立川直樹の内省日記

2011年3月31日(木)

3月23日(水)原発事故に端をなした放射能騒動は遂に水にまで及んできた。昼間の打合せでも、コンサートやイベントのキャンセルや延期問題の話になり、夜“リングア・オチアイ”での会食でも、一体世の中はどうなってしまうのだろうかという話になった。何だか近未来SF映画の中で暮らしているような感覚。街には人も車も本当に少なくなった。


3月24日(木)朝刊にエリザベス・テーラーの死亡記事。79歳。僕が子供の頃からの“銀幕の大スター”なのでもっと高齢だと思っていた。そして放射能騒動はますますひどくなっている感があるが、東京から離れる気もひきこもる気もなく、午前中は東京オペラシティアートギャラリーに曽根裕展<Perfect Moment>を見に出かけ、午後はパルコ・ファクトリーでデニス・モリス写真展<A BITTA PIL>と、パルコ劇場で三谷幸喜作・演出の「国民の映画」を見る。1942年、第2次大戦下のベルリンにあったゲッペルスの別荘を舞台にくりひろげられた舞台は圧倒的な素晴しさ。写真展ではデニス・モリス本人とも会えたし、うまくレイアウトされたPILの写真は往時のロンドンにノスタルジックな旅をさせてくれた。その後は“moph”で山本宇一さんたちとクイーンの“手をとりあえって”プロジェクトのミーティング。夜は西麻布の“やわら木”でTOKYO FMの延江さんとニッポン放送の田中さんたちと“ラジオの力”を示すプロジェクトをやろうと考える飲み会。熊本の酒“香露”と馬刺しの相性が抜群で話も盛り上がり、気持良く酔えた。帰りには久々の“PB”。開店時間は当分の間、10時から3時になるというが、変わらない安心感があった。


3月25日(金)仕方のないことだが、ニュースが暗い。それとは対照的な青空の下を横浜に向かい、みなとみらいホールの下見をする。昼は久しぶりに中華街に寄って“同発”で昼食。ここは昔と変わっていないが、中華街は何だか安っぽい観光地のようになってしまった。昼食後はドン・ヘンリーの歌を聞きながら、東京に戻り、上野の森美術館で平面美術の領域で優れた成果をあげつつある若い作家たちを支援する“VOCA展2011”を見てから、SCAIの安部典子の展覧会も覗く。不思議な魅力のある作品が静寂の中で並んでいた。夕方には事務所で、うまく進むとおもしろくなりそうな開発プロジェクトの打合せ。夜はROCK AROUND THE CLOCKの“クイーン・カフェ”に集って小宴会。クイーンの音楽力の強さと、会話が弾んだこともあって、少し飲み過ぎたかも知れない。ジントニックから始めて、ビール、赤ワインと、気分にまかせてチャンポンにしたのもたたった感じがする。


3月26日(土)この週末、何も予定を入れていない。かたづけものを続けなければならないし、ひとりきりの時間が必要だ。選んだCDはフルトヴェングラーがウィーン・フィルを指揮したブラームス。時間がゆったりと過ぎていく。そして、週刊文春と週刊新潮を読んだが、震災や原発騒動についてテレビや新聞の報道とはまた違った視点で分析したり、書いたりしているのが興味深かった。情報の正しさというのは何を基準にすればいいのだろうか……


3月27日(日)6時過ぎに目が醒める。原発と震災の記事で埋めつくされた朝刊の片隅に沖山秀子さんの死亡記事。存在感のある魅力的な女優さんだった。そしてまずはテレビで“時事放談”。増田・元岩手県知事と浜矩子・同志社大学教授の会話はよくかみあっていた。その後、テレビはどの番組も原発と震災の話題に終始しているので、わからなくはないと思いながらも音楽と本の世界に逃避する。午前中はカエターノ・ヴェローゾのライヴを聞きながら、開高健の「ロマネ・コンティ、一九三五年」。午後はBS2でストーンズの「シャイン・ア・ライト」を見た後は、フルトヴェングラーのブラームスとワグナーを聞きながら、バタイユがオーシュ卿の変名で書いた「眼球譚」と山口椿の「おとなの国語」を読む。デカダンとエロスがシンクロする、何だか苦笑いするくらいに凄い午後だが、ストーンズがバディ・ガイを加えて演った「シャンパン&リーファー」の強力な歌詞もシンクロし、すっかりハイになって夕暮れを迎えた。こうなると自然にワインに手がのびる。「眼球譚」にはさまっていたサバト館の図書目録に載っていた「自由と、花と、書物と、そして月があれば、誰とても完全な幸せに浸らずにはおれようか」という文章に、音楽と酒をつけ加えれば、何とか暮らしていけそうな気分になれる。


