立川直樹の内省日記

2010年11月23日(火)

11月16日(火)たまに日曜日などが抜けることはあっても、毎日きちんと書き続けている。旅先のホテルの部屋でもどこでも…今は習慣になっている。この日記を見て電話をしてきてくれる人もいれば、パーティーの会場で出会ったりした時に映画の感想などを話してくれたりもする。世の中がこんなふうにつながっているのが、40年も前から雑誌に原稿を書き続けていた僕としてはとても不思議な感じがする。今日の朝刊に大きく死亡記事が載っていた作詞家・星野哲郎さんの事務所の名前が“紙の舟”というのも、詩を思いつくとメモを書き、それを奥様が清書し、そのノートが何十冊もあるという話が僕の思いとクロスした。書いた詩は4800に及ぶとか。歌謡曲は門外漢の僕だが、それでも耳なじみの曲はたくさんある。ジャンルを問わず“いい歌”というのは時代を超えて存在するものだが、午後の飛行機で小松に飛び、金沢の本多の森ホールで谷村新司さんの歌を聴いている時にもそれを思った。「それぞれの秋」「遠くで汽笛が……」「世界の果てに」etc…コンサートの終了後、旧交を暖めながら、“桃季”で食べた中華料理もホテルの中華としては満足感のあるもので、会話も音楽から都市の秘密まで楽しく弾んだ。部屋に戻り、窓辺から見た金沢の夜景はとても静かで美しかった。


11月17日(水)ホテル日航金沢の朝食はとてもおいしい。30Fのスカイラウンジ“ル・グランシャリオ”。メニューも充実しているし、ビュッフェ形式なのに雑然とした感じがないのもいい。きょうもシリアルからクラムチャウダー、最後のフルーツまでたっぷりと朝食をとり、ゆったりとした気分で東京に戻る。午後は3時半からジェイミー・フォックスとジェラルド・バトラー共演の「完全なる報復」の試写。やや乱暴な展開で劇画調の作りだが、スピード感もあり、中々楽しめた。そして6時半からはブラジル大使館で、“カルト映画の秘宝”というウタイ文句にひかれて「マクナイーマ」の試写。雨の中のお出かけだったが、「“モンティ・パイソン”×『エル・トポ』」というコピーに偽りなしの笑える怪作だった。その後は青山の“FIGARO”でユニバーサル・ミュージックの石井さんたちとフレンチ・ポップスのプロジェクトのミーティングを兼ねた会食。エスカルゴやウズラのファルシといったオーソドックスなメニューとシャンパンや赤ワインがいい感じでとけあい、話も盛り上がって楽しい時を過ごした。その帰り、昔住んでいた西麻布の家の前を通りながら“PB”に寄ったが、石田えりさんと、マネージャーの佐藤クンが現われて、夜の第2部という感じで話が盛り上がり、家に帰ったら3時近くになっていた。


11月18日(木)2日続けて普通の時間よりも夕食を2時間ほど遅く始めたことと、ちょっと寝不足もあって、いつもの朝より頭がすっきりしない。そんな中で朝から“松竹ヌーヴェルバーグ”のフレーズにひかれて、吉田喜重監督の1961年の映画「甘い夜の果て」を観てしまったものだから、変なリズムで1日が始まることになってしまった。映画の後は事務所で長目のミーティングがあり、3時半からは「ビン・ラディンを探せ!」の試写。ビッグマックを食べ続けて話題を呼んだ「スーパーサイズ・ミー」の監督モーガン・スパーロックが前作同様、自分が“主役”となり、「オサマ・ビン・ラディンはどこにいるんだろう?」と質問しながらイスラム諸国を駆け回る映画だが、とてもよく出来ていて、変な言い方だが、最高に楽しめた。夜は東京文化会館大ホールでクラシックのオーケストラとポップス系のアーティストがコラボレーションするというシリーズの“シンフォニック・ガラ”。メインゲストの稲垣潤一さん目当てで出かけたが、歌った曲が思ったより少なく、また全体のMCが多過ぎたこともあってやや消化不良の印象。帰りに里中氏と寄った“ピーヴィー”で何となく帳尻があった感じだが、外に出ると夜11時過ぎの六本木の街は道ばたに立っている輸入黒人や毒々しい看板なども含め、70年代のニューヨークのように見えた。家に戻ってテレビをつけると、参議院予算委員会の国会中継はまるでもうモンティ・パイソンのノリ。こんな人たちのために税金が使われているのかと思うと、何だか妙に情けない気分になってしまった。


