立川直樹の内省日記

2010年12月4日(土)

11月29日(月)枯葉の舞う中をレナード・コーエンの「テン・ニュー・ソングス」を聴きながら大学に向かう。レナード・コーエンの声と情景が昨日の時間とつながってしまう。それにしても今年は何十度コーエンの歌を2CVの中で聴いただろうか。部屋も含めて間違いなく今年も聴いた回数のNO1はレナード・コーエンだ。声と詩、サウンドが僕の生理と波長に本当にぴったりと合っている。そのテイスト的なことで言うと、ポスターハリス・ギャラリーに4日間だけ出現した「山口椿の館」の主人公である山口椿氏の書く文章も毛筆の文字もエロティックな絵も性に合うことがKIRIN LAGER CLUBの打合せと3時半からの試写の間に駆け足で覗いたギャラリーで再確認できた。そして、それはドイツ映画にも言えるかも知れない。フランス、イタリアとの合作の形になっているが、ハンブルグを舞台にした※63「ソウル・キッチン」はスクリーンの前に坐っていた1時40分の間、現実を忘れさせてくれる最高に楽しい映画だった。ほとんど何の予備知識もなく、試写状を見た勘だけで出かけたが、本国ドイツでは公開2ヶ月で130万人を動員する大ヒットを記録したというのにも納得。ストーリー展開も音楽の使い方も含めて超A級の大人の喜劇映画だ。それでテンションが上がったせいもあって、夜の“孫”での松井クンとの会食“PB”から“J-PARK”への流れも快調至極。紹興酒からハイボール、最後は赤と白のワインまでと続いたが眠気などもどこかに飛んでしまっていた。来月半ばでの大阪での再会を約束して別れたが、大阪の夜もまたかなり盛り上がりそうだ。

※63 ベルリン、カンヌ、ヴェネチアという世界三大映画祭を制覇した若き巨匠ファティ・アキンの最新作。ハンブルグのレストラン“ソウル・キッチン”を舞台に展開する物語は、比類なきおもしろさ。目で観て、音楽を聴いて、食事を想像して喉を鳴らす……そう、これは五感を満たす快作である。1月22日ロードショー公開。(ビターズ・エンド)


11月30日(火)KIRIN LAGER CLUBの200回記念イベントと久石譲ソウル公演と2つの打合せをすませた後、「ノルウェーの森」の試写に出かけられると思い、映画会社に混雑状況を聞いてみると、開映30分前ではないと無理…との答。本当にしばらく前から試写室の混み方はエスカレートしているが、昨日の朝日新聞に載っていた“文化変調”の“第5部 ゆらぐ権威2”の“芸術性より売れ筋”の記事の中にあった「淀川長治、小森和子ら個性豊かな名物評論家が、観客動員に影響を及ぼす時代があった。評論家や映画誌編集者ら限られた人たちの持つ情報や評価は、ファンにとって貴重だった」という文章を思い出しつつ、昔の試写室は限られた人たちだけが集い、大体すわる席まで決まっていたことが情景とともにフラッシュバックしてきた。時代は間違いなく変わった。そして、朝刊にはアービン・カーシュナーとマリオ・モニチェリという“映画の良き時代”を生きた2人の巨匠の死亡記事。カーシュナー87歳、モニチェリ95歳というのはまあ大往生だが、モニチェリの「入院中の病室から飛び降り自殺…」というのは実に映画的だ。夜は久々に“ラ・ブランシュ”で食事。前菜からデザートまでいつもながら申し分のない料理だったが、ジュヴレ・シャンベルタンと仔鴨のローストの相性は絶品だった。


12月1日(水)“中村勘三郎・金澤大歌舞伎”公演のため金沢に移動。空港に着くとすぐにまずは腹ごしらえと、勘三郎さんたちと“小松・弥助”でお寿司を食べ、それからは金沢市役所で勘三郎への金沢市からの感謝状授与に立ち会う。天気もとてもいいので、会場の金沢歌劇座の入り口の飾りつけもスムースで何だかのんびりした気分で時間が流れていった。演者も裏方さんも含めて、玄人の人たちの仕事というのは安心だし、つきあっていても気持がいい。だから、夜のお酒も実においしかった。場所は“匠屋”。田中夫妻と山本氏と、香箱ガニや岩ダコバター炒め、能登がきの天ぷらなどに舌鼓を打つ。女将おすすめの“初音”のぬる燗も申し分なし。そして“匠屋”の後は東の茶屋街の“照葉”に流れ、偶然居あわせた弥十郎とも合流して、今度は白ワインと赤ワイン。眠気と酔いが融け合って軽くトリップしてしまった。


12月2日(木)きょうも冬の金沢とは思えない天気の良さ。“金沢歌劇座改修完成記念”と銘打ったこけら落とし公演の初日としては申し分ない。きょうと明日の合わせて4公演も完売。満員のお客様も「棒しばり」と「仇ゆめ」の2本立てには100パーセント満足してくれた感じが拍手から伝わってくる。そして昼の部が終わってからは金沢工業大学で“世界を変えた書物展”の打合せ。次々とアイデアが飛び出し、いい打合せになったが、竺先生と出かけた“太平寿し”と二次会の“江戸弥”でも話が弾んだ。まだ2日目にして金沢の夜はかなりの盛り上がり。ホテルに戻ってから80年代のミュージック・ビデオはいい感じのデザートになった。カルチャー・クラブにヒューマン・リーグ、デュラン・デュランにスクリッティ・ポリッティ、ティアーズ、フォー・フィアーズ……80年代のロンドンの記憶が甘酸っぱくフラッシュバックしてきた。


12月3日(金)“金澤大歌舞伎”2日目。10時に歌劇座入り。11時から1回目の公演が始まったが、本当にいい仕事になったという満足感がある。その後、兼六園に野外歌舞伎の可能性を模索するべく下見に行くが、途中で嵐に巻き込まれる。いきなりの風と強い雨……ちょっと映画的な体験だった。そして3時からの公演終了後は、田中さんのお誘いで山代温泉の“瑠璃光”に移動。ゆっくりと風呂に入り、会話を弾ませながら食事をし、いい打ち上げになった。ロビーで演じられた“一向一揆太鼓”は温泉旅館のアトラクションの域を超えた魅力あるパフォーマンス。田中さんと、これは演し物になるよねと大いに盛り上がった。お酒はビールから日本酒、それにボジョレー・ヌーヴォから最後は冷蔵庫に入っていた白ワイン。気分も体調もいいので身体がまるで海綿が水を吸い込むかのように、受け入れていた。


12月4日(土)久しぶりの温泉は滞在時間こそ短かかったが、いい骨休めになり、いい一区切りになった。昼過ぎには東京に戻り、午後は留守にしていた間の新聞を読み、郵便物などを整理しているうちに陽は落ちてしまったが、その後は5時30分からの“報道特集”を手はじめに日本酒を飲みながらテレビ三昧。“報道特集”のウィキリークスの特集もおもしろかったら、7時からBJ朝日の“開局10周年記念週特番”として9時まで放映された<戦場の花・東京ローズ~謎の謀略放送 女性アナウンサーの正体~>は抜群のおもしろさで、ますます東京ローズに対する興味がつのった。9時過ぎの“NHKスペシャル”の<安保50年>の第1回目はまずまず。10時からの定番<ニュースキャスター>は相変わらずたけしさんのキレッぷりが楽しい。番組の中でたけしさんも思いっきりパロっていたが海老蔵事件の展開は何だか安物のドキュメンタリードラマの如き様相を呈し始めている。

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