TIME WAITS FOR NOR ONE~立川直樹同世代トーク~

第4回 後編

「美加佐」で食べる、至福の時間

T: だからまあ、この前行ったけど、「美加佐」みたいな店が特殊なんだよね。
M: うん。
T: だってあそこ、例えばフレンチとかイタリアン行ったら、一品で完全にメインになるものを、惜しげもなく繰り出してくるだろ?
コンサートで言うと、こんな曲最初にやっちゃっていいのかみたいな曲が平気で3曲目ぐらいでがーんとキてさ、でまたこう、なんかこう、ああ、気持ち良いなって思ってる、でまたばーんって来る感じがさ、あれが・・・やっぱりあの店しかないんだよね。
M: あれってやっぱりほぼ100%常連なんですか?
T: もう、全く。不思議なあれでしょ、映画のような景色だったでしょ。
客との会話とか。
M: あの、それこそメイン料理がガンガンすごいスピードで出てくる感じとか。
T: あれはさ、まああの日はぼくが、その後があるから、とにかく6時ぐらいには焦らないで出たいって言ってると、それが今度、按配がないから、とにかく早く出さなきゃいけないんだって思うとああなるという(笑)。
そういうなんかスピード感のデリカシーがないんだよな。料理のデリカシーはあるけど。だって客がすごいんだもん、あそこ、食いもんに関してはなんか、今度なんか持って来てやるとかさ。
M: だから普通にご飯が美味しかったとかと、またなんか違う感動がありますよね。
T: そうそう。普通にご飯が美味しかったとか、普通にお酒が美味しかったじゃないんだよな。
M: そう、なんか身体の奥深いところが直接刺激されるような、なんかセクシャルな感じ。あの翌日まで不思議な余韻が残ってましたよ。
T: 鹿の塩焼きとかさ、ああいうの出て来るタイミングとかさ、絶妙だったよね。
それと、今は、ワインって上に置いてあるじゃない? ちゃんとワインあるよっていうふうに。昔はああいう風にもなってなくて。
前に仕事の関係の人と一緒にあそこに食事に行ってさ、鹿が出てきたんだよ。
M: はい。
T: そしたらその人が、「立川さん、こういう時、赤ワインあるといいわよね」ってほんとにぼくにだけ聞こえるように小声で言ったの。その人は品の良い 人だからああいうお店で赤ワインなんて言うのを憚るようなニュアンスで言ったの。そしたらあのオヤジが「そやな」って一言、言って下からシュッと(赤ワイ ンを)出してきて。それがかれこれ15年以上前で、それが既に今と変わらずサンテ・ミリオンだったの。
とにかく客がなんか言ったときに返してくる言葉がさ、すんごく面白いんだよね、あのオヤジ。この前もさ、久しぶりに森永と行ったんだけど、夢中になって 食ってるわけよ。あいつ、獣みたいなとこあるから、何か出てくるとすぐ食っちゃうわけ。そしたらオヤジがさ、「あんた食うの早いな」って言ったら、「だっ ておいしいんだもん。SEXよりすごい!」って森永が答えて。
そしたらオヤジ、「あんた、普段どんなSEXしとんのや?」って(笑)。
M: (笑)でもホントにそういう、快楽とでも言いたくなる、こんなもん食べたことないっていう感動ですよね。
T: この前のイノシシもさ、脂のジューシーさとさ、塩だけのシンプルな味付けと・・・。すごい美味かったよね。
M: あの時、イノシシ、立川さんとYさんに食べられちゃってぼくは一切れしか食べられなくて結構根に持ってるんですけど(笑)。 ぼくはやっぱりあの鯨となれ寿しと、その辺が美味しかったな。 だからやっぱあんまり、書き方もいろいろあるんでしょうね、あれね。
T: 書き方って?
