立川直樹の内省日記

2010年7月15日(木)

7月12日(月)昨日の朝日新聞に載っていた<本の舞台裏>という記事の中の佐野眞一さんの発言が印象に残る。「読書とは想像力を膨らませながら同情する、涙を流す、あるいは怒るという知的作業。それなのに、いま市場にあるのは売れるだけの本。欲しい本は極めて少ない」と「まだまだ出版は大丈夫だ。圧倒的エネルギーが自分の中に注ぎ込まれる本はあるし、そういう本のおかげで今日まで生きてきた」という言葉。100%同意できるが、音楽業界、エンタテインメント業界の大先輩である朝妻一郎さんと安倍寧さんとの昼食会でも、音楽と映画、レコードのこれからのあり方についての話になり、佐野さんの言葉はそのまま、映画やレコードについてもあてはまるものだと僕は思った。丸の内のシャングリラ・ホテルの29階にある“なだ万”での昼食会の後は、ミーティングを4つ。夜はワインを飲みながら、谷垣、枝野、亀井、福島、渡辺…と顔ぶれがそろった“討論スペシャル”とウイルフレド・バスケス・Jrとゾルト・ベダックのWBO世界バンタム級のタイトルマッチを見るが、両方とも不完全燃焼だった。夜のニュースはどこの局でもつかこうへいさん死去を特集していたが、新聞記事に出ていたいろいろなエピソードも含めて、またひとつの時代が終わった感じがする。


7月13日(火)朝5時半に目がさめ、朝刊に目を通し始めると、6時からWOWOWで「レイン・フォール/雨の牙」が放映されるのを発見。ちょっと気になっていたので見ると、これが中々の収穫。元CIAの工作員による原作を映画化したものだが、監督と撮影と編集が外国人だと、ゲイリー・オールドマンが出演しているとはいえ、日本人俳優も東京の街の景色もテレビ的な日本映画と一線を画しているのは何故なのだろうと思ってしまった。そしてそんな気分をひきづりながら9時半からレオナルド・ディカプリオと渡辺謙主演の※9「インセプション」の試写。クリストファー・ノーランがカタチになる前のアイデアを、他人の頭の中に入って盗む者たちの戦いを描いた近未来SFだが、革新的な映画だというのはわかるものの複雑なストーリー展開と爆発や崩壊の連続にはついていけなかった。そんなモヤモヤを見事に消し去ってしまったのは1時から見た※10「瞳の奥の秘密」。“ニューヨーカー”の「綿密に練られた迷路のようなエンタテインメント!」という評通りの傑作で、“ヴァラエティ”が書いているように「映画というものにまだ魔法の力があると信じていた頃への価値ある回帰」だ。こういう映画を見ると、何だか安心し、また元気が出てくるのも現金なものだと思うが、そのテンションは夕方の“ROCK AROUND THE CLOCK”の打合わせから、目黒のイタリアンレストラン“SALITA”での会食、“北回帰線”での飲み会までずっと持続していた。ニュースねたではスイスで拘束されていたポランスキー監督が釈放、新聞記事ではフランスの経済哲学者ラトゥーシュの「私が成長に反対するのは、いくら経済が成長しても人々を幸せにしないからだ。成長のための成長が目的化され、無駄な消費が強いられている。そのような成長は、それが続く限り、汚染やストレスを増やすだけだ」という言葉がひどく印象に残った。

※9 2000年に発表された「メメント」で一躍注目の存在になり、「ダークナイト」でその評価を決定的なものにしたクリストファー・ノーランの最新作。公開は7月23日。7月17、18、19日に先行上映が決定している。(ワーナー・ブラザーズ映画配給)
※10 今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞、本国アルゼンチンではアルゼンチン・アカデミー賞13部門を受賞し、34週にもわたるロングラン上映という大ヒットを記録したのも納得の傑作。監督はアメリカで人気TVドラマシリーズを手がけていることでも知られているファン・ホセ・カンパネラ。未解決事件と秘められたロマンスとを交差させ、時間軸を魔法のように操りながら観客を酔わせる演出力は超一級だ。主演のリカルド・ダリンと共演のソレダ・ビジャミルは素晴しく魅力のある俳優。ラテンアメリカの官能に魅惑された。公開は8月14日。(ロングライド)


7月14日(水)大学の前期最後のTG。午後はコンサートや舞台関係の打合せを3つほどこなし、夜は一区切りの気分でひと宴会。あわただしい気分も最後の日本酒でようやくまったりとなる。先週“北回帰線”で「私が載っているから…」と、ホキさんからいただいた“正論”8月号がとてもおもしろく、石原慎太郎と立川談志の放談はダイナマイト級で次号に続くとあるから、9月号も手に入れることにしよう。日毎に自由な時間が増え始めていて、目や耳、頭の動きもとてもいい感じになっているのがとてもうれしい。


7月15日(木)朝10時から※11「トラブル・イン・ハリウッド」の試写。3日連続で9時前後に家を出るスケジュール、おまけに昨夜は3時間ほどしか寝ていないが、ロバート・デ・ニーロとバリー・レヴィンソン監督の顔合わせとなれば見逃すわけにはいかない。デ・ニーロがハリウッドの敏腕映画プロデューサーを演じ、ショーン・ペンやブルース・ウィリス、ロビン・ライト・ペン…という豪華な顔ぶれがそろったシニカルなコメディ。大傑作というものではないが、とても楽しく見れた。午後は先月の“歌謡ワンダーランド”のイベントの際に購入し、御本人たちにサインしてもらったCD“こまどり姉妹大全集”を聴きながら書きもの。ライヴの舞台も強力だったが、全盛期の名唱は実に魅力的だ。長山洋子のルーツはここだったのかと気づいたのも収穫。夕方からは“va-tout”で打合せ2つと会食。定まりの席でシャンパンやワインを飲みながら、パテやムール貝を気楽に食べていると、ふとマフィアの食事シーンが頭をよぎった。“va-tout”の後は久々に“FLAT”。夏の夜らしい店心地の良さだったが、睡眠不足と飲みすぎがたたり、ジェットソーダ1杯でエンドマークが出てしまった。

※11
 原題は“what just happened?”。キャストもスタッフも一流どころがそろい、大人の映画作りを楽しんでいる感じ。2008年のアメリカ映画で、日本公開は9月4日。デ・ニーロがやり手の若き映画プロデューサーを演じた1976年の映画「ラスト・タイクーン」を久しぶりに見たくなった。あれからもう35年。みんな歳をとった…(角川映画)

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