立川直樹の内省日記

2010年2月20日(土)

2月15日(月)新聞のテレビ欄はオリンピック関連の番組で埋まっている。やれやれ、と思ったらWOWOWで朝の8時から赤木圭一郎生誕70周年記念と銘打って「邪魔者を消せ」をやっていた。これが意外な拾いもの。当時のアメリカのB級映画の匂いを漂わせた展開で、俳優も芸達者がそろっていたし、1960年、僕が10歳の頃の東京の景色がとても懐しかった。映画の後はまた資料のかたづけを続け、午後はアスミックエースで試写2本立で、ジョニー・トー監督、ジョニー・アリディ主演の「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」と、江國香織原作の「スイート・リトル・ライズ」。片やド派手な銃撃戦と暗黒街の住人たちが活写され、片やフレンチ・ヌーヴェルバーグを思わせる静かな映画だったが、冷たい雨の日に映画づけというのは悪くない。矢崎仁司という監督の存在を知ったのも収穫。機会があれば、他の作品も是非観てみたい。帰宅後はもはや日課になっている感すらある資料と雑誌、ファイルに本の整理。書斎のきれいな形が見え始めてきている。


2月16日(火)“週間現代”2月27日号は実に読み応えがあった。鳩山邦夫のスクープインタビュー「国民のみなさん、兄はもうダメです」に始まり、23ページの大特集<ああ民主党>はオリバー・ストーンの映画「ブッシュ」に勝るとも劣らないブラック・コメディの域に達していたし、“フェアレディZ”の産みの親として知られる片山豊氏の「トヨタよ、日産よ、ホンダよ キミたちはクルマでなくカネを作っている」は、それをそのままエンタテインメントの現況に置きかえたくなるような警鐘的ないい記事だった。スケジュールはきょうも比較的ゆったりしていて、“Va-tout”でのS氏とのランチ・ミーティング(エゾ鹿のステーキが絶品だった)とAUDI MUSIC MEETS ARTのミーティングのあとは、YASUDA ART LINKでタカハシカオリ展のパーティーを仕切り、締めは“Va-tout”で打上げという流れ。パーティもきてくれた人の顔ぶれといい、反響といい、満足すべきもので、“Va-tout”でのシャンパンも実においしく飲めた。昼も夜もだが、やはり“Va-tout”は居心地が良く、僕にとってはマフィア映画に出てくるたまり場のビストロになっている。定番の田舎風パテは絶対にTOKYOでベスト3に入るだろうし、今夜の真鯛のカルパッチョも野菜のフリットも実に普通でおいしかった。そしてパーティーの時から飲み続けていたので酩酊度も久々に高く、帰宅後はニュースを見ながらソファの上で2時間近く眠ってしまった。


2月17日(水)昨日の夕刊には「マイ・シャローナ」のヒットで知られるザ・ナックのリード・ヴォーカリスト、ダグ・ファイガーの死亡記事。朝刊にはEMIのアビイ・ロード・スタジオが売却されるという記事。本当に時代が加速度的に変化している。午後試写で観たベニチオ・デル・トロとアンソニー・ホプキンス共演の「ウルフマン」も子供の頃から親しんできた“狼男”の物語がこんなにスピード感のあふれるものになってしまうんだ、と思わされ、夜は押上で現在330メートルまで伸びている東京スカイツリーの下でバベルの塔そのものと言える近未来的光景に息をのまされた。そして押上のもつ焼“稲垣”で6時に始まった行方氏たちとの宴は、“稲垣”の後はアサヒビールスクエアのサロン“月灯り”に舞台を移して6時間余り。“週刊現代”に福田和也氏が書いていた“東京の正しい居酒屋”の記事を思い起こしながら、“下町の正統性”を理屈抜きで実感したが、帰宅後に途中から観たジェーン・フォンダ主演の名作「コールガール」もその気分とうまくつながっていった。共演のドナルド・サザーランドがセルジュ・ゲンズブールに似ていることにハッと気づいたり、ロイ・シャイダーの顔も見られたし、ヌメヌメとしたエロティックな質感が何とも魅力的だった。近いうちにDVDで仕入れて、ワインかリキュールでも飲みながら、その世界に思いっきり浸ってみようと思う。