M: 書き方っていうか紹介の仕方っていうのも。
T: 「美加佐」って、法善寺横町のお店紹介みたいなのでも、店の名前は出しても電話番号も何にも載せない。うちは関係ないって言い続けてるんだよ。だからって別になんか強情なわけでもないし。まあただ単に知らない人が嫌いなんだと思うよ。
M: 知らない人が嫌い(笑)。
T: うん。ふらっと来る(常連の)人がいるから、なるべく満員にはしたくないわけだよ。
M: ああ。なるほどね。
T: 例えばあの2日くらい前に、たまたま「美加佐」の前を通ったら、暖簾は閉まってたんだけど電気がついてたんだよ。まあ久しぶりだからちょっとオヤ ジの顔でも見ていこうかなと思って、するっと入って、土曜日よろしくねって言いながら鮎の一夜干しのウルカ塗ったので酒一本ぐらい飲んじゃったの。やっぱ りああいう店が持つ不思議なテンションみたいのって良いなぁと思ってね。
M: そのテンションって言うのは?
T: 予約しておいた時はきっちりといろんなものが出てくるし、突然ふらっと行った時もそれはそれで「ちょっとなんか」って、すっと出てくる美味しいアテで酒が飲めて。
それで、「じゃ、お金、今度と一緒にしといてね」って帰ってきて、で、次に払おうとすると、「この前のはいいってお父さん言ってるから」って言ってくれる。
そういう、店の醸し出す雰囲気っていうかさ。
M: そういうの良いですよね、ホントに。

<「立川教授」の生活、始まる>
M: そういえば4月から始まった教授生活はどうですか?
T: まず、おもしろいっていうか、自分でその時間をチョイスしてよかったなと思ったのは、(授業が)月曜日の午前中なわけよ。
M: ええ。
T: ぼくのこと、時間的にもデタラメみたいに思ってる人いるけど、キャメロンなんかも付き合っててわかると思うけど、ぼくは規則正しくしていて、なおかつそれを崩すのが好きだからさ。
月曜日の朝8:40から11:50まで授業をやって、ああ、1週間がこうやって始まっていくんだっていう感じが、金曜に向けてだんだん崩れていくところがなかなかいいんだよ(笑)。
8:40から始めて出席とって、さあってやって、90分やって10分休みがあって、1時限と2時限で生徒が入れ替わって、11:50に終わってまた帰ってくる時に、新しい戦闘モードに突入って感じが結構いい。
ペースは2週間で作れたって感じがするね。もっと大変かなと思ったの、慣れるのが。思ったより平気だった。
M: 楽しいですか(笑)?
T: 違うことだからね。やっぱり職業って、ひとつだと、前のボリス・ヴィアンの話みたいにつまらないとぼくは思うから。音楽評論家、例えば映画音楽プ ロデューサー、アートのなんとかってどんどん増えてく中に、また、大学教授も入った、職業が増えたことの面白さって、すごくあるんじゃない? 
また全然今までと違う一つだしね。アートのプロデュースとレコードのプロデュースって、もちろん作るもんは違うけど、周りにいる人間関係とかっていうのは、どっか共通してる部分ってあるじゃない? 
でも大学だと、助手の人達っていうのも、全然自分が知らなかった人種なわけだよ。
大学の構造とかもね。そういう意味ではなんか、すごく新鮮な面白さはあるよ、意外なほど。それからあと、当り前だとぼくらが思ってたことをいかに生徒が自分達が想像してた以上に、知らないかということがわかったことのショックも新鮮だったなぁ。
(クラスには)54人、割とグレードの高い生徒がそろってるわけ。で、ぼくは最初ローリー・アンダーソンのEXPOプロジェクトをテキストにしようと思って、講義概要に書いたの。
だけど、入学式にたまたまベジャールのルミエールっていう新しいドキュメンタリー映画の話をして、そういうのもみんなに見てほしいと思うんだよみたいなこ とを言ったら、学長の蜷川さんが、今、立川先生がこう言ったけど、この中でベジャールを知ってる人はどのくらいいるんだろうなぁって言って、(知ってる人 は)手を挙げてって言ったら、なんと1人だったんだよ(笑)。
それ、蜷川さんと2人で「ベジャール・ショック」って言ったんだけど、結構なショックだと思わない?
だって、おまえさ、短期芸術大学でステージクリエイト専攻を目指してて、入試もがんばって入ってるのにさ・・・。それで続いて話しててピナ・バウシュの話になって、じゃ、ピナ・バウシュ(を知ってる人)は? って聞いたら、これは2人。
それで授業やってて、ピンク・フロイドを知ってる人は?って聞いたら今度は3人。
でもその時、あ、これは結構面白いかなと思ったね。逆に。
M: 別に嫌味じゃなくて純粋な疑問なんですが、そういう学生さんたちって、じゃあ、どういうことを、よく知ってるんでしょうかね。
T: わかんない。何を知ってるんだろうね。結構・・・・激烈なショックだった。普通、知ってるよなぁ。
M: ピナ・バウシュって今度来るのって埼玉と東京とどっちがいいですかね?