11月19日(金)久々に“Va-tout”で三島クンとタカハシカオリとランチ・ミーティング。夕方はこれも久々に“MNS”で夏木マリさんと斉藤ノブと“HIBARI 7DAYS”と“KIRIN LAGER CLUB200th”のミーティング。夜は“霞町三〇一ノ一”でAUDIの人達と会食をした後、“PB”に流れるというスケジュール。世間では柳田法相をはじめとする閣僚の失言問題でひと騒動が起き、今週はアップルが“アイチューンズ・ストア”でビートルズの楽曲の販売を開始するというニュースもあったが、僕の日々は何だか実に淡々と変わらず過ぎている気がする。どこかで自分が自分を見ているという感覚……妙なタイムスリップ感もあるし、それはどこからきてくるものなのだろうか…


11月20日(土)何と199回目を迎えた“KIRIN LAGER CLUB”。渋谷クラブクアトロでストークロ・ローゼンバーグ・トリオを主役に<ジャンゴ・ラインハルト生誕100周年記念コンサート>の開催となったが、ハッチハッチェルバンドから渡辺香津美まで6組のアーティストの健闘ぶりもさることながら、現在のジプシー・スウィングの最高峰ギタリストと言われているストーケロ・ローゼンバーグが中心となったトリオの演奏は今年も見たライヴの中でも1、2を争うもの、5年ほどさかのぼってもべスト5に入る素晴しいものだった。切れ味鋭い速弾きギターと、正確に刻まれるギターのリズムとベースのビートの完璧なハーモニー。強力なスピード感がありながら、エレガントなサウンドは知性的で、3人のたたずまいも含めて“ダンディズムの極致”ともいえるパフォーマンスだった。その音楽の素晴しい余韻もあってクアトロからほど近い“魚山亭”でのLAGER CLUBチームとの二次会もストーケロ・ローゼンバーグ・トリオからビートルズの話題までふくらんで大盛り上がり。大好物のむかごの酒盗煮をはじめ、豚軟骨煮や地ダコなどのツマミもおいしかったし、ビールとくどき上手との相性もぴったりだった。それにしてもよく飲みよく食べた1週間。仕事はいろいろなことが絡み合いながら、軽い渦巻きのような状況になっている。


11月22日(月)丸1週間びっしりとスケジュールをこなし、おまけに夜は宴会モードの会合が続いたのと、昼間にボジョレー・ヌーヴォーをたっぷりと飲んでしまったこともあって昨日はWOWOWで滝田洋二郎監督の1999年の映画「秘密」を観た(これが意外な拾いもの。滝田監督は「おくりびと」もそうだったが、玄人ならではの映画を作る人だ)以外はほとんど何もせずに1日が過ぎてしまった。きょうは一変、午前中は大学で授業をし、午後はIRC2で粕谷氏と打合せをしてから、根津美術館で明日から始まる「絵のなかに生きる~中・近世の風俗表現」の内覧会を覗き、4時半前にはホテルニューオータニの鶴の間で開かれた<TOKYO FM MEDIA PRESENTION2011>の席に坐っていた。その後は懇親パーティーにも出席、7時には久石譲さんの愛娘、麻衣さんのショーケースライヴを見るために銀座YAMAHAホールにいた。きっと人は神出鬼没だと思うに違いない。そしてYAMAHAホールの後は久石さんと「一杯飲もうか…」ということになってオークラのBAR“HIGHLANDER”に行ったが、話が弾んであっという間に2時間近くが過ぎ、2、3ヶ月に1回はこういう時間を過ごそうということになってお互い帰路についた。帰宅後、テレビのニュースを見ながら、夕刊を読むと、東京新聞に坪内祐三さんの「Vシネ感と銀幕感~白鵬、スターへの黒星」という中々いけてる文章が載っていた。隣のコラム“大波小波”の「百年後の日本」も“なるほどね”とうなづけるもの。この新聞を開くというアナログ的行為を僕はきっと永遠に続けていくのだろう。そこでは何かが見つけられる……


11月23日(火)勤労感謝の日ということで休日。新聞をゆっくり読んで、―朝日新聞の<小国の映画通じて世界知る>という記事の中の映画評論家の佐藤忠男さんが“ハリウッド作品は「ものを壊す映画」と指摘し、その対極に、あるモンゴル映画を挙げた。…”という一節に妙に納得する―のんびりし、WOWOWでデビッド・ヘイ対オードリー・ハリソンのWBA世界ヘビー級タイトルマッチやニック・カサベテス監督の「私の中のあなた」を見たり、資料や本をかたづけたりしていたが、夕方の4時半にいつもより少し早く始まったニュースでいきなり北朝鮮が韓国に砲撃という衝撃的なニュースが流れてびっくり。それからはテレビに釘づけになってしまったが、あの国の人たちは一体何を考えているんだろう。日本の政治情況もよくないし、何だかブルーな気分になって夜が更けていった。

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