立川直樹の内省日記

2010年7月6日(火)

7月4日(日)永井荷風の「濹東綺譚」を読み終える。昨日の夕方に東京都庭園美術館で「※1有元利夫展―天空の音楽」の特別鑑賞会に出かけてから軽い休暇に入り、読みかけの本やCDを楽しもうと思っていたが、「時勢に対して傍観的な態度をとりながら、その一方で日々に変化していくさまに好奇のまなざしをむけ、観察し記録することをやめなかった」(竹内天雄の解説)永井荷風の本は実にいいタイミングだった。それと十代の頃から敬愛の対象だったクラウス・フォアマンが書いた「ザ・ビートルズ/リメンバー」。またこの休暇に合わせてくれたかのように※2リンダ・ロンシュタットがアサイラム・レコードに残した名盤5枚が届いたのも最高だった。73年の「ドント・クライ・ナウ」から78年の「ミス・アメリカ」までのアルバムで聴ける名曲と名唱・名演。ジャケット・デザインを担当しているKOSHのサンセット・ブールヴァードにあったオフィスに出かけたことや、二昔ほど前のきょう、アトランタのスタジアムで開催された“独立記念日”の記念コンサートでメイン・アクトのウイリー・ネルソンの前にリンダが歌っていた情景がフラッシュバックしてきた。思わず口をついて出る……Good Old Days…という言葉。みんなが音楽をラジオとレコードで聴き、本を片手にカフェに出かけていた、いい時代だった。

※1 西洋のフレスコ画と日本の仏画に共通点を見出し、美しい神話を想起させる絵画を遺した夭折の画家の没後25年に合わせた展覧会。絵から伝わる静寂と安らぎが庭園美術館の雰囲気と最高にマッチしている。9月5日までの開催。
※2 発売時のオリジナル・ジャケットが内袋も含めて再現されているのがうれしい。当時の日本盤LPにつけられた帯も復刻されているので、手にした瞬間に完全にタイムスリップできる。腕ききのミュージシャンたちがスタジオに集い、奏でる音楽のグルーヴ感は決して機械の力では作り得ないものだ。発売はワーナーミュージック・ジャパン。


7月5日(月)世の中は野球賭博を巡る相撲協会の騒動と、消費税問題ばかりが取り沙汰されている参院選とワールドカップの報道で埋めつくされている感じがする。今月21日に日本発売される※3ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドのハイドパークでのライヴDVDで映し出されるのはまるで別世界。今月下旬に公開されるホセ・ルイス・ゲリン監督の※4「シルビアのいる街で」も台詞が極端に少なく、街のノイズを生かした音響空間と美しい画面がどことも知れぬ異空間へと連れていってくれた。ここしばらく聴き続けている※5ジュリー・ロンドンのCDも甘いノスタルジアの世界を浮遊させてくれる。自分の意思でスイッチをONにする携帯電話だけが僕と世の中をつなげている。金曜の夕方には重かった身体も嘘のように軽くなった。全く名前を知らなかったが、ペダル・スティール・ギターの達人ロバート・ランドルフの新作※6「ウイ・ウォーク・ディス・ロード」も休暇の気分にぴったりの素晴しい出来映え。クレジットを見たら、プロデューサーがTボーン・バーネットなのでなるほどと思いつつ、改めてマークする必要があると思った。そしてレオン・ラッセルもゲストとして参加しているそのCDが引き金になって本棚から取り出したのはジャック・ケルアックの「荒涼天使たち」。今年の夏は間違いなく“失われた時を求めて”過ごすことになりそうだ。

※3 昨年の6月にロンドンのハイドパークで5万人の観衆を集めて行われたコンサートのライヴDVDのタイトルは「ロンドン・コーリング」。何とあのクラッシュの名曲のカバーだ。詩は完全にケルアックの「オン・ザ・ロード」に通じる世界。「レディオ・ノーウェア」の歌詞には本当にぐっときた。発売はソニーミュージックジャパン・インターナショナル。
※4 ビクトル・エリセ監督が“今のスペインでもっとも優れた映画作家”と断言し、東京国際映画祭で旋風を巻き起こした2007年のスペインとフランスの合作映画。やっと公開…
※5 アンニュイな美貌と独特のハスキー・ヴォイスで一世を風靡したジュリー・ロンドンがリバティー・レコードに残した30枚のアルバムがオリジナル紙ジャケ・コレクションとして発売された。(EMIミュージック・ジャパン)ミリオンセラーを記録した「クライ・ミー・ア・リバー」からドアーズの「ハートに火をつけて」のカバーまで、一貫してやるせなくロマンティックなものにしてしまう魔法に僕はもう酔い続けている。
※6 ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドの名儀で発売されている。(ワーナーミュージック・ジャパン)ちょっと通好み。でもまぎれもなく本物!


7月6日(火)スペースFS汐留でマノエル・デ・オリヴェイラ監督の新作「ブロンド少女は過激に美しく」の試写を観る。1908年12月11日生まれのオリヴェイラが撮影中に100歳の誕生日を迎えた映画。それが全く枯れたところがなく、みずみずしさのある色っぽい仕上がりになっているのは驚きだ。9月の公開時に併映されるゴダールの短編「シャルロットとジュール」も思いがけない贈り物という感じだった。「勝手にしやがれ」が誕生する前にゴダールがジャン=ポール・ベルモンド主演で撮った短編。ヌーヴェル・ヴァーグの呼吸が全編に息づいているのがすごくいい。開映前のフランス映画社の代表、柴田さんの挨拶も映画を愛する人ならではのもので、何だかホッとした気分になる。その気分は夜、新宿のトルコ・レストラン“ボスボラス・ハサン”でのパパ・タラフマラの小池博史さんとの会食でも感じたもので、舞台から旅の話まで含めてクリエイティブで楽しい会話は4時間近く続いた。初めて小池さんと会って仕事をした時からもう23年余り。また、おもしろいことができそうな予感がしてきた。

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