立川直樹の内省日記

2011年1月23日(日)

1月14日(金)午前中は原稿書き。午後は1時から※82「神々と男たち」の試写。試写状のビジュアルがとても魅力的だったので少し無理してでもと思って出かけたが、重い映画だった。試写の後は渋谷のライブスペース“WWW”を下見し、4時からはゲンスブールのプロジェクトのミーティング。今週もよく動き回っている。夜は“ビーヴィー”でワハハ本舗の平間さんと岡野さんと会食。音楽や舞台が真底好きな人達との会話は本当に楽しい。たっぷりと飲み、たっぷりと食べて2時間余り。その後は里中氏と合流、新年の挨拶をしなければならないと思って“PB”に向かった。フクちゃんも一緒になって、ここでも会話は盛り上がり、お酒も進む。金曜の夜らしく時間が流れていった。明日からは極寒のソウルだ。

※82 1996年にアルジェリアで実際に起きた、武装イスラム集団によるフランス人修道士誘拐事件の映画化。2010年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞も納得できる荘厳な映画に仕上がっている。監督はグザヴィエ・ボーヴォワ。長編5作目にしての栄誉で、今年のアカデミー賞外国映画賞のフランス代表作品にも選出された。3月上旬公開。(IMJエンタテインメント)


1月15日(土)二日酔いではないが、前の晩のお酒と1週間の疲れが残っているせいか、午前中のかたづけのスピードがいつもよりずっと遅く感じられた。そんな1日の始まり。そして軽い昼食をとった後、トランクに荷物を放り込み、羽田に向かう。久石譲さんのコンサートの仕事でのソウル行き。久しぶりの海外旅行だが、一番多かった年で26回というのを思い出すと、21世紀に入ってからその数は激減した。それだけ情報のやりとりなども便利になったのだろうし、仕事のやり方も大きく変化したと思う。eチケットというシステムもひとつの象徴だろう。ソウルに向かう飛行機の中ではそんなことをぼんやりと考えながらJAZZを聞き「装丁問答」を読んでいたが、今の予定が一段落したら小説のようなものを書いてみたいという思いが頭の中にひろがっていった。ソウル到着は午後7時過ぎ。驚かされていたほど寒さはきつくなかったが、完全な冬景色の中をホテルに向かい、チェックインした後は現地のプロモーターの主催で夕食会となる。“チャングム”なる店の料理はまずまずのおいしさでソウル最初の夜は静かに淡々と時間が流れていった。


1月16日(日)東京から飛行機で2時間と少ししか離れていないのに携帯の電源を入れず、ホテルの22階の部屋から高層ビルがたくさん建っているソウルの街を眺めていると、随分と距離だけではなく、立ち位置や気分も含めて随分遠い所にいる感じがする。午前中は11時の出発までジョン・レノンの死の48時間前に行われた長時間インタビューを読み、午後は“芸術殿堂”で久石さんとコリア・シンフォニー・オーケストラのリハーサル。オーケストラのレベルが低く、ずっと緊張した時間が続いた。自分ではどうすることも出来ないのでもどかしい。ただ夕食時には久石さんの苛々も収まり、絶品の冷麺でしめた“DONE・ZONE”なる人気店での夕食もまずまず盛り上がり、ホテルに戻ってからは久石さんの部屋でウイスキーを飲みながら音楽や文学の話が弾んだ。レイモンド・チャンドラーにナット・キング・コール、大江健三郎に、久石さんが絶賛しているララ・フェビアン……ガトー・バルビエリのサックスをソウルで聞くとは夢にも思わなかった。


1月17日(月)朝起きてテレビをつけると、オーストラリアとブラジルの水害の模様が映し出される。そして窓を開けて高層ビルと丘に立ち並ぶ家が目に入った途端、映画「2012」の映像がシンクロしてきた。日本でも小さな漁船が沈んでしまうほどの大雪があり、本当に世界はどうなってしまうんだろうと思う。でも、ソウルでも日々は世の中から隔絶されている感覚。きょうもコンサート会場に行き、リハーサルに立ち会い、終わってからはスタッフも一緒の食事という単調なものなので、妙に新鮮な感じがする。夜は“トドクパ”というプルコギが売りの店。昨日は豚肉のサムギョプサルだが、毎日肉を食べている。そしてビールとマッコリ。今夜もしめは久石さんの部屋でウイスキーを頂いた。


1月18日(火)8時少し前に目が醒め、窓を開けると、右手の丘の上から太陽が昇ってくるのを偶然見ることができた。とても美しいソウルの日の出。午前中はジョン・レノンを信奉しているロックン・ロール・スターが結成した新バンドのライナーノーツを書き上げ、武石剛さんから贈って頂いた「チャメ君!評判悪いわよ」を読み始める。毎日歩くのは絶対500mに満たず、日常より遅い時間(きょうは何と11時を回っていた)にビールやマッコリを飲みながら食事をするという日々。Sejong Centerでの今夜の久石さんのコンサートは最後には観客全員がスタンディング・オーベイションという感動的な光景で幕を閉じたが、会場もホテルの部屋も外の世界とは隔離していて、ふと映画「ザ・ウォール」でボブ・ゲルドフが演じていた主人公のことを思い出した。


