立川直樹の内省日記

2011年1月6日(木)

12月27日(月)朝の9時に伊香保を出発、関越自動車道ではゴッドヘッドのアルバム「イヴォルヴァー」を大音量で聴きながら爆走、2時間足らずで東京に戻る。“インダストリアル・ヘヴィ・ミュージックの旗手”と呼ばれたゴッドヘッドの2003年のアルバム。底力のあるサウンドとスピード感がぴったりとあって気分は「トランスポーター」のフランク・マーチン、丸10年は若返ったドライヴだった。そして午後1時からは※74「英国王のスピーチ」の試写。子供の頃から悩む吃音のために無口で内向的だったのに国王になってしまったジョージ6世の真実の物語を描いた作品だが、文句なしに素晴しい映画だった。コリン・ファースの抜群の演技とトム・フーパー監督の細部にまで気が配られた映画作り。今年最後の試写をこれだけ納得のいくもので終えられたのは実にうれしかったが、いい映画は気持を高めてくれる。そのノリで午後は仕事をこなし、夜は“やわら木”でニッポン放送の田中氏たちと合同忘年会。鶴の友、常きげん、ばくはつ娘を持ち込ませていただき、おいしい料理とのバランスも最高で大いに盛り上がった。その後は定番の“PB”に流れて、仕事納めの夜はさらに盛り上がる。明日からは“引きこもり”の準備を始めることになる。

※74 ガーディアン紙の「目を見張る完成度。至福の映画体験」という評は言い得て妙。ゴールデン・グローブ賞に最多7部門ノミネートされているのをはじめ、既に各国で様々な賞を受け、今、最もアカデミー賞に近い作品といわれている。ジョージ6世とは生涯の友となるスピーチ矯正の専門家ライオネル・ローグを演じるのは、かつて「シャイン」でアカデミー賞主演男優賞を受賞したジェフリー・ラッシュ。この人がまた悔しいくらいにうまく、コリン・ファースとのやりとりは本当に値打物だ。公開は2011年2月26日。(ギャガGAGA)


12月28日(火)小沢一郎が政倫審に出席する意思を表明したとか、海老蔵の示談が成立したとか、ニュースはまるで茶番劇。事務所も今日から冬休みなので、渡辺はま子の「支那の夜」などが入ったベスト盤を聴きながら2CVで走っていると、世の中の動きの外側に軽々と移動できた。そして夜はセルジュ・ゲンスブールの人生を描いた映画「ゲンスブールと女たち」を観て、さらに自分の空間に入り込む。その素晴しき時空を超えた旅。それは神からの授かりもののような気さえする。


12月30日(木)東京新聞の連載“わが街わが友”で養老孟司さんが「中年の頃、ひたすらお酒を飲んだ時期がある」という書き出しで、うれしくなることを書いていた。「当時はカラオケなんかない。だからギターの弾き語りの人がいたりして、酔っぱらいが大声で歌っていた。カラオケは機械に客が合わせるわけで、客に伴奏を合わせてくれる弾き語りのほうが、文化としては高級な感じがするけど、そういうものは消えていく。でも音楽が機械になるとは思わなかった。カラオケのおかげで歌の上手な人は増えたけれど、聞きたくない」というシメ。最高だ。そして同じようにというか、うれしくなるフレーズが大連発されたのが、夜の10時からTBSでオンエアされた「たけしが鶴瓶に今年中に話しておきたい5~6個のこと」。ダメな政治家から中国、薬物問題に海老蔵事件まで抜群のトークが2時間近く続いたが、他に余分な要素が何もなく、2人だけでトバしたのが凄い。セッションとはいえ、最高の漫才コンビの芸を楽しんだ。これこそがテレビの生きる道……


12月31日(金)朝5時に眼がさめてしまう。頭を使っていないと睡眠時間は少なくてすむようだ。おまけに昨日は飲酒量も少なかった。そして朝のニュースの後、エジプトの旅番組を見ながら新聞をチェックすると、昨日に続いて養老孟司さんのうれしい文章。品川駅の話だが、「…何度か通えば、新駅が当たり前になって、以前のことは忘れてしまう。年を重ねると、よくそれを思う。東京はやたらに変化する。街が元気に生きている証拠ともいえるし、慌ただしくてたまらないという思いもないではない。老人には古いものが懐かしい。建物も、自分と同じくらいの年数を経たものが、いちばん居心地がいいような気がするのである」ときれいにしめくくっている。僕はまだ“老人”という意識はないが、全く同感だし、建物はさらに古いものが好きだ。時代についても、夕方から始まった<年忘れ!にっぽんの歌>で小林旭の歌を聞きながら、昭和はよかったと改めて思った。テレビは他にも千利休の歴史スペシャルから、南座の顔見世大歌舞伎「伊賀道中双六・沼津」、加山雄三主演の「エレキの若大将」、格闘技の「Dynamite!」、しめの「ゆく年くる年」までザッピング。間にはセルジュ・ゲンスブール写真集「馬鹿者のためのレクイエム」を読み終えた。写真集と銘打ってはいるものの文章もたっぷり。翻訳がちょっと固いのが気になるが、来年公開になる映画「ゲンスブールと女たち」と文章も写真もシンクロし、かつ知らなかったエピソードもたくさん書かれていて、中々おもしろかった。勿論BGMはゲンスブールの歌。様々な記憶がフラッシュバックしてきたが、来年は僕もセルジュが死んだのと同じ歳になる。誕生日はどんな気分で迎えることになるのだろう。


