立川直樹の内省日記

2009年12月11日(金)

12月5日(土)ちょうど時間があり、映画でもと思ってほとんど期待もせずに見た「バウンド」が大当たり。ウォシャウスキー兄弟の作品で、レズの女がマフィアの金を奪う話が人物の設定と関係、展開も含めて“おもしろい映画”を作ることにかけては天才級の兄弟が作っただけのことはある見事な1本。アレサ・フランクリンとレイ・チャールズの曲の使い方もうまく、エンディング・ロールにトム・ジョーンズの「シーズ・ア・レディ」を流すセンスはさすがウォシャウスキー。その後“報道特集NEXT”で取り上げていた“ブラックシート”と呼ばれる怪し気な“黒い札束”の話もB級映画のネタみたいでおもしろかったし、フィギュアスケートのグランプリファイナルもK1グランプリ決勝戦も十分に楽しめた。バダ・ハリにセーム・シュルト、アリスター・オーフレイム……個性も力もあるファイターたちのバトルは予想もつかない展開になるので、本当におもしろかった。

12月7日(月)朝のTVは石川遼が史上最年少で賞金王になったニュースと押尾学の逮捕問題一色。誰かも書いていたが、いつからゴルフはこんなに“お金”のことばかりが取沙汰されるスポーツになってしまったのかと、ゴルフをやらない僕などは何とも冷ややかに見てしまう。そして大学に向かう時、麻布警察署の前を通ると、押尾学が連行されるのを待ち構えるマスコミの群れが目に入り、全く何て国になってしまったんだろうと、本当に嘆かわしくなってしまったが、2CVの中で流れるボブ・ディランの「TIME OUT OF MIND」がそんな気分を癒してくれる。その後に聞いたホセ・コランジェロの「クンパルシータ組曲」(事務所のかたづけをしていたら、ビデオの奥から現れた…)も枯葉が舞う景色にぴったりと合って、現実逃避をさせてくれた。午後見た「フォース・カインド」は、言葉では形容し難い衝撃的な映画。映画表現というのはここまでできるものなのかと感心させられ、また恐ろしくもなったが、1時間余り完全に異次元に連れていかれた。夜は六本木の“味満ん”でTGVの内藤さんと会食。歌舞伎の話に始まり、上海万博や何やらと話がとんでとても楽しい時間だったが、てっさから白子焼、唐揚と続いたふぐも絶品だった。その後は内藤さんの案内で“JUS de PECHE”なるBARへ。生のざくろを絞ってシャンパンと合わせた最初の1杯から栗のカクテル、塩のカクテル(塩とリコッタチーズの合い性が抜群)、それに150年前に作られたシャルトルーズまでの流れは、もはや桃源郷に遊ぶような感じだった。特にシャルトルーズの香りと味は筆舌に尽し難いもの。1935年にリコルクされたラベルも貼ってあったが、こういうお酒は間違いなく人の心を尋常なものでなくしてしまう。心地良い酔いとともに、いろいろな意味でバラエティに富んだ1日が終わった。

12月8日(火)10時からロイヤルパーク・ホテルで帰国中の喜多郎とミーティング。18階のMEETING ROOMから見える東京の景色を背景に3年計画のプロジェクトの話をする。3月の中国ツアー、4月の御柱祭、夏にリリースしようかという「空海4」に浅草寺のイベントetc…頭の中でアイデアが広がっていき、喜多郎のナチュラルなバイブレーションも気持良く、いい仕事になりそうな予感がする。午後は試写の予定をやめ、事務所でかたづけものとミーティング。喜多郎の中国ツアーと御柱祭のパフォーマンスを3Dで撮ったらおもしろいという話で大いに盛り上がる。夜は“adding:blue”でAudiの高岡さんと先月のイベントの打上げを兼ねて、スタッフの美女たちも混じえて会食。最後をジビエの季節にぴったりの山シギのローストでしめた食事も会話も実に楽しく、3時間以上の時がアッという間に過ぎていった。帰りは“PB”に流れてジェットソーダ。「ジョン・レノンの命日だから」と言うとフクちゃんが“Rock'N'ROLL”をかけてくれたが、その時フラリと盟友、森永博志が姿を現した。高岡さんは桐朋の中学高校時代の後輩だったし、何かが不思議な感じでつながっている。帰宅して開いた夕刊でフランス革命前の1788年のコニャック“クロ・デュ・グリフィエ”が25000ユーロ(約330万円)で落札されたという記事を目にした時、昨夜のシャルトルーズの甘美な舌の記憶がフワーッと甦ってきた。モニターの中で演奏しているのはオスカー・ピーターソン。楽しい夜が続いている。


