立川直樹の内省日記

2010年8月31日(火)

8月27日(金)暑い日が続いている。日本の夏はもう完全に様相が変わってしまった感じがする。朝からエアコンをつけなければならないし、そんな中で午前中は久石譲さんの新作「メロディフォニー」のライナーノーツを書くためにDVDとCDのチェックをする。この“書く仕事”というのは、プロデュースなどの“作る仕事”とはとてもいい関係になっていると思う。朝の光の中でスピーカーから流れる音楽はとても素晴しく、DVDの中で語る久石さんも自信に満ちている。仕上げは箱根になりそうだが、午後“KIRIN LAGER CLUB”の打合せをすませてから箱根に向かう間に前作の「ミニマリズム」を聴き、もう一度「メロディフォニー」を聴いた。言葉が頭の中に浮かんでくる。そして箱根の彫刻の森美術館に到着してからは展示車両の位置を決め、スタッフにいろいろと指示をした後、泊まり慣れたホテルにチェックインし、夜は「ロア」で稲垣潤一さんたちと会食する。マネージャーの野口さんとは30年近く前からの知り合い、TOKYO FMのスタッフとも長いおつきあいになるので、気分はとてもリラックス、マダムの笑顔もいつもながらのいい感じでイタリアン・ワインとおいしい食事を楽しんだ。ホテルに戻ってからは部屋に資料や本、洋服をきちんと並べたりかけたりしてからテレビのニュース。民主党の代表選問題も年金不正受給問題も、何だかこの国はもう無秩序状態になってしまったのだろうか。


8月28日(土)彫刻の森美術館でもう20年間続けている“MUSIC MEETS ART”の初日。AUDIがスポンサードしてくれてから今年で11年目になる。場所もスタッフも含めて完全に形が出来上がっているので、天気の心配さえなければリゾート気分で仕事を進めていっても問題がない。だから、2時からのリハーサル前は読書。本部の部屋と、ステージを作った緑陰広場のベンチでポール・オースターの「幻影の書」を読み終える。リハーサルも暑さでミニムーグがうまく起動しなくなってしまった以外はすこぶる順調で、山中千尋トリオに稲垣潤一が客演するというドリーム・ライヴは6時からの本番ではさらにいい感じになり、お客さんの満足度もかなり高かったように思う。ラストに演奏された「YAGIBUSHI」は圧巻。アンコールの「オネスティ」もコラボレーションの理想形。ひとつのプロジェクトに発展していきそうな感じになったのがプロデューサー冥利に尽きる。終演後の打ち上げも楽しい時が流れ、ワインも料理もとてもおいしかった。


8月29日(日)昨日の朝に続いて、朝食をとり、温泉に入った後は久石譲さんのアルバム「メロディフォニー」のライナーノーツを書く作業。部屋に広がっている資料やテーブルの上の原稿用紙が2つの職業が同時進行していることを物語っている。いくつもの職業、肩書きを持つことのメリット。10代でボリス・ヴィアンを知り、その生き方、考え方を知ったことは僕にとって大きな助けになっている。原稿書きは午後1時半、会場に向かう前に終了し、天気も何も心配がないので、リハーサルと本番の間はまた読書。出がけに本棚から抜いてきたジョージ・マーティンの「耳こそがすべて」が環境とも気分ともぴったりとフィットする。夜のライヴも定刻で開演し、何の問題もなく終了、何だかとても平和なウイークエンドを過ごしている。ホテルに戻ってからはAUDIの高岡さんたちとBARで歓談。ジントニックもおいしかったし、古き良き時代の面影を残す内装も悪くないが、禁煙というのは実に不自由だ。でも、こと煙草に限らず、世の中はどんどん不自由かつ画一的になってきている。


8月30日(月)3日間の箱根滞在を終えて東京に戻る。暑い。一体いつまで続くのだろう。新聞では観測史上タイ記録と報じられている。原稿も打合せも一段落したので、午後は気分転換も兼ねて試写2本立て。映画美学校で井出情児が撮影しているので気になっていた※26「乱暴者の世界」と“マスター・オブ・ホラー”とも称されるジョージ・A・ロメロの73年作品「ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖」をリメイクした※27「クレイジーズ」を見る。「乱暴者の世界」は非常に不思議な“SF風味の青春映画”だったが、「クレイジーズ」は全米3位の大ヒットも納得の、完成度の高い“感染パニック映画”。“PG12”も当然だろうという描写も強力で、ちょっとした暑気払いにはなった、夜は箱根では弁当生活が続いていたので“胡同三辣居”で四川料理。何だか香港にトリップした気分になった。

※26 プレミア上映となった2010年ゆうばり国際映画祭では満員の観客から拍手が贈られたという作品。監督は中田圭。脚本は高橋玄。言葉では形容し難いサスペンスで、ロックが鳴り響くノリもおもしろい。10月9日から22日までシアターN渋谷で限定ロードショー。(フリーマン・オフィス)
※27 “クレイジー”の日本語訳は“狂暴化”。ウイルスにより水を飲んだ人々が次々と狂暴化して、平和な町がパニックに陥るとともに、秘密裡に事件を処理しようとする軍。ブレック・アイズナー監督の元にはリメイクの依頼が舞い込んでいるというのも納得の出来映え。11月13日にロードショー公開。(ショウゲート)


8月31日(火)朝刊にアラン・コルノーの死亡記事。フランスの映画監督。「インド夜想曲」は大好きな映画だったが、コルノーが死んだと言ってもわかる人、気にする人はほとんどいないんだろうなという思いがふっと頭をよぎる。大沢たかおさん本人を混じえて行った“JET STREAM”コンサートの打ち合わせの後にトム・クルーズとキャメロン・ディアス共演の※28「ナイト&デイ」を見た時に、その思いはさらに大きくなった。ここまでくるともう漫画以上と言えるくらいの荒唐無稽なエンターテイメント大作。見ている時はそれなりにおもしろいと思うのは、映画好きの悲しい性かも知れないが、終わった後に余韻が残らない。夜7時からの“ANTIVINO”での会食でも映画や音楽についていろいろな話をしたが、エンターテイメントの世界はどんな方向に進んでいくのだろうか。前菜とパスタをたっぷりと味わった“ANTIVINO”の後は“AMRTA”と“PB”をはしご。気がついたら時計は2時を指していたが、同じ種族の人たちとの夜遊びは理屈抜きに楽しい。

※28 平凡な女性と優秀なスパイが一緒になって逃げ回り、撃ちまくる大活劇。一体、何人の人が死んで何台の車が壊れ、何度爆発が起きるか数えきれない。既製の曲もふんだんに盛りこまれ、飛ばしまくる1時間48分。ここまでくるともう映画批評などは無縁の世界だ。10月9日ロードショー公開。(20世紀フォックス)

Page Top▲

  • TOP
  • PROFILE
  • 立川直樹の内省日記
  • TIME WAITS FOR NOR ONE
  • WORKS
  • ARCHIVE
  • ABOUT THIS SITE