立川直樹の内省日記

2009年11月20日(金)

11月15日(日)何の予定も入れなかったウイークエンド。午後は楽しみにしていたマニー・パッキャオとミゲール・コットの試合を見る。パッチャオ強し!CDはジョス・ストーンの「カラー・ミー・フリー」とロビー・ウイリアムスの「ヴィデオ・スターの悲劇」が印象に残る。ロビーの新作のタイトルが何とも自虐的。プロデューサーのトレヴァー・ホーンと楽しくクリエイティブしている。原稿もかたずけものもゆったりしたペースで進み、“SHOWBIZ”が始まる頃には部屋に風が通った感じになった。映画の全米TOPは相変わらずのノリ。ちょっと気になっていた「アメリア」が10位にランクインしていたが、ヒラリー・スワンクの主演じゃあね、という感じ。初登場1位のマイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」がとてもまともに見えたのは、いかに他の映画が嘘臭いことの裏返しかも知れない。マイケルがコンサートを創り上げていく独創的なプロセス。2週間の限定公開の予定は5週間に延長されたというが、日本での興行成績も快調なようだ。この映画ですっかりマイケルの魅力と才能を再認識した僕としては素直にうれしい。

11月16日(月)世の中広しと言えども朝早くにクリードを爆音で聞きながら大学に講議に向かう教授なんてまずいないだろう。クリードの約8年ぶりの新作、素晴しくタフでヘヴィでエネルギーが体内に注入される。運転もフランク・マーティンとはいかないが気合いが入り、そのテンションは音楽がジェファーソン・エアプレインに変わっても夕方まで続いた。ミーティングも移動もうまく組み込まれて…。そして、夜は“寿”で渋谷陽一さんと会食。定番の肝焼きや鴨に今夜は、ミツルくんが獲ってきてくれたきじが加わり、これが絶品だった。話の方も楽しく盛り上がり、きじ酒もいい感じで効いた。ニュースは相変らずの感じ。トゥーサンの「浴室」をようやく終え、池澤夏樹の「カデナ」を読み始めるが、決して狙いではなくニュースと妙にシンクロしているのがタイミングがいい。滑り出しはとてもいい。

11月17日(火)朝から冷たい雨。雨が気持が落ち着いていいと思う日もあれば、憂鬱な気分になる日もある。今日は後者だ。午前中からミルバとアストル・ピアソラのライヴ盤など聞いてしまったのもいけなかったかも知れない。1988年6月26日の中野サンプラザホールにおけるライヴレコーディング。その日、僕は幸運にも客席にいたが、もう今はこんな音楽を聞くことはほとんどできなくなっている。でも、ミーティングはノスタルジックな気分にもならずにきっちりとこなせる。イタリアのトランペッター、ファブリッツィオ・ボッソのフレディ・ハバードへ捧げたCDが大いに助けになった気もする。雨が強くなってきた中で行った根津美術館新創開館を記念した特別展第2部の“根津青山の茶の湯―初代根津嘉一郎の人と茶と道具”も浮世離れした世界を垣間見れて完全に時空が超えられた。忙しくスケジュールをこなす中ではこういう時間は絶対に必要だ。そして帰宅後、夕刊を読んでいたら、藤島大さんの朝日新聞の連載<スポーツが呼んでいる>の中で“ビデオ判定~誤審も野球の一部だ”というぐっとくる記事。「…監督の抗議。中断。再開。意地の激突。いまにして思えば野球の歴史の大切な一コマではないか。」としめくくらられた文章には大いに共感できたが、大相撲だってビデオ判定というのはナンセンスだ。最近、フリーダイヤルの音声案内と格闘して気分を害した僕としては、人間の力と声が心底失くなって欲しくないと思ったのである。