12月10日(木)久しぶりに“オステリア”でランチミーティング。前菜からパスタ、メインまで用意しておいてくれたメニューは申し分なかったが、猪のレバーのペーストや、モツ類をポトフ仕立てにしたものがとてもおいしく、昨夜これも久々の“弥生”で食べたすっぽんの丸鍋や焼きがきの舌の記憶とつながると、本当に濃いものが好きだなと思わず苦笑いしてしまう。そして午後は2つミーティングをこなし、夜はプリンスパークタワーで亡き加藤和彦を偲ぶ会“KKミーティング”に出席する。コンベンションホールには400人近い人。懐かしい人たちともたくさん会えたが、冒頭で挨拶をした北山修も言っていた通り、何でまた自殺なんかしたんだろうと改めて思う。あの屈託のない笑顔とともにマイアミやローマなどで一緒に過ごした日々が懐しく思い出された。飯倉キャンティーから京都祇園ささ木まで10店以上を超える名店の料理人が特別に集まって振るまわれた料理というのも加藤クンらしかったが、川原町泉屋の焼き鮎は長良川のそばにある店で食べた悦楽とまではいかなかったが、そのおいしさは格別だった。ささ木の太巻きも絶品。何だか昨日から食べてばかりいる感じがするが、パーティーの終了後、MISAさんやYUMINGと一緒に西麻布のキャンティーに流れ、大した量ではないにせよ、生ガキや小肌のマリネからデザートまで食べているのだから身体はかなりかわいそうかも知れない。12時少し前には帰宅したが、昨夜の夜遊びもたたり、眠気は強力で、紙ジャケで発売されたイギー・ポップ&ストゥージスの1969年のデビューアルバムを聴いても精神は覚醒しなかった。ただ、「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ドッグ」や「ノー・ファン」にしろ、頭の中にあった印象ほどパンクで爆発的ではなく、妙に気持良く感じられるのは、世の中がそれだけ雑音でノイジーになっているからではないだろうか。

12月11日(金)朝から冷たい雨。その中で事務所から大量のゴミを出す。丸10年以上、内部をかたづけていなかったので、この1ヶ月アンコールワットの遺跡の修復のような作業を続けていたが、すっきりした事務所の中は何だか臭いも違う。あとはファイルや資料の整理をすませれば、相当にいい状態になる。午後は復元された丸の内の三菱一号館で竣工記念の展覧会「一丁倫敦と丸の内スタイル展」を見てから、横浜美術館へ向かう。束芋の展覧会“断面の世代”は全て新作の5点の大型映像インスタレーションが本当に素晴しく、彼女の特異な才能に唸らされた。世に出るきっかけになったのが、僕も審査員を務めていたキリン・コンテンポラリー・アワードだったというのはどこか誇らしい気分ではある。帰りには“コレクション展”も覗いたが、“ダリとシュルレアリスムの部屋”や“イサム・ノグチ”などはいつ見ても圧倒的な魅力があり、冷たい雨の日とはいえ、いい午後を過ごせた気分になった。夜は西麻布の“六根”で仕事の話がメインの会食。仕事を個人的なレベルのものにウエイトをおくというもくろみにまたひとつハードルがという感じになってしまったが、人生というのはそんなに計画通りにはいかないものなのかも知れない。帰宅して夕刊を開くと、“またしても休刊”の見出しで「をちこち」という隔月刊の雑誌休刊の話と、ジョン・レノン・ミュージアムが来秋閉館になってしまうかも知れないという記事。本当にアナログ的なものがまるで舞台や店のライトが消えていくフィナーレや店閉まいの時のように、姿を消していっている。リストを作ったら凄い量になりそうだ。

Page Top▲

  • TOP
  • PROFILE
  • 立川直樹の内省日記
  • TIME WAITS FOR NOR ONE
  • WORKS
  • ARCHIVE
  • ABOUT THIS SITE