T: ピナ・バウシュは1回良いと1回ダメだったりするんだよな。どっちかなぁ。
ぼくは最初国立劇場で見たときは一番ショックだったな。
M: ぼく、今度初めて見るんですけど、基本的に大人数でやるもんなんですか?
T: 大人数でやる作品が多いね。美意識みたいのがすごくあってぼくはやっぱり好きだな。

必見!KISS

M: 近いところで、他にこれは見たほうがいい!っていうものってあります?
T: 5月で言うとKISSの来日コンサートだね。KISSのコンサートって、やっぱりロックのエンターテイメントとしては最高によくできてる。何回見 ても同じなんだけど、例えば歌舞伎の「棒しばり」見ると楽しいとか「白浪五人男」を見に行こうみたいにして行くものだと思うんだ。
見てない人は絶対見たほうがいいっていうぐらいおもしろいよ。
M: ああ、そうですか。今でも?
T: すごいのは、あの、ほら、結局メイクしてるから、顔が歳食った感じがばれないんだよね。
M: へえー。行ってみようかな。
T: 絶対行った方がいい。あれは、見た方がいい。
M: 7月のロック・オデッセイがね、こないだの「めざましテレビ」で電話予約やってて、すぐ電話して結構良い席を取ったんですよ。The Whoを見たくて、どうしても。
T: どうなんだろうなぁ。2人、いないからね。
M: でもぼくはどんなにダメダメでもいいから、ピート・タウンゼントを見たいんです。
T: ベースは誰になったの?
M: わかんない。でもまあエアロ(スミス)も見れるし、と。
T: エアロ、好きなの?
M: 割と。The Whoはすごーく好きなんです。そう、今、六本木ヒルズで大々的にやってる「草間弥生展」ってどうですか?
T: 行ってないんだよ。
M: ああ、そうですか。
T: 行った?
M: いや、行こうと思いながら行ってないんです。もともとあんまり興味がないんですか?
T: いや、興味がないっていうか、草間弥生、オノ・ヨーコと、最初に海外に行って成功した人たちなわけで、すごいとは思うし、面白いとは思うんだけど、基本的にぼくが好きなのはダリとかさ、あっち系だからさ。
アバンギャルドなものって嫌いじゃないんだけど、ぼくの好きなアバンギャルドってダリとかコクトーとか、そっちのほうなんだよね。
だから、むしろオノ・ヨーコのほうが全然好き。オノ・ヨーコは作品についてはすごい興味あるし、すごく好きだよ。
M: へえ。草間さんの(作品)は、純粋なアートとなり過ぎちゃってるとか、そういうことなんですか?
T: なんかあの強迫観念みたいなところがあんまり好きじゃないのかもしれない。そんなに好きじゃないっていうか、自分の中で響かない。
M: ああ。
T: イっちゃってるじゃない。でもダリのイっちゃってるのとはちょっと違うじゃない。
M: ああ、違いますね。
T: 突き詰めて、シャボン玉系のにしろ何にしろ、部屋を埋め尽くすっていうのもわからなくはないんだけど・・・。
でも、この辺の話って、やっぱりキャメロンだから安心して話してるみたいなところがあって、「草間弥生さんについてどう思いますか?」ってインタビューとかされてすごく短いコメントにまとめられたりすると・・・すごく怖いんだよ。
M: ええ、わかります。
T: 嫌いだとは言ってないじゃん!って。
でも「じゃぁ好きなんですか?」って言われると、好きだとも言ってないって・・・。
M: (笑)でも、あの展覧会が「ぴあ」で大きく特集されてるのを見た時はちょっと「えっ?」と思いましたね。草間弥生ってそんなに誰でもが見て良いもんなんだろうか?って、思っちゃった。
T: まあ確かにわけわかんないよな。いきなり「ぴあ」で草間弥生っていうのも。
<スターたちのrise and fall>
M: そう言えば、ここしばらくのマラドーナがドラッグのせいで一時重態に陥ったっていうニュース、サッカーにほぼ興味が無いぼくにも相当ショックだったんです。あの変わり様に。  
それで今一つ腑に落ちなかったのは、過去に大成功して、今だって何不自由のない暮らしのできるであろうあんなスターがどうしてあんなふうになっちゃうんだろうって。
T: ああいう人ってさ、組織的にとか継続的にお金が入ってくるようになってないわけじゃない?
