立川直樹の内省日記

2011年3月22日(火)

3月13日(日)テレビも新聞も報道は大地震のみ。テレビを見ていると余りの大惨状に胸は痛み、かつ体調も思わしくない。心配なので、慈恵医大病院に行くと、偶然救急車で運び込まれた時の先生と看護婦さんがいて、症状を話すと、倒れて頭を打ってから数日はそういう感じ、的な説明をされ、安心して帰宅する。こういう時のお医者さまの一言は、何事にも勝る。昼食も軽くすませ、午後はテレビの地震報道をひと休みして、EGO-WRAPPIN'の東京キネマ倶楽部でのLIVE・DVDと、資料用に送ってもらった若松孝二監督の映画「17歳の地図・少年は何を見たのか」と、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」の40周年記念盤についているドキュメンタリーDVDを見る。そして、身体のことを考え(こんなこと考えるのは初めてかも知れない)、グローヴ座で見るつもりだった「ピンク・スパイダー」をキャンセルし、テレビの地震報道をほさんで、リトルモアの浅倉さんが送ってくれたハンター・S・トンプソンの「ヘルズ・エンジェルズ」を読み始める。おもしろい。ちょっと気分はハイになったが、余り無理をせずに9時過ぎには本をとじ、ベッドに入る。


3月14日(月)東北関東大震災の影響で世の中はほとんど停止してしまっている。それに加え福島原発の事故。25日から3日間5公演が予定されていたAKB48の横浜アリーナ公演も中止が決まった。午前中から足の踏み場もないくらいにグシャグシャになった事務所の奥の部屋のかたづけをしたが、本当に予期もせぬ天災が起きたものだと思う。10年以上目にもしなかった資料などを見ながら、何だか大きな区切りを迎えているようにも思えた。


3月15日(火)大地震に原発事故。そこから派生した計画停電もあって都市生活に大きな支障が起きている。店頭から物はなくなっているし、ガソリンスタンドには長い車の列……長い人生でも初めての経験だが、午後ワタリウム美術館に<ハートビート展>を見に行って、和多利ファミリーとお茶を飲みながら、“まるで戦争中みたいな感じ”だねというような話にもなった。<時代のハートビート><時代のポエム><無限のリズム>と3章に分かれたコレクション展は素晴しい内容。展示作品は勿論のこと、館長の和多利志津子さんの文章が素晴しく、それが展覧会全体の魅力を増していた。お茶を飲みながら、本を作ろうという話にも発展したが、やっておきたい仕事のひとつではある。その後は、廃墟の如き様相を呈している事務所の資料室のかたづけ。帰宅後はテレビで地震や原発の報道を見ていたが、自然と気は落ちていく。仕方のないことかも知れない。


3月16日(水)福島原発の情況はひどいことになっている。計画停電も続き、自宅待機を社員に指示する会社も出てきた。そんな中で、午後1番で“KOBE LIVE SONGS”の打合せ。3時半からは周防正行監督の最新作※112「ダンシング・チャップリン」の試写と、7時からは青山円形劇場の小野寺修二作・演出公演の「あらかじめ」を見に出かけた。「美しいものが見たかった。この映画は僕のバレエ入門である」と周防監督がコメントしている「ダンシング・チャップリン」は満席、「あらかじめ」は時間のこともあってやや空席が目立ったが、中々おもしろく出来たパフォーマンスだった。終演後、ハンク・モブレーのジャズを聴きながら帰宅したが、節電している街はロンドンのような暗さで、普段からこれで十分なのにと思った。試写に出かけた時に乗った地下鉄の構内も照明を半分におとしていて、これもロンドンやパリのような趣き。これを機会にいろいろなことを見直すべきかも知れない。

※112 「Shall we ダンス?」では社交ダンス、「それでもボクはやってない」では裁判と、常に独自の視点で国内に留まらず海外でも注目を浴びてきた周防正行監督の新作のテーマは“バレエ”と“チャップリン”。フランスの巨匠振付家ローラン・プティの、チャップリンの数々の名作を題材にしたバレエ作品「ダンシング・チャップリン」を、監督が映画化するに至るまでの姿を追った舞台裏を第1幕に、東宝スタジオで撮影されたバレエを第2幕にというように構成された新しいタイプのエンタテインメント映画になっている。チャップリンを踊るのは、1991年の初演から踊り続けているルイジ・ボニーノ。また、この映画は引退を発表したバレリーナであり、監督の妻でもある草刈民代へのオマージュにもなっている。4月16日公開。(アルタミラピクチャーズ)


