立川直樹の内省日記

2010年12月9日(木)

12月5日(日)先週に続いての朝日新聞日曜版の“本を開けば”の中野翠さんのエッセイがとてもチャーミングだ。あとは“外国特派員協会の落日”という記事が印象に残る。幾度も、そう、まるでディランの歌のリフレインのようにだが、時代は急速度に変わっていく。夕方“AUDI FORUM”に打合せに行くために表参道のイルミネーションの中を通っていった時に道端でたくさんの人が携帯電話で写真を撮っているのを見てもそれを思った。ただそれにしても、このごろどこに行っても目にする光景だが、みんなあの携帯で撮っている写真をどうするんだろう。メイルで送ったりするのはわかるが、何だかとてもチープな感じがする。物の値段の下がり方もそうだが、世の中はどうなってしまうのだろう。


12月6日(月)午前中は大学で授業をした後、まるでトライアスロンのようなノリで移動して、試写を2本観た。前代未聞のなりきりヒーローが主役の※64「キック・アス」とアン・リー監督がウッドストック・フェスティバルの開催から実現までの舞台裏を見事に描いた※65「ウッドストックがやってくる!」。両方とも申し分なくよく出来た映画で、パワーをもらえた。そして、「ウッドストックがやってくる!」は<世界のすばらしい監督たちの作品を“映画館”で公開し続けることを目標に“Director's Driven Project[監督主義プロジェクト]始動!!>をウタイ文句に年明けに立て続けに公開される3本の映画の最初の1本だが、映画を観終えた後に、映画評というのは絶対に必要だと思った。それも雑誌メディアがいい。前々から考えているが、FMで映画の番組を作るのもいいかも知れない。アン・リーに続くのはコーエン兄弟とサム・メンデス。勿論、2本とも試写のスケジュールは入れてある。そして夜は新宿ゴールデン街劇場で<セクシー寄席のお熱いショーパブ>を見に出かける。前回が余りにおもしろかったので、今回は同行人数も倍になったが、ネタが全部新しく相変わらずのトビっぷりは本当に強力。大いに笑って二次会の“鼎”に流れたが、そこでも話題は“セクシー寄席”に終始した。“鼎”での申し分のないツマミとお酒を含めて、思いっきりエンターテイメントな1日だった。

※64 「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」でジョン・レノン役を見事に演じたアーロン・ジョンソンがなりきりヒーロー、キック・アスを演じ、彼を助ける“バットマンのような格好をした大男”がニコラス・ケイジ、“ロビンのような扮装の少女”ヒット・ガールが1997年生まれのクロエ・グレース・モレッツという顔合わせで展開するアメリカンコミックスそのままの映画。全米初登場NO.1というのも納得のおもしろさで、プロデューサーにはブラッド・ピットもニコラス・ケイジも名を連ねている。監督は次回作「X-Men:First Class」も控えているイギリス出身のマシュー・ボーン。マカロニ・ウェスタンのテーマ曲など既成曲もうまく使われ、超A級のエンターテイメント作品に仕上がっている。12月18日ロードショー公開。(カルチュア・パブリッシャーズ)
※65 「ブロークバック・マウンテン」で一気に名をあげた台湾出身のアン・リー監督の最新作。奇跡的なイベントの舞台裏、そして監督自身が長い間描き続けているテーマでもある“家族の絆”を主人公であるエリオットを通してみずみずしく描き、観る者に“前に進む勇気”を感じさせてくれる。素晴しいスタッフと演技派のキャスト、1969年のファッションと音楽とともに“刺激的な体験”がスクリーンに映し出される。コンサートの終了後の会場でエリオットがつぶやく「すべては美しい」という最後の言葉が心に残る。2011年1月15日公開。(フェイス・トゥ・フェイス)


12月7日(火)“BLUES ALLEY JAPAN”で開催された“HAIR1969LIVE”に出かける。「アクエリアス」で幕が開き、休憩をはさんで「レット・ザ・サンシャイン・イン」で本編が終わるまで3時間近く。昨日観た映画「ウッドストックがやってくる!」と時代感とスピリットが重なり合い、楽しい時間を過ごした。「オーディションの時、MICKの家に服を借りに行ったのよ」と言う安藤和津に誘われて休憩の時に楽屋に行って、「67歳になった」深水龍作に加橋かつみ、大野真澄、キーボードの柳田ヒロたちと、話しているうちに、ポール岡田がステージで口にしていた“トライブ”であることを感じ、「1969」にも書いたが様々な記憶がフラッシュバックしてきた。帰宅後はやや飲み足りなかったので、ボジョレーヌーヴォをあけて、テレビのニュースを見ながら夕刊に目を通す。海老蔵の記者会見とジュリアン・アサンジ逮捕のニュースがメイン扱い。両方とも画面に映る姿は、映画の一場面のように見えるのが偶然とえいえ、何だかおもしろい。