自分が成功してあるポジションを奪取した時に、今までそのポジションにいた人の末路、まあ末路までは行かないにしても「その後」っていうのはどうしたって見てしまうよね。
たとえばマラドーナだって自分が1軍に入った時、それまでスターだった選手が2軍に落ちて、住んでた家が安い家になって、乗ってた車が変わり・・・っていうのを見てたと思うんだよ。しかも、今度はいつ自分がそうなるかわからないわけ。
それはジミ・ヘンにしたって、自分がリトル・リチャードのバック・バンドのギタリストだった時は、ツアーのホテルでもツインの部屋で誰かと寝てたのが、 (デビューして売れたら)王様みたいな暮らしになって、でも、いつまた誰かのバックをやらなきゃいけないかもしれないとか、すごく安っちいクラブでやらな きゃなんないかもしれないとかさ・・・。
だから、スターになった人って常に不安とかそういうものに苛まれてるケースが多いんだよね。ものすごいスピードでステップ・アップしていくんだけど、その分、落ちるのも早いみたいなところがあるから。
変な例えかもしれないけど、政治家で麻薬中毒になった人って、あんまり聞かないでしょ? 政治家って、やっぱり利権とかが絡んできて順々に形が出来上がっていくから。
同じように会社の経営者とかでも麻薬中毒ってあんまりいないと思うよ。
M: うーん。
T: それはだから、やらないっていうんじゃないけど、中毒になるまでやらないんだろうね。
M: なるほどねぇ。でもスポーツ選手だって、お金がある時に貯金しとこうかなぁとかっていう発想にはならないんですかね?
T: そういう人もいるでしょ。ただ、そういうスポーツ選手ってのは、例えば「華」がなくなるって言って。
M: ああ。
T: いるじゃん、なんかそういう堅実なやつって。そういう人がスターになれるかって言ったら、なれないわけで。
M: そもそもテンションの問題なんでしょうかね
T: どうなんだろうな。上手くいえないけど、あんまりなんか、貯金好きのロック・スターって信じられないだろ。
M: (笑)。うーん、まあねえ。
T: あと、そういう資産運用みたいなことをあんまり一所懸命やってるスポーツ選手っていうのも、ぼくも好きじゃないし。博打と何とか見たいのに走ってるやつのほうが、かえってそれらしいというか、ね。
M: あと、ステージとかその大スタジアムでサッカーをやってるときのリミッターを超えた興奮を味わっちゃうと、日常生活がつまんなくなるっていう感覚ってのはあるもんなんですかね。
T: それはあるだろうね。ステージ降りて、ああステージはすごく楽しかった、それに比べて日常生活はこんなにつまらない、って思うっていうのはすごいあるんじゃない。
M: ふーん。
T: だからやっぱりロック・バンドのツアーの後の乱痴気騒ぎとか続いてくのはそういうことだろうし。
それと、子供の時に貧しかったり環境が不幸だったりして、ずっと楽しいことが無い中で育ってきてると、ステージが楽しい、ツアーが楽しい、非日常が楽しいっていうそういう楽しさを失うのがすごく怖いんだよな。
M: これができなくなったらどうしよう・・・とかってなっちゃう。立川さんは─ドラッグとかいうことじゃなくて─そういうような感覚になったことってなかったですか?  
突っ走って行っちゃう、外れていってしまうことの快感に浸ってしまって、あ、やばいな、これは、みたいなのって。
T: うーん。ぼくだってそういう感覚がわからないではないけど、これはこれで楽しいけど他に楽しいこともあるな、とは常に思ってたんだろうね。
それと、なんかぼく、どっちかというと斜に構えてるみたいのが生き方として好きだから、突っ走っちゃうのがかっこ悪いなぁとは思ってた、なんかええかっこしいなとこがあったから。それで、そっちのほうには行かなかったのかもしれない。
まぁそれも、今になって思えばっていうことだけどね。
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