3月17日(木)福島原発の事故は真相もはっきりわからず、テレビの報道も「ワグ・ザ・ドッグ」や「チャイナ・シンドローム」のような映画的様相を呈し始めている。そして世の中は地震や計画停電の影響で動きが停滞してしまっているが、そのためにプライベートな時間が増えたのは皮肉な感じがする。きょうも朝から3時半の試写に出かけるまで、事務所のかたづけをしたが、地震の前日に倒れたのも神の思し召しかと思ってしまった。試写はリチャード・ギア主演の※113「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」。伝説の大富豪ハワード・ヒューズの“偽りの伝記”を執筆した、ある作家の物語で、中々おもしろく見れた。夜はオーチャードホールでシンディ・ローパーのコンサート。新作「メンフィス・ブルース」を中心にしたプログラムで、TOKUもゲストで出演、シンプルだがシンディの音楽力の高さ・強さを感じさせる魅力ある2時間だった。コンサートの後は加藤夫妻と“FLAT”で酒宴。フー・ファイターズとヴァン・モリソンのライヴ映像を見ながら、いろいろ話が弾み、あっという間に3時間が過ぎた。酒量も回復。体調はかなり戻っている。

※113 幻覚、妄想、詐欺といった危険性が常に隣り合わせにいた1970代初頭のニューヨークを舞台に繰り広げられるコン・ゲーム。監督のラッセ・ハルストレム監督の演出も中々だし、役者も粒がそろっている。大人の映画だ。GW公開。(ファインフィルムズ)


3月18日(金)久しぶりに“Va-tout”でランチミーティング。アイナメのポワレとポテトのポタージュ、絶品だった。そしてイベント関係の予定はかなり流動的になっている。いつ頃まで続くのだろう。3時半からはグラフィティ・アーティスト、BANKSYの初監督作品※114「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」の試写。アカデミー賞にもノミネートされたアート・ドキュメンタリー映画だが、僕にはちょっと向こう側の出来事のように思えた。夜は“ROCK AROUND THE CLOCK”で佐藤クンや玉田さんと会合。BAR“QUEEN”は戦時下のような情況下にぴったりとはまっていたが、「手をとりあって」を軸に何かイベントを計画しようということにもなり、いい時間が過ごせた。今、何をなすべきか、人は考えることを確実に問われている。

※114 世界で最も有名。けれど誰もその素顔を知らないBANKSYの初監督作品は4月9日から東京都写真美術館でロードショー。シネマライズは7日から先行レイトショー。(パルコ、アップリンク)


3月19日(土)予定されていた卒業式は中止になってしまったが、辞意を伝えに大学に行く。結果的には慰留され、講座を持つ形で1年は残る形になったが、日常業務からは解放されることになった。4月からは7年続いた生活パターンにかなりの自由度が戻ってくる。帰りの青空が妙にすがすがしかった。帰宅してからはかたづけもの。夜は散歩がてら久しぶりに“郷味屋~刀削麺”に出かけたが、いつもより暗い六本木の街を眺め、紹興酒を飲みながら、カキの黒豆炒めや、豚足の土鍋煮込みなどをつまんでいたら、何だか自分が映画の中にいるように思えた。“喜び組”にいてもおかしくないような美人ウエイトレスも含めて……


3月20日(日)テレビ番組はNHKを除いては通常のプログラムに戻りつつあるが、やはり中心は原発の事故と地震関連のもの。そんな中で、ライナーノーツの原稿を書くため、「ゲンスブールと女たち」をDVDで見直し、CDを何枚も聞きながらゲンスブール関連の本を読み直して1日が過ぎていった。自然と身体の中に広がっていくセルジュの毒気。昨日から少し痛みを感じるようになった首の後ろの痛みは夜になるとますますひどくなっていった。それもまた……


3月21日(月)雨の休日。放射能には注意、と報道されているのもあり、セルジュの原稿も書かなくてはならないので、一歩も外に出ずほぼ1日中、セルジュの人生をおさらいし、遺された歌を聞いて、メモを作っていった。何だか長いこと忘れていた時間……今月中はいろいろとかたづけものをするのも悪くないなと思う。そうしているうちに桜も咲く……世の中の流れが停滞しているのとは関係なしに……


3月22日(火)9時前にベッドに入ったので、3時半過ぎに起きる。真夜中の部屋でセルジュの歌を聞きながら、ライナーノーツの原稿を仕上げる、GW明けに公開される映画「ゲンスブールと女たち」と連動するコンピレーションCDのライナーノーツだが、2枚組CDは我ながら中々いい選曲で出来上がったと思う。その満足感もあって、テンションはここ数日では一番高く、睡眠不足も気にせず、1時から※115「孫文の義士団」の試写に出かけたが、スピード感があり、アクションシーンもふんだんだったのでいい気晴らしになった。それにしても謎の多い孫文。実に気になる人物だ。試写の後は事務所の整理の続き。少なくとも災害の気配だけは取り除けた。夜は唐墨やわさび昆布などをつまみに日本酒。さすがに9時前には睡魔に捕まってベッドに入った。健康なのか不健康なのかわからない日々が続いている。

※115 清朝末期の香港を訪れた孫文の暗殺を計る500人の暗殺団と、それを阻止しようとする義士団の戦い。アジアのスターが競演し、アジアの映画賞レースを席巻した大作が日本上陸を果たす。監督はテディ・チャン。製作はピーター・チャン。4月16日ロードショー公開。(GAGA)

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