立川直樹の内省日記

2010年11月4日(木)

10月30日(土)大型台風が週末に関東に接近することを予想などしていなかったが、週末の3日間、きちんとした予定を入れていなかったのは正解だった。昨日は月曜から4日間の過密スケジュールの帳尻を合わせるような感じで9時前にはベッドに入って爆睡。今日は、日中首脳会談延期、事業仕分け、それに台風14号の情報、というどこの局でも同じように報じているニュースを横目で見ながら、読書と映画で1日を過ごす。10月中に読み終えてしまおうと思っているジャック・ケルアックの「荒涼天使たちⅡ」と、山田勝仁さんから献本いただいた「寺山修司に愛された女優へ演劇実験室◎天井棧敷の名華・新高けい子伝」の2冊にタイミングよくBS2で放映された72年の映画「狼は天使の匂い」と日本未公開の「ドランのキャデラック」。2冊の本はビートニクとアングラがいい感じで共振し、スティーヴン・キング原作の「ドランのキャデラック」は主演のクリスチャン・スレイターの人気と内容を考えると、一般公開は無理だったものの週末の休みにテレビで楽しむにはもってこいの映画だった。そして公開当時は最高に好きと思っていた「狼は天使の匂い」は1、2ヶ月前に観た「あの胸にもう一度」と同じで、何だか拍子抜け。人の記憶なんて意外とアテにならないものだと思いながら、2冊の本に戻っていった。BGMはタンジェリン・ドリームの旧譜と、ランディ・ウェストンのモントレー・ジャズ・フェスティバルの1966年のライヴ盤。映画より音楽の方が歳をとらないのは何故だろうと思いながら、酔いもほどよく回り、夜は静かに更けていった。


10月31日(日)新聞にMGMが破産したという記事。「風と共に去りぬ」から「007」シリーズ、「ロッキー」などで知られるハリウッドの老舗映画が長い歴史に幕をおろした。昨日テレビで見たグーグルが扱う電子書籍の特集や、今日の夕方に見た“ANREALAGE”のショウルームに飾られていたコレクションの服の数々がその記事と重なり合う。本当に世界は変わってしまった。物の価値感も、人の思いも……。そして夜WOWOWでローランド・エメリッヒ監督の「2012」を観て、さらにその思いは強くなる。空恐ろしくなるほどの実体のなさ。その後のニュース番組で扱われていた通販にはまっている人たちと、“SHOWBIZ”の全米映画TOP10はその思いを加速させた。ひとつの月のしめくくりとしてはいい区切りになったかも知れない。いろいろなことを考え、自分でも飽きれるほどに雑食的に物を見た10月だった。


11月2日(火)朝の10時から※57「キス&キル」の試写に出かける。昨夜は12時近くまで河鍋暁斎をメインのサカナにして宴会をしていたのに、朝早くからコメディというのも酔狂かつ現実離れしているが、これが実に屈託なく楽しめた。ロシア大統領の電撃的国後島訪問を筆頭に世界の情況はますます映画じみてきているのと妙にシンクロし、そこに昨日から聴いていたブランキー・ジェット・シティのエッジの効いた歌とサウンドがスパイスのようにふりかけられている感じだ。そして午後は打合せを2つしてから夜は目黒雅叙園の保存建築“百段階段”で開催される※58<華道家 假屋崎省吾の世界~IBUKI息吹~>のお披露目会を兼ねたレセプションパーティーに顔を出す。今年で11年目になるということだが、百段階段の途中にある全部で7つの部屋に活けられた花はダリと鈴木清順が一緒に宴会をしているような毒気が妙に魅力的だった。と同時に、その部屋で酒宴でも開けないものかという願望が頭をもたげた。かつてはそこで食事を楽しんだという歴史があるわけだから、これはトライしてみる価値は十分にある。

※57 ロマンティックコメディの2大スター、キャサリン・ハイグルとアシュトン・カッチャーの初顔合せが実現したことでも話題の映画はイギリス、フランスで初登場No1というのも納得のエンタテイメント作品。ロマンスとコメディ、サスペンスの要素をうまくブレンドした監督はロバート・ルケティック。日本でもこういう粋なセンスの映画が作れないものだろうか…。12月3日公開。(GAGA)
※58 展覧会は11月21日まで開催。専任ガイドがつく夜の特別鑑賞ツアーなども用意されている。


