立川直樹の内省日記

2010年1月11日(月)

1月6日(水)仕事が始まる。喜多郎のプロジェクトのミーティングや“よしおか”で佐藤クンや玉田さんとの新年会。試写も1本こなしたが、新年一番の映画がドイツの奇才ヴェルナー・ヘルツォークとニコラス・ケイジが組んだ「バッド・ルーテナント」というのは、思わず苦笑いが出るくらいに今年だけでなく、今後の方向を示唆していた。決して完璧な映画ではないが、僕は好きだ。ドラッグまみれのニコラス・ケイジも久しぶりにいい。「リーヴィング・ラスヴェガス」に通じる魅力があった。そして、正月の“ひきこもり”でTVとの線の引き方を大幅に変えたので、藤井財務大臣の辞任騒ぎもああそうですかという感じ。“よしおか”の帰りに新年の挨拶がてら顔を出した“来夢来人”や“ROCK AROUND THE CLOCK”に集う人々の方が僕にはずっとリアルだ。

1月7日(木)仕事開始2日目。1時からドイツ映画「アイガ―北壁」の試写を観た後、弥生美術館で“鰭崎英朋展”、神田のgallery福果で“ドゥシャン・カーライ「七つの大罪」を中心に版画小品展”、ドイツ大使館“ベルリンの壁崩壊20周年記念写真展”を見てから、6時にはライカ銀座サロンでの“内田裕也 by Shingo Wakagi”の内覧会、レセプションに顔を出す。お正月早々の仕込みというところだろうか。TAPでも紹介するつもりだが、生誕130年を記念して企画された明治・大正の挿絵界を生きた鰭崎英朋の展覧会は内容がとても充実していて本当に楽しめたし、若木信吾が撮った内田裕也はカリスマを超えてモンスターみたいだった。夜は“寿”でTGVの内藤さんと新年会。久しぶりにたかぶも出てきたし、冬の鴨はやっぱり絶品。そしておいしいものとお酒が好きな人との宴席というのは理屈抜きで楽しい。浅草のあとは改装なった“FLAT”でジントニック。バーズの“ミスタータンブリン・マン”が思わず笑みが出てしまうくらいにぴったりとはまった。

1月8日(金)19時、新国立劇場・中劇場の客席で漆黒の闇に包まれた時、本当に劇場の闇が好きだと思った。そして鳴り始めた林英哲の太鼓。フラメンコの大御所、小松原庸子のスペイン舞踊団創立40周年記念公演として林英哲と、ピアノ、フラメンコの可能性を追求している若きクリエイター、ダビ・ペーニャ・ドランテがコラボレート、スペインからの名舞踊手も加わって行われた“FLAMENCO ひびき―西と東―”は小松原庸子さんがチラシに書いていたように「…人々の心を湧き立てる、かつて無い舞台…」だったが、タイミングよく夕刊に載っていた記事の中でドランテが口にしていた「偉大な芸術家は、無意識のうちに多様な文化に立ち向かい、それらを融合していく」という言葉は、今までに見たこともなかったパフォーマンスの素晴しさを裏付けているように思えた。ギャラリー旬の“幸義明展”、スパイラル・ガーデンの“上出・九谷・恵悟展「九谷焼コネクション」”、パルコファクトリーの“みうらじゅんの100冊展”、ポスターハリスギャラリーの“東學墨画展「天妖奇譚」”は順番も含めてバランスのいい前菜だった。新国立劇場からの帰りの車で聴いたジョン・コルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」もぴったりとフィット。昼の“電通年賀会”から約12時間が経っていた。仕事始めからまだ3日だというのに、早くもエンジン全開という感じ。目も耳もすこぶる快調だ。

1月9日(土)昼間は60年代のベンチャーズのCDなどをBGMにしてずっとかたづけものをし(遺跡発掘作業快調!!)、夜は池袋の東京芸術劇場に出かける。小ホール2で奥秀太郎さん演出の「赤い靴」。お得意の映像をうまく使った舞台は、ちょっと他にはない感じで異次元に連れていかれる。次回はシンプルなストーリー展開で映像をシンクロさせた演出の妙を楽しんでみたいと思った。帰宅後はチーズをあてにワインを飲みながら、夕刊を読み“ニュースキャスター”を見る。この番組のビートたけしは本当におもしろい。司会進行の安住さんとの相性もいいし、固定された3人のコメンテーターとのバランスもいいのだろう。今週は試写やDVD・ビデオ、それにTV放映分も含めて14本も映画を観て、通常のTV番組は新年からそうしようと思ったこともあって大分観なくなったが、この土曜の10時というのは外せない感じだ。人を含めて、これには人間の生理感覚が大きく関係しているかも知れない。夕刊にはプリンを明治時代に試作した和菓子職人の歴史をヒントにした人情時代劇が16日から下北沢で上映されるという記事。職人の名前が祖父と同じ米蔵ということだけでなく、妙にそそられる内容だった。

1月10日(日)BSフジの「2010+世界を動かす創造力・日本映画」でウェイン・ワンがとてもいいことを言っていた。「今のハリウッド映画はマクドナルドみたい…」。彼は小津安二郎のスローな録り方の素晴しさを語り、「スモーク」が小津から影響を受けたことも語っていたが、小津と黒沢明、今村昌平という3人の監督の偉大さを分析し、スコセッシやジョン・ウーなども登場する、いい番組だった。夜は日曜美術館で「作家高村薫語るマーク・ロスコ」を観てから、録画しておいた「波止場」。マーロン・ブランド若き日の名作だが、共演のエヴァ・マリー・セイントのチャーミングさとリー・J・コップの敵役の憎らしさを演出する名匠エリア・カザンの力に唸らされ、ボリス・カウフマンの撮影とレナード・バーンスタインの音楽もプロの技の一言に尽きる。原作・脚本はバッド・シュールバーグ。こういう強烈なインパクトのあるものを見てしまうと、もう時代や流行なんて本当に関係ないと思うが、夜11時半からNHKハイビジョンで放映されたデヴィッド・ギルモアのグダニスク造船所でのライヴがそんな気持に拍車をかけた。既にDVDでは観ていたが、その素晴しさは超一級品。司会クリス・ペプラーのピンク・フロイドに対するコメントもピリッときまっていた。知は力なり……

1月11日(月)三連休というのは、確実に人を浮世離れした気分にさせてくれる。自分で休みをとるのと、世間が休日になっているのでは、何かが根本的に違うのである。そんな気分にまたぴったりとはまったのが数日前に録画しておいた「ニュー・シネマ・パラダイス完全版」。1989年の映画で勿論見ていたが、大きくなったトトが30年ぶりにシシリアに帰郷するシーンは、今この年令で見ると胸の奥に深く突き刺さる感じがした。夜は“宗玄”の大吟醸にからすみや松前漬を食べて夕食がわり。明日からはまた宴席が続くので、知らず知らずのうちにバランスをとっている感じだ。8時近くに始まったWBAダブルタイトルマッチは内山高志とファン・カルロス・サルガドの試合が素晴しかった。昨年10月、当時の王者リナレスに番狂わせとも言われた衝撃の1回TKO勝ちでチャンピオンになったサルガドを最終2ラウンドの残り12秒で、ラッシュでTKOした内山。さわやかな笑顔がとても印象的だったが、できれば録画中継ではなく、生中継で見たかった。ボクシングは時間の微妙な流れも魅力のうちなのである。

Page Top▲

  • TOP
  • PROFILE
  • 立川直樹の内省日記
  • TIME WAITS FOR NOR ONE
  • WORKS
  • ARCHIVE
  • ABOUT THIS SITE