立川直樹の内省日記

2010年9月27日(月)

9月21日(火)気になっていた映画※33「レオニー」の試写を観る。彫刻家イサム・ノグチを育て、自らも波乱の時代を生き抜いたアメリカ人女性レオニー・ギルモアの生涯を綴った映画でとても丁寧に作られていたが、何かもうひとつ欲しかったというのが偽らざる実感。でも、爆発だとか変身だとかがCGまみれで大手を振っている映画業界にあっては、こういう映画と出会うとホッとできる。試写の後は事務所で“ひばり10DAYS”の打合せをしてから夜は新宿のゴールデン街劇場で、WAHAHA本舗のメンバーによる<セクシー寄席のお熱いショーパブ!>。ここまでやるかというおもしろくエロいネタの連発で、思いっきり笑わされ、あっという間に2時間半が過ぎた。その後の“鼎”の飲み会でも“セクシー寄席”の話に終始、12月の公演もまた行こうと盛り上がったが、やはり“ナマの力”は凄い。途中で紹介していたWAHAHAの他のメンバーによるイベントもみんなおもしろそうだった。

※33 「ユキエ」「折り梅」で家族の絆を描いた松井久子監督の3作目。エミリー・モーテイマー演じるレオニーを取り巻く人間関係と、100年前の日本やアメリカの世相もうまく描かれていて、天才イサム・ノグチの影にこの母ありと実感させられた。11月20日ロードショー公開。(角川映画)


9月22日(水)暑い。遂に都心の真夏日が史上最多になったという。この夏、スケジュールをルーズにしておいて本当によかったと思う。きょうも午後1時から“珠玉のクライム・サスペンス”というウタイ文句にひかれて※34「クロッシング」の試写に出かけ、4時からKIRIN LAGER CLUBの打合せをした以外は事務所と自宅のかたづけに随分時間が使えた。BGMはボブ・ディランの※35「ザ・ブートレッグ・シリーズ第9集:ザ・ウィットマーク・デモ」。不滅の名曲の原石の輝きからパワーがもらえた。

※34 ニューヨーク、犯罪多発地区ブルックリンで働く3人の刑事たちを通し、正義とは何かを観客に問いかける映画。リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルが共演、「トレーニング・デイ」で評価を決定的にしたアントワン・フークアが重厚にまとめている。10月30日に全国ロードショー。(プレシディオ)
※35 録音から半世紀を経て正式に陽の目を見る貴重な音源集。ディランが音楽出版社用に録音した47曲のオリジナル・デモ・レコーディングが収録されている。日本発売は10月27日。(ソニー・ミュージック ジャパン インターナショナル)


9月23日(木)温度が急激に下がる。昨日との温度差15度以上。テレビの天気予報を見ると季節は2ヶ月半ほどいっぺんに進んでしまったらしい。おまけに雨降りで、彼岸の中日なので墓参りにでもと思った気持も萎え、ほぼ1日中レコードを聞きながらかたづけものを続ける。浅川マキの「MAKIⅡ」とアダモ、それにスサーナ・リナルディ……。アナログで聞く浅川マキの歌には完全に連れていかれる。その毒が身体に回っていたせいか、夕方雨の中を出かけた京都造形芸術大学・東北芸術工科大学外苑キャンパスに展示されていた“卒業生・学生精鋭”作品・約40点はとても淡白な印象を受けた。ヤノベケンジの作品も何故か居心地が悪そうに存在していた。


9月24日(金)朝日新聞の朝刊に「サマセット・モームもスパイだった」という記事。数日前に東京新聞にも載っていたが、イギリスで出版された情報機関「対外情報部(MI6)」の正史をまとめた本で明らかにされてるという。MI6と言えばジェームズ・ボンドの所属先。記事ではグレアム・グリーンも所属していたというし、ちょっとした驚きだ。そして驚きの質は違うが、1時から観たブルガリア映画「ソフィアの夜明け」は映画の質と志の高さに驚かされた。昨年の東京国際映画祭では「イースタン・プレイ」の原題で出品され、審査員満場一致でグランプリを含むトリプル受賞を成し遂げた作品。こんなリアルでビターな青春映画を日本映画界は生み出せないものだろうか。映画の後は、長崎センタービル2Fギャラリーで開かれていた高原至写真展<幻の世界遺産~被爆遺構・旧浦上天主堂の記録>をはじめに、銀座三越の<山本容子の劇場 鏡の国>、松屋銀座の<昭和・メモリアル 与勇輝展>と3つの展覧会をはしご。歩いていると、銀座の街も本当に変わったなとしみじみと思ってしまった。夕方には“HIBARI 10DAYS”の打合せ。うまく進みつつある。人が多くないのがシンプルでいい。そして、それとシンクロする朝日新聞の夕刊に載っていた川島透監督の16年ぶりの復帰についての「製作委員会方式になじめなかった。大人なら皆どこか妥協しながらやっているんでしょうけど、考え抜いて積み上げたものが、つまらない理由で崩されることに我慢できなかった。それに、30代の頃は生意気でしたから」という言葉。今、世の中はいろいろなシステム、価値感が猛烈な勢いで変化しているが、その中でどういうふうに時代とサーフィンをするのか、新しい技を身につける必要は絶対にあると思う。それが僕の目下の課題かも知れない。


