立川直樹の内省日記

2011年1月10日(月)

1月7日(金)年賀状の整理に午後は恒例の電通年賀会とKIRIN LAGER CLUBのミーティング。仕事開始2日目は淡々と時が流れていった。そして明日からは3連休。本格始動は休み明けといったところか。天気は全国で冷え込み、ニュースは相変わらずダークなものが多い。移動する車の中で流れるビョークの歌が冬景色と気分にぴったりとシンクロしていた。


1月8日(土)気温は低いが快晴。気持のいい冬の休日だが、“週刊ニュース新書”で田勢康弘、後藤謙次、田原総一朗三氏の討論を聞いていたら、この国の将来について暗翳たる気持になった、その反動か午後は本とCDで享楽の時間を過ごす。「夢の女」のサントラに入っている小唄を聞きながら、浮世絵と春画を鑑賞、エンニオ・モリコーネの官能的なスコアとエラ・フィッツジェラルドなどのジャズ・ヴォーカルが絶妙なバランスで収録されている「ロリータ」のサントラを聞きながら、金井美恵子の短篇を楽しんだ。クラーク・テリーがパリでベースのレッド・ミッチェルとピアノのハンス・パーランをバックに吹き込んだアルバムも素敵だった。夜はBSで「パリ、恋人たちの2日間」と「スピード2」の映画2本立て。ジュリー・デルピーが自ら監督、主演もしている2007年の仏・独合作映画「パリ、恋人たちの2日間」は主人公の2人が喋ったりしていることが金井美恵子の小説とどこかつながっているのがおもしろかった。「スピード2」は大味で都合よく展開する爆発と追跡のハリウッドものだが、つい最後まで見てしまった自分が怖い。朝刊に載っていた「天に伸びる声 酔いしれた」の見出しで評論家の大野道映さんが書いていた中村富十郎の追悼文にぐっときた僕とは対極のところにもう1人の僕がいる。


1月9日(日)8時から始まる「サンデーモーニング」で司会の関口宏さんが「前だともうお正月が明けていたんだけど、成人の日が10日になったことで何だかぼんやりした気分が続いてしまう…」というようなことを口にしていたが、まさに同感。東京新聞の朝刊では時代の読み方が適確な同志社大学教授・浜矩子さんが<時代を読む>のコーナーで「『どんなバカでも質問に答えることは出来る。重要なことは質問を発することだ。』こう言ったのは、1930年代を軸に活躍したイギリスのエコノミスト、ジョーン・ロビンソンである。彼女は正しい。的確な質問は、新たな突破口につながる。質問を発しない者は、真理に到達することが出来ない。…」という書き出しで始めていた文章もよかったし、“週刊文春”最新号の“阿川佐和子のこの人に会いたい”に登場した阿川弘之も貫禄の喋りっぷりだった。残念だったのは新聞の片隅に小さく載っていた“シネセゾン渋谷”が来月末に閉館するという記事。時の流れは誰にも止められないが、久しぶりに聞いたカエターノ・ヴェローゾのオール英語曲のカヴァー・アルバム「異国の香り~アメリカン・ソングス」がそんな気分を助長していった。アーロン・ネヴィルの「タトゥード・ハート」のラスト・ナンバー「クライング・イン・ザ・チャペル」も泣けた。そんなふうにきょうも昼間は音楽と読書。遂にというか、マルセル・プルーストにまで手をのばしてしまったが、長友啓典さんが贈ってきてくれた※77「装丁問答」も軽いタッチで読みやすく、また実にためになる本だ。そして3時からはNHKハイビジョンでフェリーニの傑作「道」。何十年ぶりかで観たが、数日前の番組で井筒監督も言っていたように本当に素晴しい映画だと思う。夜は唐墨をつまみながら日本酒。ひと眠りしてから観た「アンダーワールド・ビギンズ」が「パイレーツ・ロック」でいい味を出していたビル・ナイの怪演もおもしろく、中々の拾いものだった。

※77 “装丁の達人”長友啓典が、装丁家の目で綴ったブック・エッセー。本屋さんを徘徊し、ジャケ買いを楽しむトモさんの軽いタッチの文章と鋭い分析が絶妙のバランスでとても楽しく読める。(朝日新聞出版)


1月10日(月)午前中で年賀状の整理を終える。自分が出さないのに勝手な言い草だが、ハガキのリアルなコミュニケーションはやっぱりいいものだと思う。今年はハガキを少し復活させてみようかと……そして午後は“テレビ映画館”。メル・ギブソンが珍しくダークヒーローを演じた「ペイバック」と、フェリーニの「魂のジュリエッタ」の2本立てだったが、「ペイバック」はジェームス・ブラウンの「マンズ・マンズ・ワールド」をはじめ既成曲の使い方を含めて中々よく出来たハードボイルド映画だったし、「魂のジュリエッタ」のトビっぷりは今見ても全く古臭さを感じさせなかった。そのフェリーニ・ワールドに触発されたか、手をのばした本はジョルジュ・バタイユがオーシュ卿の変名で書いた「眠球譚」。金子國義の挿絵も素晴しく、読んでいるうちにフェリーニの魔法のスパイスが残っていたこともあって、60年代の新宿にタイムスリップしてしまった。夜はWOWOWのボクシング中継。ファン・マヌエル・マルケスとマイケル・カチディスのWBA・WBO世界ライト級選手権がメインでマルケスが防衛して終わったが、興奮度は今ひとつだった。

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