1月19日(水)昨夜も久石さんの部屋に時間限定でオープンする“Joe's BAR”でジョニー・ウォーカーのブルー・ラベルを頂き、自分の部屋に戻ったのは2時半過ぎ。東京にいる時より規則正しい日々を送っているせいか、遅く寝た分だけ遅く目が醒めた。軽い朝食をとった後は、今や世界のどこに行っても見ることができるMTVを見ながら、書きもの。西洋人もアジア人も何故みんな同じようなリズムで踊りながら歌っているんだろうと思いながら、同じようなことをやっても何故西洋人の方が自然でアジア人の方が猿真似のように見えてしまう理由は何なんだろうと考えてしまう。それはバラード・ナンバーの映像についても言えることで、MTVの放映がスタートしてちょうど30年になろうとするが、その差は永遠に縮まらないような気もする。同じようなテイストのものが映し出される中で光っていたのはPINKの“RISE YOUR GLASS”とブラック・アイド・ピーズの新曲のPV。その2本だけが映画的であったり、アート・フィルムの領域に近づいていた。午後からは日課の如くSejong Center入り。ゲネプロの前にちょっとインサドンまで行ってみたが近年の中華街のような観光地的趣きで、早々に会場に戻り、武石剛さんの「チャメ君!評判悪いわよ」を読み続ける。僕が書いたポルナレフのライナーノーツの引用などもあり、軽い時間旅行が楽しめた。そして久石さんのコンサートは昨日同様の盛り上がり。日本で久石さんがここまで高い人気と評価を得ていることが伝わっていないのがとても残念だし、この5日間、リハーサルから本番まで張りつき、終わってからいろいろな話をしたことで、伝記的な本を書いてみたくなった。音楽の文章化、それもきちんとしたものは絶対に必要だ。打上げは“サンボンフォログイ”なる牛肉のサムギョプサルの専門店。また肉を食べ、マッコリを飲み、仕上げは久石さんの部屋でウイスキー。部屋に戻ったら5時を回っていた。


1月20日(木)部屋に戻ってからバスタブにつかってベッドに入ったので睡眠時間は3時間ほど。でも、出発までの間にきちんと朝食はとった。自慢じゃないが、本当に朝食を抜いたことはない。そして12時50分に飛行機が出発する前には金浦空港の中にある“韓食堂”であわび粥を食べた。2時間足らずで羽田に到着する間にはシャンパンを飲み、夜は“開化亭”でカモの北京風炒めや家鴨のくん製などを食べながらビールと紹興酒。その後は“PB”に顔を出してジェットソーダを飲んだ。勿論、事務所で仕事はしたが、ソウルから東京への移動日は何ともタフな1日だった。


1月21日(金)62歳の誕生日。午前中には斎藤ノブさんと夏木マリさんとイベントの打合せをすませ、午後はベン・アフレック監督・主演の※83「ザ・タウン」と、ハンター・S・トンプソンの人生を描いたドキュメンタリー※84「GONZO」と見逃せないと思っていた試写の2本立て。両方とも予想通りのおもしろく、よく出来た映画だったが「GONZO」は誕生日に見るにはぴったりの作品だった。脚本も編集も音楽の使い方も申し分なくカッコいいし、散りばめられているエピソードや言葉も最高。トンプソンは2005年に拳銃自殺をし、68歳の人生に幕を下ろしてしまったが、彼は加速化するデジタルの世界をどんなふうに見ていたのだろうか。朝刊に載っていた地下鉄で走行中にもメールがOKになるという記事は、ねじめ正一さんがコメントしているように「地下鉄の中でそこまでやる必要があるのかとも思う」し、旧ホテルパシフィックホテル東京がビジネスホテルで再出発するにあたってロビーに自動の事前精算機を導入するという記事にはげんなりした気分になってしまった。でも、そんな気分も夜の静かな部屋でレナード・コーエンの2008年から2009年のツアーを記録したDVD“SONGS FROM THE ROAD”を見ながらシャンパンを飲んでいると次第におさまっていった。本当に素晴らしいコーエンの作品とパフォーマンス。各国の大会場でのファンの熱狂ぶりを見ているうちに、日本公演が幻に終わってしまったことの悔しさが頭をよぎったが、それは言葉の問題よりも文化の成熟度の問題ではないかとも思えた。ともあれ、自分でも予想していなかった年令の日々が始まろうとしているのは確かだ。

※83 アメリカのどこよりも銀行強盗が多発している小さな街、ボストンの北東部に位置するチャールズタウンを舞台にした犯罪ドラマ。監督2作目にしてベン・アフレックは全米初登場1位を成し遂げ、既に全米マスコミから“本年度最高傑作”の絶賛を浴びている。共演は「ハート・ロッカー」でオスカーにノミネートされたジェレミー・レナーに「それでも恋するバルセロナ」のレベッカ・ホール。「今、最もみるべき1本」(アクセス・ハリウッド)の評も偽りなしだ。2月5日公開。(ワーナー・ブラザーズ映画)