12月8日(水)ジョン・レノンの命日。今年は彼の生誕70周年、没後30年にあたる大きな節目の年だが、きょうから伊勢丹新宿店で「フォーエバーメモリアル・イベント」に協力できたことがとてもうれしい。僕がしたのは、きょう1日中店内で流されるジョンの歌の選曲。デパートのBGMということで、「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」の曲は1曲も使わず、歌詞や曲調にも気を使った作業をしたが、仕上がったCDRはとてもいい感じになった。小規模ながらボブ・グルーエンの写真展もよくまとまっていた。そして伊勢丹の関係者との昼食も、ジョン・レノンだけでなくキング・クリムゾンの名前まで飛び出す音楽談議になり、とても楽しかった。7階のレストラン街に子供の頃、祖母とよく行ったレストランに面した池がそのままの形で残っていたのにも感激、いろいろな思い出が浮かび上がってきた。その後はTOHOシネマズ・シャンテで<ゴダール・ソシアリズム公開記念>を銘打って開催されている<ゴダール映画祭2010>で上映中の「右側に気をつけろ」を観に出かける。昼間の映画館はまったりとした空気が流れ、非現実的な世界だったが、1987年製作の映画も映像と音とテクストが爆発する現実離れしたものだった。やっぱりゴダールは凄い。リスペクトし続ける価値がある。あとは「ウイークエンド」を開催中に観ておきたい。映画の後は銀座を歩いて谷村さんの事務所“DAO”へ。銀座のど真ん中に事務所というのも素敵だが、“HIBARI7DAYS”のミーティングも順調に進み、夕食の場所へと移動した。森さんがセッティングしてくれた猿楽町の“レザンファン・ギャテ”。テリーヌが売りの店で、僕はオマール海老と焼き茄子のテリーヌと、青首鴨と鹿と鳩の肉を使ったクラシックなジビエのテリーヌをオーダーしたが、抜群においしかった。ワインも実においしく、いい気分になって外に出ると、夜の空がまた素晴しく美しかった。すぐタクシーに乗るのも勿体ないので、並木橋を抜けて六本木通りまで歩いたが、ニューヨークのダコタの情景が夜の闇の中に幻のように映し出された。


12月9日(木)気になっていた※66「バーレスク」の試写を観る。クリスティーナ・アギレラとシェール共演のクラブを舞台にしたエンターテイメント映画。ストーリーは大味だが、ステージパフォーマンスのシーンが抜群によく出来ている。今どきの不動産屋からクラブを売らないかと持ちかけられながら再生に賭ける女たちという設定も悪くない。オリジナル曲と既成曲を何の異和感もなくブレンドさせた音楽の使い方もうまいし、撮影もステージパフォーマンスの迫力を見事にスクリーンに映し出している。打合せは2つ。あとは電話で用事がすむし、メイルのやりとりが日常化しているので、仕事が妙に淡々と進んでいく。「バーレスク」の世界はメイルなど無関係なものだったが、そんなことをぼんやりと考えながら帰宅して夕刊を開くと、戸川昌子さんがオーナーの“青い部屋”が閉店危機という記事と、ジョン・レノン没後30年を迎えた8日、セントラルパーク内の“ストロベリー・フィールズ”にたくさんのファンが集まったという記事が目についた。そして、昨日のジョンの命日にエルヴィス・プレスリーのヴォーカル・トラックを残しつつ、今風のサウンドと合体させたアルバム※67「Vivaエルヴィス」が“33年ぶりのニュー・アルバム”と銘打って発表されたのは偶然なのだろうか。かつてジョンが口にした「ラジオから流れてきたエルヴィスの『ハートブレイク・ホテル』の方が学校の授業などよりずっとリアルだった」という名言がフラッシュバックして、また記憶旅行の世界に入り込んでしまう。それからはジュゼッペ・トルナトーレ監督の最新作※68「シチリア!シチリア!も手伝ってとても不思議な時間が流れていった。

※66 そのものずばり“バーレスク”というロサンジェルスのクラブを舞台にした極上の娯楽映画。監督は実際のライヴのバーレスク・ショーの脚本を書いた経験を持つ監督兼俳優のスティーブン・アントン。絶対に映画館の大画面と大音響で楽しむべき映画だ。12月18日ロードショー公開。(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
※67 ラスヴェガスで公演中のシルク・ドゥ・ソレイユによる“VIVA ELVIS”の音楽プロデューサー、エリック・ヴァン・トルノーとヒューゴ・ボンバーディアが制作。エルヴィスが残した無数のアルバム、フィルム、ライヴ録音、インタビュー他、3千時間以上を費して聴き直し、楽曲を1万7千以上サンプリングして作られた労作だ。(ソニーミュージック・ジャパン・インターナショナル)
※68 「ニュー・シネマ・パラダイス」の名匠トルナトーレが今度は故郷シチリアの田舎町を舞台に1930年代から80年代までの世界のトピックを活き活きと織り交ぜながら、ある家族の愛と絆、彼等を取り巻く様々な人々の人生模様を見事に描き上げた。20世紀を巡る“旅”のような作品にふさわしい音楽を担当したのは「ニュー・シネマ・パラダイス」以来すべてのトルナトーレ作品を担当している巨匠エンニオ・モリコーネ。これもスクリーンで見たい感動の大作だ。12月18日ロードショー公開。(角川映画)

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