2011年
1月1日(土)昨日同様、早く眼がさめる。朝刊を開くと、“昭和の大女優”高峰秀子さん死去の報。昨日の朝刊に小さな死亡記事が載っていたジャズ・ピアニストのビリー・テイラーと同じ年末の28日に死去したという。86歳と89歳。まあ、天寿をまっとうしたといえるだろう。朝のテレビはまずは<初日の出大賞>と題された中継番組。各地からの初日の出中継だったが、“黒縄”大吟醸を飲みながら見た富士山の初日の出は実に神々しかった。そして“初日の出”の後は春日大社から聖なる大河ガンジスの旅。リキケシが出てきたので、急にラヴィ・シャンカールが聞きたくなって、本の方は春日大社が呼び水になってか小泉八雲。この脈絡のなさが最高だが、昼からは約7時間<初笑い!オールスター昭和なつかし亭>の生放送を楽しんだ。志ん生やダイマル・ラケットなどのお宝映像も大公開されたが、おおトリの桂文珍の話芸が素晴しく、独演会にも行きたいし、出来ることなら本も作ってみたいと思った。お笑いの後はBS・TBSでアンコールワットの謎に迫る2時間番組。数年前に訪れた時の記憶が思いっきりシンクロするのと、黒縄に加えてアルゼンチンの赤ワインの酔いも手伝い、気持の良い時間が味わえた。気がついてみると、ソファの上でうたた寝。これはいかんとベッドルームに移動し、ラヴィ・シャンカールを聞きながら眠りについた。


1月2日(日)今朝も早起き。5時40分から伊勢神宮参集殿での舞楽“陪臚”を見てから夜10時過ぎに始まった“北斎・幻の海 パリで発見!千絵の海”までテレビ三昧。“外国人が見た禁断の京都”“ペーパープリントが語る100年前のアメリカ”“新春!お笑い名人寄席”“ゴッホ最後の70日~ひまわりの画家はあの日、殺されたのか?”、昨日に続いての“ローマを夢見たアンコールワット”と実に盛り沢山だったが、どれも中々楽しめた。でも“外国人が見た禁断の京都”では“禁断”つながりなのか、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」のテーマが流れていたのをはじめ、音楽の使われ方が妙に気になってしまった。でも、くだらない、意味のないバラエティよりはずっといい。テレビの合い間に手がのびたのは中井英夫の「黒鳥の囁き」。寺山修司と塚本邦雄を発掘し育てたことでも知られる作家の短篇小説集だが、思いっきり異界で遊ばせてもらった。お酒の方も日本酒からシャンパンまでたっぷり。“ひきこもり”という名の桃源郷で過ごしている。


1月3日(月)今朝も早起き。昨日と違って昼までは音楽三昧。ボリス・ヴィアンがライナーノーツを書いているアラン・ゴルゲールのCDとスウィングル・シンガースとMJQの共演盤「ヴァンドーム」にミシェル・ルグランのJAZZアルバムをBGMに中井英夫を読み終える。僕は“どこの時代”に生きているんだろうと思いながら昼からは国立劇場からの歌舞伎生中継「四天王御江戸鏑」を棧敷席気分で見る。196年ぶりの上演という演目だが、出来はまあまあといったところか。逆に夕方WOWOWで見たBBC製作のネイチャードキュメンタリー“アフリカ”は抜群の出来映え。ケニアのアバデア山脈に住む動物やマサイ族の生活が素晴しい撮影とオリジナリティあふれる音楽で描き上げられていた。そして5時からはTwellVで“新春コンサートスペシャル”と題してエンニオ・モリコーネのヴェニス・サンマルコ広場でのコンサート“ピースノート”が2時間。2007年9月に収録されたものだが、これも撮影が音楽の流れをわかっていて素晴しかった。何故、日本だとこうはいかないのかとしばし考えさせられる。その後は7時30分からNHK衛星第2でレオナルド・ディカプリオ主演の「アビエイター」。マーティン・スコセッシ監督の2004年の映画で、見逃していたものだったが、ちょっと雑な作りとはいえ、2時間50分けっこう楽しめて見られた。ちなみに“アビエイター”とは“飛行家”の意味。ハワード・ヒューズの人生なんて、一般的には余り興味がないものかも知れないが、これは気のきいた邦題が必要だったと思う。これも時代の流れか……