9月25日(土)朝の雨は江戸東京博物館に特別展<隅田川 江戸が愛した風景>を見に行く頃にはあがる。展覧会は期待が高かったせいか、やや平抜な印象。絵が中心のせいかも知れない。帰りには前々から気になっていた江戸博のそばの鰻屋“千代福”で鰻重。隅田川の景色の余韻もあり、ぴったりとはまる。両国に向かうまで聞いていたデヴィッド・シルヴィアンの新作※36「スリープウォーカーズ」は、鰻屋を出て青空になると、全くシンクロせず、本当に音楽にはTPOがあると思いながら、ジョン・レノンのサンプラーに替えると、これはうまくフィットした。そして、ジョンの歌が様々な記憶をフラッシュバックさせる。フィル・コリンズの8年ぶりのスタジオ録音になるモータウン・サウンドによるカヴァー・アルバム※37「ゴーイング・バック」を聞いた時にも思ったが、今はナチュラルな響きのある“いい音楽”を聞いている時が最高に気持が安まる。ウィリー・ネルソンやハービー・ハンコックからリトル・ウィリーズまで一流ミュージシャンとノラ・ジョーンズがコラボレーションしたCD※38「ノラ・ジョーンズの自由時間」もとても聞き心地がよかったし、スザンヌ・ヴェガがデビュー25周年を迎え、自身のキャリアを振り返り、自身が送り出してきた楽曲を現在の視点で見つめ返したセルフ・カバー※39「クローズ・アップVol.2、ピープル&プレイシズ」もいいCDだった。その気分はそのまま、夕方の“月刊カドカワ”の取材に続いていって、とても気持良く質問に答えられたし、6時ちょうどに“Jz Brat”で開演したKIRIN LAGER CLUBの198回目になるindigo jam unitのライヴもいい感じで楽しめた。ライヴの後の“酒蔵・三”での宴会も申し分ない盛り上がり。旨いつまみとお酒と無邪気な会話がひとつになったいい夜だった。何事も無理しないのが一番。新聞もテレビも大騒ぎしている中国人船長の釈放をめぐる一連の騒動もひどいねじれ感がある。テレビの画面には井戸端会議の延長のような議論が映し出されている。

※36 2000年に発表された「エヴリシング&ナッシング」同様に、過去10年間のコラボレーションやサイド・プロジェクト作品の最上のものを厳選したコンピレーション。デジパック仕様のCDは全ての面で完全なアート作品になっている。(P.VINE)
※37 アルバムの売り上げ累計1億枚とも言われ、グラミー賞を8度も受賞している世界的なスターがラジオに耳をそばだて、レコードを探し回っていた頃の少年に戻っているのがひしひしと伝わってくる快作。収録曲は25曲に及ぶ。(ワーナーミュージック・ジャパン)
※38 2002年のデビュー以来、自身の4作のアルバムで全世界4千万枚のセールスを記録するノラ・ジョーンズが自ら過去10年間の音楽コラボレーション作品を選び出した夢のコンピレーション・アルバム。全19曲の収録曲からノラの多才な音楽性を堪能できる。日本発売は10月27日。(EMIミュージック・ジャパン)
※39 オープニングの「ルカ」が今もとてもリアルに響く。「イン・リヴァプール」も、名曲「トムズ・ダイナー」も全てが魅力的。買うべき価値のあるCDだ。(インペリアル・レコード)


9月26日(日)先週の日曜日は諏訪湖で<ジョイジョグフェスタ>の仕事をしていた。丸2週ぶりの休日。読みかけのジャック・ケルアックとウィリアム・バロウズが共作した小説「そしてカバたちはタンクで茹で死に」を読み終え(期待したほどおもしろくはなかった。むしろジェイムズ・W・グラワーホルツが書いたあとがきの方に興味をひかれた)、トッド・ラングレンの“ベアズヴィル・ボックス”で70年代にトリップし、夜はスイート・ジャズ・トリオのリーダー、ラッセ・トゥーンクヴィストと、北欧を代表するピアニストの1人であるヤン・ラングレンの※40デュエットを白ワインと一緒に楽しんだ。タイトル曲の「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」から「枯葉」「ザ・ヴェリー・ソート・オブ・ユー」…と繰り出されるスタンダードの名曲。コルネットとピアノだけで奏でられる美しいジャズが静かで幸福な時間をプレゼントしてくれた。

※40 深まる秋にぴったりの名盤の最後を飾るのはスウェーデン民謡。「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」は究極のデュエット・アルバムだ。(スパイスオブライフ)


9月27日(月)政治のことについてあれこれ言うつもりはないが、今回の船長釈放の件は間違いなく“敗北外交”だろう。日本という国のパワーが落ちていることを象徴しているようにも思える。それと検察の証拠改ざん問題。何だかトホホという感じだ。若い世代にがんばってもらうしかないと思うが、夜スパイラル25周年記念グランドパーティーで久しぶりに会った榎本丁壱さんと話しても、学生たちがもうおとなしいのだから、どうすればいいのだろう。パーティーもただ何となく人が集まっているというだけで、20世紀にあったような発酵感がない。オープニングの挨拶の前にスパイラルホールで催された中島ノブユキのピアノ演奏は思いがけない収穫だったが……

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