2月18日(木)午前中は原稿書きと資料の整理。クイーンやイエスのライヴDVDをBGVにして、日課ともいえる作業が続いている。失われた都市を復元させ、時間をつなぎ合わせていく作業がとても楽しい。昼は帝国ホテルの“なだ万”でランチミーティング。6000円近く“和定食”のアンリーズナブルさにびっくりする。経営者もスタッフも横川潤さんの「恐慌下におけるA級の店選び究極の法則」を読んで、世の中の情況も含めて学習した方がいい。そして夕方は東京都写真美術館の“第2回恵比寿映像祭”のオープニングレセプション・特別鑑賞会に出かけたが、ジョン・ケージの1966年の作品「ヴァリエーションズ」を一番魅力的に感じている僕は、どこかにとどまろうとしているのかも知れない。僕にとっては62年から68年まで続いた「てなもんや三度笠」の印象が強力だった藤田まことの死亡記事がそこにオーバーラップしてきたのも実にシュール。記事によると、関西では60%、関東でも40%を越すお化け番組だったのである。夜はそんな気分をややひきづりながら“ネブワース1990”のDVD。フィル・コリンズや、レイ・クーパーが入ったエリック・クラプトンのバンド、ピンク・フロイド、ロバート・プラント…などの“生”のパフォーマンスを見ながら、いい時代だったとノスタルジアに浸る。こういう時は酔いが回るのも早い。


2月19日(金)オリンピック狂騒曲はあと何日続くのだろう。午後は「ニンジャ・アサシン」と「オーケストラ」という、およそ両極端にあるような2本の試写に出かけ、夜はオーチャード・ホールで三枝成彰さんのオペラ「忠臣蔵」外伝。オペラの後は久々に“開化亭”に出かけ、“PB”に寄ったが、完全にオリンピックには距離を置いている。美談優先の報道も何だか空々しい。そして、ここまで血が吹き出し、首や手や足が斬られ、胴体まで真っ二つとなると、R-18指定になるのかと、思わず苦笑いしたい感じになった「ニンジャ・アサシン」をオリンピック好きの人たちが観たらどんな顔をしてどんなコメントをするのだろうと僕はふと思った。試写室で隣にいた“謎の老人”は試写室で会った浅田氏の情報によれば映画の中では役小角(えんのおづぬ)を怪演していたショー・コスギの父親で、おつきの人たちの行動も映画じみていたが、中々見られぬ光景だった。劇場清掃員として働く元・天才指揮者がボリショイ交響楽団の代表と偽ってモスクワからパリのシャトレ座に乗り込む話が抜群のストーリー展開と素晴しい音楽で描かれた「オーケストラ」(原題は「コンサート」)は、ラスト近くで思わず涙してしまった傑作。監督のラデュ・ミヘイレアニュはルーマニア生まれの52歳ということだが、今週は「スイート・リトル・ライズ」の矢崎仁司監督もそうであったように、魅力と才能を持った監督に出会えた週だった。何だか得した気分になるし、まだまだ知らないことが沢山ある。発見と出会いは本当に楽しい。


2月20日(土)資料を整理していたら出てきたチャン・イーモウの1994年の映画「活きる」を観る。“暴帝”毛沢東の恐怖時代を生き抜いた中国庶民の物語。チャン・イーモウならではの見事な作品だったが、朝のテレビで上海の不動産バブルの特集を見て半日も経っていなかったのでとても奇妙な感覚に襲われた。まだ映画に残っていた古き良き中国の香りを知っている僕は最近の中国の―一部の人かも知れないが―狂乱ぶりを本当に冷ややかに見つめざるを得ない。これも出てきたDVDで観た「エルヴィス、アロハ・フロム・ハワイ」が収録された1973年は中国はまだ文化大革命のさ中だったのだ。また、こんなふうに自由に時間旅行を楽しめるのも時代の進歩なのだが、キング・クリムゾンの「アイズ・ワイド・オープン」のライヴを観て刺激を受けた僕は遂にはミルチャ・エリアーデの「ホーニヒ・ベルガ―博士の秘密」にはまってしまった。1983年の夏に“エディシオン・アルシーヴ”から刊行された、帯によれば“幻のタントラ・マジック・ノベルズ”。夢中になって時のたつのも忘れ、ハットフィールド&ノースのCDなどもそれに拍車をかけたが、最後にはカレル・ボレリー・トリオの新作「シークレット・ライフ」が現実の世界に僕を引き戻してくれた。今月発売のとても魅力的なピアノ・ジャズ。でも、ここにも神秘的な響きは存在している。

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