1月4日(火)テレビのニュースを見ると、世の中は正月休みが明けたようだ。僕は“ひきこもり”から社会復帰する予行演習。ボブ・ディランの「モダン・タイムス」を聞きながら高速道路を走ってスピード感を取り戻し、雑誌を開いたりしてみる。“ソトコト”の連載“田中康夫・浅田彰・憂国呆談”の中で浅田氏がウィキリークスの事件にふれて「この事件そのものがすでに映画みたいな話で、9・11テロ以降、世界がB級映画になったかのような感じがますます強くなった。」という言葉には心から同感。今日のニュースも大好きだった歌舞伎役者、中村富十郎さんが亡くなった以外は文字通りB級映画そのものだ。だから、なおのこと夜の8時からNHKハイビジョンで放映された「チネチッタの魂~イタリア映画・75年の軌跡」で映し出された世界が魅力的に映ったのだろう。案内役の井筒監督の映画に対する思いにも共感。ラストで海辺のリストランテを見て、「こういう店の中でドラマが作れる…」というようなことを言っていたが、いい映画があったら久しぶりに映画音楽の仕事をしてみたくなった。本は金井美恵子の「あかるい部屋のなかで」が大収穫。1986年に買ったまま本棚に入っていたものだが、表題作の中で古賀春江のことを「古めかしいうえに貧乏くさく、シュルレアリスムというより田舎の未来派とでも言うべき絵…」と、空に浮かんでいる飛行船を見て苛々している気分を表わすのに使っていたのには、思っていたことをうまく言ってくれているという感じで拍手を贈りたくなった。CDは久しぶりに聞いたリチャード・ライトの「ウェット・ドリーム」。美しいCDを10枚選べと言われたら、絶対にそこに入る名盤だ。……僕は過去へ向かう旅を始めようとしているのだろうか……


1月5日(水)金井美恵子にクリス・レア、夕方はWOWOWで見損なっていた根岸吉太郎監督の「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」。終戦から間もない東京の街並が再現され、松たか子が健闘していたが、どこかテレビ的だし、全体としてぼんやりとした映画だった。でも、“ぼんやり”は根岸監督の狙いか……10時前から始まった“報道ステーション”には菅総理が生出演して古館さんの質問に答えていたが、どうでもいいやという印象しか持てなかった。明日からは仕事。この距離感を埋めなければならないのだろうが……


1月6日(木)朝テレビをつけると、山下敬二郎さん死去の報。昨日の昼過ぎに録画とはいえ“ロカビリー三人男”の元気な姿を見ていただけにちょっと運命的なものを感じる。実現できなかったが、布袋クンやCharにバックをやってもらって山下敬二郎さんのアルバムを作ろうという企画を考えたこともあった。享年71歳。1958年の第1回ウエスタンカーニバルで一躍スターになった時はまだ18歳だったわけだし、ポール・アンカの「ダイアナ」の日本語カバーは子供時代の記憶に色濃く残っている。そして朝刊を開くと、写真入りの山下敬二郎の死亡記事の下に小さくミック・カーンの死亡記事。JAPANの時代に親しくつきあい、一緒に展覧会の企画などもしただけに悲しみが胸をよぎる。新年の仕事始めの日はこんなふうに幕が開いたが、十分に休みをとっただけに仕事は快調にこなせ、午後は銀座三越で“山口晃展”、松屋銀座で“日本のおしゃれ展~池田重子コレクション”を見た後、クロード・シャブロン監督の※75「引き裂かれた女」と※76「キッズ・オールライト」の試写2本立て。両方とも新年最初の試写としては大当たりで、「引き裂かれた女」はフランス映画ならではの大人のエロティシズムをうまく漂わせた極上のサスペンス・ラブストーリーだったし、アネット・ベニングとジュリアン・ムーアの2人が同性結婚をしたカップルを演じる「キッズ・オールライト」は発想も展開も含めてとてもオリジナルな魅力を持った映画だった。2本ともアプローチの仕方は異なるものの音楽の使い方が抜群。「キッズ・オールライト」は既成曲の使い方も含めて、音楽が重要なファクターになっていたし、“音楽スーパーバイザー”の存在はどんどん大きくなっている感がある。機会があれば、雑誌かラジオでひとつの形にまとめてみたいと思っている。年の初めだけに、何だか妙にやる気満々だ。

※75 “フランスのヒチコック”の異名を持つヌーヴェル・ヴァーグの巨匠シャブロル最晩年期の傑作!と言われる2007年の映画。20世紀初頭のアメリカで実際に起きた情痴犯罪をヒントに脚本が書き上げられ、それをシャブロルは実にうまく仕上げている。リュディヴィーヌ・サニエとフランソワ・ベルレアン、ブノワ・マジメルの真に迫った緻密な演技も見もの。
※76 自身も精子提供を受けて子供を出産しているリサ・チョロデンコ監督が現代の家族の新しい定義を投げかける野心作。サンダンス・ベルリン映画祭で賞讃を得て、本年度アカデミー賞最有力作品と言われるのも納得の“中々の映画”だ。公開はゴールデンウィーク。(ショウゲート)

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