立川直樹の内省日記

2010年11月15日(月)

11月9日(火)9時ちょうどに諏訪を出発、東京に戻る。渋滞表示と戦いながらのドライヴだったが、結果的には3時間弱で到着したから、これは神に感謝。夜は今日からスタートするBAR“EDO WONDERLAND”のオープニング。日光江戸村から来てくれた花魁の妖しい美しさはBARの中は勿論、MARUNOUCHI HOUSEの中でも異彩を放ち、TOKYOならではの異空間を生み出すことができた。BARで組んだいくつかの打合せもお酒のほどよい助けもあってうまくこなれ、最後は“ソバキチ”で森永博志一行に合流、シャンパンから始まった夜はキリッと冷えた菊正宗でうまくしめられた。明日は金沢行き。仕事も私生活もスケジュールも含めて、日々の動きが旅のゲームの色彩が強くなっている。


11月10日(水)10時15分発ANA753便で小松に向かう。空港からは石川県立音楽堂に直行。午後は平原綾香withオーケストラ・アンサンブル金沢コンサートのリハーサルに時間を費す。全曲クラシックのコンサートは彼女にとって初めての試みだが、オーケストラのレベルも高く、申し分ないコラボレーションになった。進行もスムースで予定より1時間も早くリハーサルは終了、夜はKCSの久保氏の案内で指揮者の渡辺俊幸氏と一緒に片町の“信寿し”で食事をする。和倉から出た寿司屋とのことだが、久保氏が持ち込んだ玉村豊男ワイナリーのシャルドネとスパークリングワインが旬の香箱ガニや甘鯛の昆布〆、エビミソなどと実によく合い、また会話も弾んで楽しい夜になった。最後に食べた黒作り巻は中々の珍味。大好物の香箱ガニも絶品だったし、金沢でまた1軒レパートリーが増えた。ホテルに戻ってからは尖閣映像流出を申し出た海上保安官の男のニュースを映画を観るような気分で見ていたが、国の対応は本当にお間抜けだ。この問題に限らず、この国はどこまで幼稚化してしまうのだろうか。


11月11日(木)深夜2時、ホテルの部屋に戻った時に毎日こんなに飲んでいていいのか、とふと思う。石川県立音楽堂での平原綾香withオーケストラ・アンサンブル金沢コンサートが成功裡のうちに終了した後の“匠屋”での打ち上げでビールと白ワイン、その後に流れた主計町の“輝”でシャンパンと白ワイン、本当によく飲んでいる。でも、体調は全く悪くないから、勝手に健康のバロメーターだと思う。山下洋輔の痛快エッセイ「ピアノ弾き即興人生」のノリで刻明に文章化したらちょっとおもしろいかも知れないなどとも考えたりする。明日は東京。こうして書いていても週末には何を飲もうかと考えているのだから、これはもう始末におえない。でも、まあ一度だけの人生だし、予定よりも長く生きているのだから…


11月12日(金)と思いながら眠りについて起きたのは、飛行機の出発時間を考えて6時。短い睡眠時間と、いかの黒作りから始まって最後のアンコウの唐揚げまでたっぷりと金沢の幸を堪能してから7時間ほどしかたっていないのにきちんと食欲がある。これならまだまだ大丈夫だと思いながら朝食をとり、バッグに荷物を放り込んでチェックアウトを済ませ、空港に向かう。外は小雨、冬の金沢らしい空の色……昨日の午前中BSで放映されていたイアン・ボストリッジ・テノール・リサイタルの中の「20世紀のブルース」がいきなりフラッシュバックしてくる。カワード作詞作曲のいい曲だ。そして東京に戻ってからは自宅と事務所で留守中にたまっていた郵便物やプリントされたメイルの整理。メイルの普及と正比例するかのように電話が少なくなっているので何だか静かに時間が過ぎていくようになった。会話が苦手だという人がどんどん増えているのも仕方がないなと思いながら、一体世の中はどうなってしまうんだろうという思いが頭の中に広がっていった。


11月13日(土)朝刊にイタリアの映画プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスの死亡記事。91歳の大往生。21世紀に入っても「ハンニバル」などで名前を見たが、60年代と70年代にどれくらい彼の名前を目にしたことか……伊勢丹で12月に開催される「ジョン・レノン・フォーエバーメモリアルデー・キャンペーン」の中の企画“ソングス・フォー・ユー”の選曲をするためにジョン・レノンのCDを聴き続けていた時も、いろいろな記憶と思いが映像と歌声とシンクロしていた。どこか霊的な感じもした不思議な体験。そこにデジタルの気配は全くない。ジョン・レノンの選曲を終えたらシド・バレットを聴くのが楽しみだ。


11月14日(日)凄い試合だった。WBC世界S・ウェルター級王座決定戦。5階級制覇チャンピオンのマニー・パッキャオvsアントニオ・マルガリートの戦い。テキサス州アーリントン・カウボーイスタジアムを埋めた6万人の大観衆と137ヶ国に配信されたLIVE映像でその試合を目撃した人は100パーセントの満足感があっただろう。フライ級から階級を上げて遂には6階級制覇を成し遂げたパッキャオの恐るべき強さ。選手入場から試合が終わり、パッキャオのインタビューまでの1時間強のドラマはパッキャオ・フリークの僕の期待を超えていた。近いうちにまた“開化亭”の町田さんとパッキャオ談議をするのが楽しみだ。


11月15日(月)凄い映画だった。今年12月3日に80歳を迎えるジャン=リュック・ゴダールの最新作※61「ゴダール・ソシアリスム」。前作「アワーミュージック」以来6年ぶりの長編劇映画だが、冒頭での海の凄まじい映像の一瞬から、全編を疾走する映像美、サウンド、みなぎる詩の活力で、カンヌを圧倒したというのも十分過ぎるほどわかる。毎日楽しく刺激を受けながら読み進んでいる「幻覚より奇なり」の田名綱敬一さんもそうだが、自分より一回りも2回りも年上の人のクリエイティブなエネルギーを浴びると元気になれる。世の中がAPECの菅直人首相のみじめったらしいたたづまいからはじまり、何だかしけてしまったので、映画や本、CDは今や僕の絶対的な栄養源だ。「ジョン・レノン・アンソロジー」に収録されているジョンのレアなトラックも今の気分に妙にフィットする。夜の“吉成”での小見山さん、田中さんという気心の知れた人たちとの酒宴もいい感じだったし、やっぱり音楽が好きな人はベーシックなところでウマが合う。変に飾ったところのない魚料理もおいしかったし、日本酒の品揃えも中々だった。そして、帰りに田中さんに誘われて寄った西麻布の隠れ家的BAR“やわら木”でさらにテンションは上がった。田中さんの小学校の後輩という御主人の出すツマミのうまさとシャンパンに赤ワイン、それに日本酒。熊本から直送という馬レバにからしれんこんetc……タクシーを降りて家に戻る時は完全に千鳥足になっていた。

※61 タイトルもエンドマークも出ないし、中味も徹底的に通常の商業映画とは一線を画している。でも、文句なしにゴダールに酔える。公開は12月18日。それを記念して11月27日から12月17日までTOHOシネマズシャンテで開催される<ゴダール映画祭2010>も楽しみだ。(フランス映画社)

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