TIME WAITS FOR NOR ONE~立川直樹同世代トーク~

第7回 後編

プロの腕前を堪能するか、それとも・・・

(出てきたフローズン・カクテルを口にして)
T: うん、美味しい。ぼくはこれが好きでね。家で作れないもの、好きだから。すっごく美味しい。よく言うんだけど、ウィスキーの12年ものとか、高いワインとか、バーで飲むやつってバカだと思う(笑)。
S: すいません(笑)。
M: ぼくもすみません(笑)。ウィスキーのキープまで、してます。
ボトルキープに美学はない。ある意味で日本の文化を衰退させている元凶のように思える。
なぜなら、一期一会(いちごいちえ)の緊張感を薄れさせるものだからだ。
       ~立川直樹著 「何気ないことを大切にする仕事術」 講談社刊より~
T: でもさ、結局(ウィスキーやワインはそのままのものを)買えるわけじゃん、自分で。ね?
S: はい。
T: で、氷の質が違うぐらいで、すごくは違わないよね。
S: ただあの、自分の家で飲むウイスキーの味と、ここで飲むウィスキーの味って全然違うんですよ。価値観の問題なんですけど、場所が違うだけで味が違っちゃう。
T: ぼくね、(自分の)家の環境が優れているんですよ(笑)。こう、景色とか音楽の状況とか。だからなんかその、細工しない酒は家で飲んでも、店で飲むのとあまり引けを取らないような・・・。
S: まあこんなもん、はっきり言って売ってるもんですからね。
T: 確かにわかるんですよ、雰囲気で飲むというのは。ただ雰囲気は(ぼくの)家にもあるからなあ、と(笑)。
SM: (爆笑)それは素晴らしい。
T: だからぼく、蟹なんかはぜったい外で食べないもん。そういうものは絶対信用できるところから取り寄せる。その方が全然美味い。高いけど信用できるわけですよ。
でも、それが店だったら多分すごい値段になっちゃう(くらいのクラスの)ものを、取り寄せて食べるとほんと美味いですよ。
S: 牛肉だってそうですよね?
T: 牛肉なんか、ホントそうですよ。伊勢の山奥にあるとこの1万円ぐらいの肉があるんだけど、そこのは本当に、塩でさーっと焼いて食べたら、ムチャク チャ美味いですよ。だから、ぼくはそういうのは料理とは思ってない。料理っていうのはぐつぐつ煮たりとか、いろんなことするもので、そういうの自分じゃ、 やらないんですよ。
蟹とか牛肉とか、キャビアなんかは家で良いものを食べるほうが絶対正しいと思う。
M: (笑)なるほど。キャビアはキャビアですもんね。
T: 買って来ておいて・・・置いとくのが嫌だったら、食べたい日に伊勢丹か紀伊国屋(に)行って買って来ればいいんだもん。
M: そう言えば、ぼくもあんまり家で何か作ったりしないけど、牛肉はたまに家の近くのナニワヤっていうスーパーで買ってきて食べたりするなぁ。
S: ナニワヤ、うまいですよね。
T: だって3分の1でしょ、だいたい。(買えば)モエ3,800円だし、ドンペリ8,000円だろ? で、キャビア5000円ぐらいだろ?
M: じゃ、ワインもそうなんですかね?
T: ワインもそうだよ。今、ピーロートでケースで買ったりしてるけど。
M: ピーロート?
T: ピーロートジャパンってあるんだよ。ワインの輸入業者。だから、こういうもの飲むとね、たいしたもんだと思うんですよ、プロの人は。
ジントニックなんかも、やっぱりすごいと思うの、技術っていうのが。自分でジンと、トニック・ウォーターと、氷と・・・ってやっても違うんだよね。
S: あれはトニックの銘柄と、あと、なんかをさっぱりするために入れるんですよ。ま、ジンジャーエールでもいいんですよ。あんまり甘くないやつを、なんかこういろいろ細工して。
T: やっぱりね、絶対プロなんだよね。
S: 今度教えてください、そのすごい牛肉。
T: 教えますよ。ぶどうもすごいのがあるんですよ、取り寄せの。
M: へぇ~。どっから。
T: 甲府。テラスヒシヌマっていうんだけど、市販全然してないの。いわゆるお得意発注のみっていう。すんごいうまい。
M: 普通に食べるんですか?
T: 三種混合で詰めてって言って送ってもらう。
M: すごい。