11月3日(水)文化の日、朝のテレビで“文化の日”は統計的には晴れる日が多いと言っていたが、本当に気持のいい秋晴れ……家と事務所のかたづけを楽しんだ。山のような資料を整理していると、全てが現物なので、いろいろな記憶がリアルにフラッシュバックしてくるが、ここ数年はやりとりもほとんどがメイルになり(僕はプリントアウトしてもらって見ているだけだが…)、何もかもが画一化してしまっているので何ともつまらない。そして、音楽業界の大きな変化も、夕方から出かけた<斉藤ノブ 還暦6夜―ロック屋―>の第2夜、<NOBU CAINE SPECIAL>の会場である“渋谷プレジャープレジャー”でも感じた。手練れのミュージシャンたちによるグルーヴ感のある“生演奏”。ゲストの角松敏生も「レコード会社も景気が良くて好きなことをやらせてくれた時代…」というような言葉を口にしていたが、角松敏生がカバーした小坂忠の「機関車」と、同じようにゲストとして登場したムッシュかまやつの「YA!YA!」は絶対に“生”、そう“現物”でなければありえないものだった。その余韻は渋谷の街の記憶ともシンクロして妙に覚醒した高揚感につながり、帰宅後は赤ワインとレバーペーストに始まり、最後は日本酒にまで手をのばしてしまった。テレビのニュースはメドベージュフ大統領の北方領土訪問騒動とオバマ民主大敗と、早慶戦の斎藤投手の話題が中心。最後のしめくくりは「寺山修司に愛された女優」になったが、本の中でクロスする様々な人々の人生と、中に引用されている寺山修司の言葉が甘い麻薬のように僕を魅惑した。寺山式にいけば、人生はいくつあっても演じることは可能かも知れない。


11月4日(木)打合せ2つと映画とミュージカル。伊勢丹本店で12月に開催されるジョン・レノンのイベントのための選曲は楽しい仕事になりそうだし、PMCの作業も順調に進んでいる。映画※59「モンガに散る」は今年の台湾映画最高動員記録を樹立し、第83回アカデミー賞外国語映画賞の台湾代表正式選定作品になったのも納得の力作。素晴しくエモーショナルな演出と良く出来た脚本に加えて、出演者は全員が魅力的で、音楽も最高だった。かつて「非情城市」で一緒に仕事をしたホウ・シャオシェンが「ニウ・チェンザー監督は今後10年の台湾映画界を担う監督になるだろう」と絶賛しているのもよくわかるし、音楽のサンディ・チェンとは機会があれば、是非一緒に仕事をしてみたいと思った。そして映画が余りにも濃密かつ綿密だったこともあってミュージカル「ファントム」は全体として物足りなかった。何といっても問題は“天使の歌声”とファントムが惚れ込むクリスティーン役の杏の歌が残念ながら、そうは思えないこと。宝塚出身の樹里咲穂のわざとらしい歌も苦手だったし、大沢たかお、篠井英介…といった男性陣の健闘も空転していた。舞台は難しいと思いながら、休憩をはさんで3時間客席に坐っているうちに、舞台を作りたい欲求がゆっくりと頭をもたげていった。帰宅後は佃煮を肴に日本酒を飲みながらテレビのニュース。前日の新聞でも報道されていたが、村上龍が電子書籍制作・販売の会社を設立したという記者会見は、今後いろいろな動きが起きるだろうことを予感させてくれた。思い起こしてみれば、盟友・森永博志と“ルーティ・ブックス”なる本のレーベルを設立したのは、もう35年近く前のことになる。細野晴臣の「地平線の階段」、泉谷しげるの「生き娯楽主義」、拙著「虹色の望心鏡」…2人で書いた本や文章を電子書籍化するという森永博志のアイデアは現実味を帯びてきている。

※59 台北の下町・モンガを舞台に極道の世界に染まっていく5人の若者たちを描いた力作。80年代の時代考証も完璧だ。12月18日公開。(ブロードメディア・スタジオ)

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