな、すぐやっちゃうんだよ」とかってやってるわけ。
そしたらいきなりオジー・オズボーンが「いやー、でもお前、あん時、下痢してたんじゃないの?」とか言いだして、どっかからオジー・オズボーンがうんこち びって落っこちてきた話とか、とにかくそういうデタラメな話をみんなげらげら笑いながらし続けてるわけよ。メシ食いながら。
で、一番すごかったのが、日本に行った時にレストランで赤ワイン頼んで「味が違う」って言って、取り替えさせる時にグラスにコカイン塗った話までしてるわけ。「あのウェイター、あのグラスでワイン飲んでぶっ飛んじゃったんだよな!」とかって(笑)。
M: なめさせたんだ?
T: そう、味が違うからワインを変えろって言ったら店の人間は確認するじゃない?で、「バカだよな、あいつら。あんな金、ワインに払わないよ、俺ら!」とかってやってるの(笑)。
日本に行った時にコカインやってたっていうのが、売ってるDVDに字幕スーパー入りで入っちゃってんだぜ?しかもそこで終わってんの。笑いながら(笑)。
M: それはすごいなぁ。二度と(日本に)来ないんでしょうね、きっと(笑)。
そう、最近出た、山口冨士夫さんの「村八分」っていう本が結構すごくて。
T: ぼくもちょっと読んだんだけど、間違いがあるんだよね。
M: 立川さんの名前も2箇所ほど出てきますね(笑)。
T: ぼくさ、ACB(アシベ)で演奏なんかしてなかったと思うんだよな。
M: そうそう、そう書いてあった。
I: 実はやってたんじゃないんですか?(笑)
T: ACBねぇ・・・。やってたのかなぁ・・・、あぁ、やってたかもしんないな。
M: やっぱ、やってたんだ(笑)。
T: でも冨士夫ちゃん、ぼくのことをなんであんなによく覚えてんだろ。それは不思議だよな・・・。

T: そう言えば、今年良かったライブを一つ忘れてた、二葉百合子。
M: え、どんなんですか。浪曲をやるんですか。
T: 歌謡浪曲。
M: へぇ。
T: これはちょっとすごかった。
M: それはシンガーとしてすごいんですか。
T: すごいの。二葉百合子さんって72、3歳なんですよ。芸能生活70周年とかで、3,4歳でデビューしてるから。そもそもなんで見にいこうと思った かっていうと、昭和歌謡曲の特集番組とか、時々テレビでやるじゃない?ああいうのを見ると、ほとんどの人がちゃらけたステージやるわけさ。でも、二葉さん は、みんながチャラけてる中、迎合しないで「岸壁の母」を非常に真面目に歌うわけ。きちーっと。
  
それで、この人は一回生で見といた方がいいと思ったの。
で、そのライブなんだけど弟子が4人出てるんですよ。それが石川さゆりと藤あやこと原田悠里と坂本冬美。
M: その人たち、弟子なんですか?
T: 弟子なんだよ。
で、石川さゆりは17歳の時からの弟子で一番長いんです。
それですごいのは、一部が歌謡浪曲の新曲っていうか書き下ろしで25分くらいの曲なんだけど。もうだからちゃんとストーリーもの。
それで、二部がいわゆるヒット曲の「一本刀土俵入り」とか「岸壁の母」とかをやって。構成としてすごいのは、一部をまずやって、二部の頭で弟子が4人、前に出てアカペラで木遣りみたいな感じで「きょうの~良き日を~」みたいにしてやるの。で、司会は玉置宏さん。
M: おー、定番。
T: もう、超定番ですよ。それがまたうまいからピタッとはまるの。
やっぱりすっごく芸がきれいでピシッとしてるわけ。
それで4人の弟子も二葉先生と一緒にステージに出てきて、先生の思い出話とかするわけ。
その時に石川さゆりが、「これだけは今日言っておきたい」って言って話した話があってね。
「先生には、“歩くのが好き”とか“肉が好き”とか、色んなエピソードがあるけど、わたしは先生に“芸をかじるな”って教えられたことが一番心に残ってるんです」って。
I: ほぉー。
T: “芸をかじるな”ってどういうことかっていうと、つまり、芸人はその気になれば、自分の芸を簡単に切り売りすることができるっていうことなんですよ。それを“芸をかじる”ことだって表現したわけ。
M: なるほど。
T: 芸人っていうのは、常に自分に磨きをかけて、一番新しい自分をお客さんに見せなくては成立しないものなんだってことを、二葉先生が教えてくれたっていうんだよね。
つまり、ある程度名前が出てくると、いわゆるもう、出てくりゃOKな世界なわけじゃん。「はーい、○○です!」みたいに。実際、そうやってる人ってすごくいっぱいいるよね。
M: いい言葉ですねえ。
T: すごかったねえ。“芸をかじるな”。
だから、それはさっきの話にも戻ってまとめちゃうようなんだけど、やっぱりぼくらがこうやって仕事してものを作ったりする時に、終わりって無いんだよね。
M: うん。
T: だからさっき飯田には反則だって怒られたけど、エルヴィスとかボブ・マーリィのベストを凌ぐものが一瞬でも出てくればそれはすごいことなんだよ。
だから中途半端なところで「ま、こんなもんでいいんじゃない」っていうのは違うと思うんだ。
現に、オリジナルじゃないけどあんなにすごいものをシネード・オコーナーは作ったわけじゃない、5年振りに。それは大したもんだと思うんだよなぁ、ぼくは。
I: いや、ぼくもそう思いますよ。
M: (シンニード・オコーナーは)いろんな問題起こしながらちゃんと復活して、ねぇ。 でもその、終わりがないっていうのはすごい。
T: すごいよ。すばらしい。

そう、さっきの二葉百合子さんの「芸をかじるな」っていう言葉の後にはこう続くらしいんだ。あんまり感動したんでメモしてきたんだよ。 「舞台では、鍛錬した芸を売るもの。卑しさを売るな」


  「和む立川直樹と働くフクちゃん」

前ページ

Page Top▲

  • TOP
  • PROFILE
  • 立川直樹の内省日記
  • TIME WAITS FOR NOR ONE
  • WORKS
  • ARCHIVE
  • ABOUT THIS SITE