みんな、独りきり

M: そう、あの「何気ないことを大切にする仕事術」、あの本ってぼく、素晴らしいと思うんですよね。だから何であれが今、普通に本屋で買えないのかなって思うんだけど・・・。
T: ネットでやれば良いじゃない、講談社に話して。あれ、早すぎたのかもしれないね、ちょっと。わかんないけど。
M: 中身が濃くて、きれいごとだけじゃない美意識に満ちていて。しかも過激でカッコよくて。
T: 丸木に言って、やればいいんだよ。あれの続編をお前が書いて作って、それで評判が良かったら、あれのオリジナルって言うか最初のやつもネットでやれば? そうすれば合法的じゃん。
M: 人生の指南ていうか、池波正太郎さんにも通じるようなああいう良い意味でのノウハウ本って、通り一遍のものはあるけど、ああいうふうにちゃんと豊かな実体験に裏打ちされたものって、すごく必要とされてると思うんですよね。
T: 作ればいいじゃない、それは。
M: じゃあその前哨戦っていうわけでもないんですけど、最近ちょっと考えてることがあって・・・。
T: うん。
M: 男が独身で、一人で生きていく時に、まあ、もしかしたら死ぬまで一人で生きていくかもしれないとして。
そういう人間が守るべきものとか大事にすべきものっていうのは、たとえばどういうのなのかなぁって
T: うーん。ぼくは、独身か独身じゃないかとか、家に女の人がいるかいないかっていう考え方って、ちょっと違うと思うのね。
M: ええ。
T: 「仕事術」的発想で言うならばさ、別にそんなことはどうでもいいわけ。自分の問題だから。誰と住んでいようが住んでいまいが、大事なことは一緒なの。片付けとか、やるべきことはきちんとしようとかっていうことであってね。
人に任せようとするから、皆、破綻していくんだよ。人に任せようとすると、そこで人がやってくれなかったら出来なくなっちゃう、立ち行かなくなっちゃう。
だから最低、少なくとも自分でできていることを人がフォローしたりしてくれるっていうことがすごく重要なんで。
だからまずその、キャメが「独身で・・・」って言ったところからまず、間違ってる。
M: なるほどね。問題設定自体が。
T: そう、問題設定が。
よく皆、独身か独身じゃないかとかっていう話になるけど、それが出てきちゃうところが日本の意外とダメなとこで。
M: なるほどね。
T: でも結局、すごく、だらしなく見えて、誰かと暮らした方がいいんじゃないの?って言ってやった方がいいやつっているよな、男なんかで。
でもそうじゃなかったら、その人がどういう人と暮らしてようが─お母さんと暮らしてようが、奥さんといようが、妹と暮らしてようが、お姉さんと暮らしてようが─それはその人のチョイスであってさ。
M: そういうことなんですよね。
何でそんなこと聞いたかっていうと、この間、デニーさんのところで飲んでた時に、なんかの拍子に、結婚してるの?みたいな話になったんですよ
それで、まあ、あれこれ話してる中で、ぼくが「生きてて迷うことってないですか?」みたいなことを聞いたんですよ。
そしたらデニーさんは、「俺は最終的な姿は自分でわかってる。だからそれに向かって自分は行くだけなんで、そこで何か迷うこともないし」みたいなことを淡々と言ってたんですよね。
それがすごく印象的で。
ぼくはまだずいぶん迷ってるなぁ、と思って・・・。