※84 偉大な作家として評価されながら、ドラッグ中毒者、愛国者、真のトラブルメイカー……と様々な表現で今もなお語り継がれるジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンの強烈な個性と魅力が炸裂する2時間。“ヴァニティ・フェア”の「最高にワクワクさせられる並はずれた映画!」という評をはじめとした各メディアが大絶賛なのも納得できる。監督は「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」でアカデミー賞にノミネートされたアレックス・ギブニー。映画の中で語られる全ての言葉は、トンプソン自身がタイプライターで紡いだものであり、これらの言葉はトンプソン作品の映画化「ラスベガスをやっつけろ!」でトンプソンを演じて以来、彼に心酔しプライベートでも親交が深かったジョニー・デップがナレーションを担当することで命を吹き込まれた。2月19日公開。(ファントム・フィルム)


1月22日(土)6時起床。ひとしきりニュースを見た後、レナード・コーエンの“SONGS FROM THE ROAD”のCDを聞きながら、留守にしていた間の新聞をかたづける。レナード・コーエンの崇高とも言える音楽と全く世界の違う低次元なニュースにあきれ果てるが、吉田秀和さんの記事には大いに共感できた。自伝的エッセー「永遠の故郷」を完結させたことについて語っている「僕自身が音楽と関わって、どんな人生を生きてきたか。それを書くことで、芸術というものと僕たちが生きるということはつながっている。と伝えたかった」という言葉が妙に胸に突き刺さり“書こうという気持”が高まっていった。午後は福岡に移動。一昨日、ソウルから戻ってきたばかりなので、また羽田から飛び立つというのは奇妙な感覚だ。そして機内誌に載っていたマカオの記事を見て、植民地の文化や景色が好きなことを改めて実感、そのテイストを持って生きていくことを考える。福岡到着後は博多座で坂本冬美と藤あや子の“博多座初夢公演”を見る。シェイクスピアの「十二夜」を1時間半に凝縮した「恋はいたずら」はやや無理があったが、2部の“麗しのショータイム”では演歌の魅力、2人の歌のうまさを堪能する。「夜桜お七」や「紅い糸」といったそれぞれの持ち歌は勿論だが、2人で歌った八代亜紀の「舟唄」の素晴しさは特筆もの。終演後は坂本冬美さんに楽屋で挨拶した後は中洲の“よしおか”なる板前割烹で小宴会。アラのエンガワや五島の鯖をあぶったものや、フグのブツ切り、アラの塩焼きなどどれも申し分なく、地元の冷酒との相性も最高だった。“よしおか”の後は“Bar Vespa”へ。とても感じのいい店で、寿司屋のノリで「何かおいしいカクテルを…」と頼んだら出てきたソルティ・ドック、オールドスタイルとジンベースのサマータイムは幸福な眠りのイントロになった。


1月23日(日)快晴。そのふんわりした気分を“報道2001”に出演した石原慎太郎が吹き飛ばした。約1時間にわたる怪気炎。彼のキャラクターと発言には賛否両論あるが、携帯電話の話から中国問題まで生トークは完全にエンターテイメントとして楽しめるし、テレビ的には成立している。そして福岡空港のラウンジで新聞をチェックしていたら、読売新聞の書評に目がとまった。「親は知らない~ネットの闇に吸い込まれる子供たち」という本。携帯電話を媒介として子供が犯罪に巻き込まれ、時には加害者になっていく様子をレポートしたものだというが、「頁から“寂しい”という叫び声が溢れている…」という書き出しの河合香織の評は石原慎太郎も言っていた現代人の病を浮き彫りにしていた。だから、なおのこと羽田に向かう飛行機の中でリストを聞きながら日曜のブランチの気分でシャンパンを飲んでいる時に世界は本当に細分化されていることを改めて思った。御前崎上空を通過する時に見えた美しい富士山。曲はリストの「『巡礼の年』第3年第4曲:エステ荘の噴水」。アルド・チッコリーニのピアノが景色と溶けていき、2時間くらいのフライトならたまの飛行機も悪くないと思った。南回りで20時間以上かかってロンドンに行ったり、ニューヨーク経由でアトランタに行って1日だけ仕事をし、アムステルダム経由でローマ入りなんて暮らしをしていた日々はもう遠い昔のこと。“フライング・ジャパニーズ”を略した“FJ”のニックネームは今世紀に入って有名無実と化している。午後、東京に戻ってからはかたづけものをして、夕方5時からは国立代々木競技場第一体育館で長渕剛のコンサート。長いつきあいになるギタリストのichiroがバンドに加わっていることもあり、山本寛斎のイベントで見た時から興味もあったので出かけたが、宗教団体の集会的な様相を呈していた情景は中々の見ものだった。

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