3月28日(月)テレビや新聞の報道と、何だか力のない街の様子。どうしても元気がでなくなる。気分転換になるかと思った3時半からの試写※116「ブルーバレンタイン」も間違いなく“いい映画”だが、ラストの何とも言えない重さがのしかかってきた。そして、夕方デニス・モリスの写真展を覗こうと、フライヤーを頼りに“ROCKET”を目ざしたが、入りくんだ原宿の裏道を2CVで走っても発見できず、やれやれという感じ。夜は里中さんと六本木のノースタワーの裏にあるスペイン料理屋“Amore de Gaudi”でサングリアやカヴァを飲みながら、タパスをつまんだが、この“内省日記”が2月23日を最後に更新されていないことを教えられてまたがっくり……これって何なんだろうと思いながら帰宅してテレビをつけるとまた原発と震災の報道……妙な負のスパイラルに捕まりそうになった1日だった。

※116 監督・脚本はデビュー作「BROTHER TIED」が「視覚表現の天才」と評され話題を呼んだデレク・シアンフランス。その彼が11年以上もかけて改訂し続けた緻密な脚本に魅了され、出演を熱望したのはライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズ。過去と現在が交錯し、愛の終りと誕生が重なり合うラブストーリーの意欲的な傑作が創り上げられた。4月23日公開。(クロックワークス)


3月29日(火)和太鼓グループ“TAO”の本拠地である久住の“GRANDIOSO TAO”に行くために羽田から阿蘇熊本空港に向かう。熊本に到着すると桜は五分咲き、のどかな雰囲気で東京から脱出した感覚。遅めの昼食を“あそ路”なる郷土料理の店でとってから、久住に着くとそこはまた別世界で、南米かどこかにいる気分になる。そして野外劇場で観客は3人だけという贅沢なウェルカム・ライヴを楽しみ、夜はバーベキューを囲む宴会。ファウンダー/ディレクターの藤高さんのお招きで決めた旅だったが、共同生活をしているメンバーもとても気分のいい人たちで、しばし暗い東京を忘れることができた。


3月30日(水)朝6時、窓からさし込む光と太鼓の音で目を醒ます。部屋から見える景色とシンクロする太鼓の規則的なリズムがゴダールの「ウィークエンド」の一場面を不意にフラッシュバックさせる。それからゆっくりと石のお風呂に入り、ゆったりとした流れで1日が過ぎる。昼過ぎには野焼きも行われ、ひとつひとつの出来事が僕を現実の世界から浮遊させていった。TAOとは何かおもしろい“企み”ができそうだ。


3月31日(木)東京に戻る。阿蘇くじゅう国立公園の中にある“GRANDIOSO TAO”から空港までのドライヴは雄大な景色と静けさが映画の中を走っているような気分にさせてくれた。でも、東京では現実に戻る。打合せをしていても、必ずキャンセルなどの話からいつまでこの情況が続くのだろうと、どうしても暗い気分になってしまう。特に原発問題。これは正確な情報もつかめないし、僕達は何か見えないものに翻弄されている。そしてデジタルというのは、こんな時どのくらい力があるものなのだろうか。Good bye Cruel World!


[2011/9/13の三島からの追記]
先週、立川さんに会ったら、「おまえが中途半端に内省日記を休止
させるから、ぼくが入院したとか死んだんじゃないかとかって噂が
流れてるらしいぞ!」とおっしゃる。
「ピンピンしてんだからいいじゃないっすか」と笑って流してはみたものの、
今、休止前の最後の方を読み直してみると確かに微妙に暗いですね。
大震災の前の日には倒れていらっしゃるし、オーラスは
「Good bye Cruel World!」で締めくくられてるし…。
これだと心配なさる方もいらっしゃるかもしれないな、と反省しました。はい。

というわけで、立川先生、全然、元気です。
そりゃあ、7~8年前に比べれば多少は丸くなってる部分はあるけど、
基本は何も変わってません。
相変わらず、毎日おいしいものを食べてお酒を飲んでアートやエンターテイメントに浸って、そしていろんなところを飛び回っていらっしゃいます。
まだ日本が元気だった頃にぼくたちが憧れたあの怪人ぶりは今も健在で、
それは間違いなく、今のぼくたちにとっての“希望”そのものなんだと思います。

この内省日記は一時休止ということにしましたが、その後、5月からは
Facebookで『立川直樹Facebookページ』というものを始めています
(そのあたりのいきさつはこちらをご覧ください)。
立川直樹Facebookページのスタートにあたって

立川直樹Facebookページは立川さんの日記的メモ、私が立川さんに
聞いたことをまとめた聞き書き、映画や音楽についてのコメントや
「立川直樹動画」など盛りだくさんの内容となっております。
そしてみなさんの「いいね!」やコメントを立川さんはたいへん楽しみにしてい
らっしゃいますので(そういうところはもしかしたらちょっとだけお年をとられたのかもしれません…)、是非、こちらの方をご覧くださいませ。
そしてたくさんのレスポンスを、よろしくお願いいたします。

立川直樹Facebookページ
https://www.facebook.com/tachikawanaoki

Page Top▲

  • TOP
  • PROFILE
  • 立川直樹の内省日記
  • TIME WAITS FOR NOR ONE
  • WORKS
  • ARCHIVE
  • ABOUT THIS SITE