T: だから、ボズ・スキャッグスの歌ですよ。“We’re all alone”なんだよ。未知との遭遇の“We are not alone”じゃないんだよ。
M: いかに惨めったらしくなく、きっぱりと生きて、死んでいくかみたいなところ・・・。そのへんなんですよね、きっと。
T: たとえばさ、忙しい時に疲れて見えるのはいいんだよ。でも、疲れて見えるのとやつれて見えるのは違うんだよな。
M: そうですね。
T: たとえばその、ボクサーのファイトがありました、と。(試合が)終わって、わーっていう歓声の中で観客から見えなくなって、体育館なら体育館の通 路を彼が歩いてる後姿って、やつれてるんじゃなくて疲れた哀愁感が漂ってる─勝ち負けに関係なく─と思う。
そういう図は好きなの。でもなんか、惨めなのっていやじゃん?
M: 厭ですね。
T: そこですよ。
M: そうなりたくないなぁってすごく思いますね。
T: だから、(傍に)絶対、人がいなきゃ寂しい人っていうのは誰かと暮らせばいいんですよ。格好つけないで。
M: ・・・そういう意味では、別に寂しいと思うことはないですか?
T: 全然ない。
M: 瞬間としてもない?
T: ない。少ない。
なんかこう、景色を見てとか、ああ、なんかすごく、歌が切ないなぁとかっていうのは、自分のマインドじゃなくて情景とか情感としては思うんだけど、自分自身は、多分ムチャクチャタフなんだよ、ぼく。
M: ほう。
T: だから、先月、キャメロンがぼくのことをお金に対する執着みたいのはないですよねって言ってたじゃない?
それはその通りで、(お金を)なんかマシンみたいに集めるのも厭で、困らない程度にあれば良いわけ。ものを大きくするってことに対する興味は全くないから。
で、そう考えると、ほんとに変な話、これは憧れでもあるんだけど、ぼくは(いつか)どっかの田舎町のバーで住み込みのバーテンで働いてもやっていけるからね(微笑)。
それともしかしたら、何かを守ろうとかそういうことに関して言うと、ぼくはすごく運が良かったのかもしれないんだけど。
例えばそれは、銀座のもうなくなっちゃったバーで松山猛にばったり会った時に、酔っ払ったタケシが、「ミックはもう70年代に社会を席巻してたからな」っ て、僻みっぽくも、愛情をもって言ってくれたことがあって、確かに(ぼくは)20代前半の時に成功しちゃったから。すごく単純に言うと。
だからあんまりそういうことに対して執着心がないんだよ、成功したいとか。
ピエール・バルーの(プロジェクトを)やってたのって、31、2でしょ?で、ニューヨークでウォーホールの一味なんかとアースリング(を)やったのも30くらい。タイガース(の仕事を)やったの、20歳(※2)でしょ? ジャパンと仕事したのも80年代で30代の前半でしょ?
(そういうふうに)若いうちに本もいっぱい出してて、ラジオもやって、イベントもやってっていうと、それ以上すごいことを望むんだったら別だけど、まあとりあえずの成功ではあったよね。
それで、今、皆その頃に付き合いのあった人で元気な人たちとは、相変わらず「元気?」とか、「なんかあれば言ってくれ」っていう関係っていうのは保たれてて、で、ぼくが欲しがらないから、向こうもすごく安心してる。
だから多分ぼくが会社を大きくしたりしてやってたら、たとえば田辺昭知さんも、今みたいな「久しぶりにメシでも食おうよ」っていう風な感じにはならないかもしれない。それは内野さんでも、タツさんでも誰でも・・・。