11月18日(水)痛風が出たために少し量を控え目にしていたら、何だか酒が弱くなってしまった。日本酒の酔いが回り、早くベッドに入ってしまったので深夜1時前に目が醒めてしまう。この時間は17日の続きなのか、それとも18日の始まりなのか、つまらないことを考えながらちょうどBSⅡでやっていた「ビートルズ・ファーストライヴ・インアメリカ」を観始める。カルト・フィルム「グレイ・ガーデンズ」にも登場していたドキュメンタリー映画の権威であるアルバートとデヴィッドのメイズルス兄弟が撮った作品。とてもおもしろく、真夜中に1964年に一気にトリップさせられてしまう。こういうのに捕まるとヤバイと思いながら新聞のテレビ欄を見ると“洋楽ライヴ”の文字。これは何だろうと思ってチャンネルを合わせると、ジェームス・ブラウンのラスヴェガスにある“ハウス・オブ・ザ・ブルース”のライヴが始まった。66歳の“ソウルの帝王”がソウル・ジェネラルズなるバンドと、ビタースウィーツなるコーラス・グループを従えて展開するライヴはサービス満点で深夜の娯楽としては申し分なし。ライヴが始まる前に「技術の進歩は怖くない。技術が俺を追いかけてる」とうたまう御大JBが大好きな「トライ・ミー」を歌った後、「昔に戻るぞ」と言って始まった「プリズナー・オブ・ラブ」には涙が出そうになった。痛風は怖いがビールから始まってブランデー・コークを3杯。偶然にも飲物が横須賀の思い出とつながった。
終わったのは4時。3時間ほど眠り、大学に向かったが、天気が良くて気分もハイで、秋の1日はとても平凡に過ぎていった。夜は事務所でHOTEIくんの新作“MODERN TIMES ROCK'N'ROLL”に合わせて作る新聞の最終チェックをした後、久々の“PB”。J.D.サウザーやアート・ガーファンクルの歌が気分にぴったりと会い、偶然現われたスタイリストの大久保クンたちとのヨタ話も盛り上がり楽しい夜になった。ラス・メイヤーからイージー・ライダー、アルヴィルから池玲子……何て節操がないんだろう…

11月20日(金)昨日は久しぶりに深酒をして、倒れるようにベッドに入ってしまった。深酒の場所は“ビーヴィー”。サングリアに始まり、ブロセッコ、“ヴェルヴェット・デヴィル”なる魅力的な名前の赤ワインを飲みながら、定番のトリュフ枝豆に始まり、スズキのカルパッチョ、アヒージョ…と続いた4人の小宴は、「愛の嵐」からマンディアルグまで話が次々と展開していく楽しいもので、時間のたち方も夢幻的だった。3つのミーティングだけして、ずっと事務所の掃除をし、かなりいらないものがチェック出来て、軽くなれていたことも、そんな気分に拍車をかけることになったのかも知れない。きょうもスケジュールは入れず、出かけたのは、東京都写真美術館だけ。“日本の写真家たちが見つめた異国世界”というサブタイトルがついた“旅・異邦へ”を見るためだったが、木村伊兵衛が撮った1954年のパリとか渡辺義雄が撮った1956年のフィレンツェ、名取洋之助の1937年のアメリカなど古き良き時代の異邦は素晴しく魅力的で、ふと初めてパリに行った時のことをノスタルジックに思い出した。まだ、写真にあった匂いが確実に残っていて、異邦人の感覚をたっぷり味わったことをとてもよく覚えている。それに対して、ここ10年ほどの間、欧米は僕にとってほとんど魅力を感じない、単なる仕事をする場所になってしまった。それは香港をはじめとするアジアも同様。どこに行ってもCNNにMTV、ところによってはNHKまで受信できる。国の個性もどんどん失われているし、スピード感も余り差が失くなってしまった。数日前にFENで名曲“DO IT AGAIN”が流れてきてぐっときたので、これはと思って久しぶりにスティーリー・ダンのCDをセットしてみたら、ロサンゼルスでの楽しかった日々のことがフラッシュバックしてきた。スティーリー・ダンの前に聞いたザ・フレーミング・リップスの最新作「エンプリオニック」のサイケデリックなブッ飛び方も最高だった。

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