いつまでもかっこよく、そしてワガママで

T: ぼくは何も望んでないんだよね、きっと。自分の人生を楽しく、まあほんとにええカッコしいだから、かっこよく生きていければいいんだよ。
M: ええカッコしいなんですかねぇ? やっぱり。
T: ええカッコしいだと思うよ、すごく。かっこよくないの厭だもん、すごく。
ええカッコしいっていうのが違うなら、かっこ悪いのが厭なの。惨めったらしく見えたりするの、絶対イヤだね。
失敗するの嫌だからできないことをやろうと思わないし。
それが周りからみると無理しなくてカッコ良いっすよねっていうことになるんだけど、要は無理しないんじゃなくて、できないことやるのは厭なんだよ。そんな 時間は無駄だと。だったら頼めばいいじゃない。先月ので言えば、植木は自分で切るんじゃなくて、植木屋に頼めばいいじゃないっていう。
だから舞台監督っていえば高田(憲治)さんに頼むっていうのはそういうことで、(中には)自分でもできそうなものってあるんだよ。でも頼んどくことによって、ちゃんと関係性って保てるわけじゃない?
だから、キャメロンとぼくの関係だって、デジタルのコミュニケーション(の仕事)になった時に、誰かがなんか条件のいい話を持ってきても、ぼくは絶対、おまえを裏切らない。とりあえずキャメロンを、デジタルに関しては通せっていうことが、ぼくの中にはあるから。
きっと、キャメロンもそれはなんとなくわかってるから安心して(ぼくと)付き合ってるんだと思うんだよ。みんなそうなんだよ、(ぼくの)周りの人は。
M: なるほどね。いや、ありがとうございます(笑)。
でも、今の10分間ぐらいの話は立川さんとぼくの決定的に違うとこだろうな。ぼくは常にあえてかっこ悪いことをやっていようと思う。その時々の自分の何%かは常にかっこ悪い状態を持っていたほうが、なんか安心する。
T: だからぼくは絶対それをやりたがらないんだよ。そのためにいろんなパートナーと組んでいるわけであって。
でもさ、ぼく、ワガママだけど、意外と自分の都合でワガママなんじゃないんだよ。
M: おお、わかるわかる。
よく思うのは、立川さんのワガママなりなんなりっていうのは惨めったらしくないんですよ。なんて言うんだろうな、うまく言えないけど・・・。
こう、せこい計算が無いんですよね。ある時はこれはやっぱりどっからどう見てもこうだろうっていう大義名分があったり、ある時は本当に純粋に、切実にこうしたいんだろうな、またはこうしたくないんだろうなっていうのがすごくリアルに見えるんですよ。
そこがいいんじゃないかな。
T: まあそう言っていただければ(微笑)。
M: ただそういうアヤを理解できない、しようとしない人にとっては単なるワガママな人なんでしょうけど・・・。
立川さんが、いろんな成功した方に信頼されてるっていうのはすごくよく理解できるような気がするんです。
特に一代で会社を築き上げたオーナーの人ってすごく孤独だと思うし、常人には無い激しさとか狂気みたいなものを内に秘めてるものだと思うんです。そういう人たちにとって、変な駆け引き無しで付き合える人ってすごく貴重だろうなと。
T: そうだね。決して相手の領域を侵さないしさ。
M: 何回か前におっしゃってた、「切腹しない千利休みたいになりたい」っていうのはそういうことなんだろうなって思う。
経営者向けに、立川さんを囲むセミナーとか私塾みたいなものをやるといいんじゃないですかね。
T: それもおまえ、やればいいじゃない。
M: やりましょう。
「仕事術」の正・続をテキストにして、立川さん中心に仲間の方もたまに呼んで・・・。素晴らしい!
T: 君がやるんならいいですよ、それは絶対うけると思うよ(笑)。
S: もう一杯、いかがですか?
T: もう帰ります、そろそろ。明日、7時3分の新幹線乗るんです。京都に。
M: 京都、あんまり湿気がないでしょ?そうでもないのかな・・・。



(※2) 「タイガースの仕事」
1970年8月22日に田園コロシアムで行われた野外コンサート「ザ・タイガース・サウンズ・イン・コロシアム」のこと。
立川直樹はこのコンサートで舞台美術を担当した。
このコンサートで採用された16m×9mのアクリルのステージは、今や伝説的に語りつがれている。

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