WORKS~立川直樹全仕事~

1991年 SIDESTORY 4

こんな映画をイメージした

t : こないだのお正月に家で引き篭もってる時にね、新聞で司葉子さんの記事を読んだの
m : はい。
t : で、(その記事の中で)司さんは、「自分は今、映画に出たくないわけじゃないんです」って言ってて。「(私は)良い脚本と企画を待ってるんです」って。
で、これは自分でもうまく説明できないんだけど、ちょうどお正月で、いろんなものが閉鎖になるとか閉まるとかっていうことにものすごくノスタルジックに自 分が感応する心境だったってこともあるだろうし、司さんとは以前、河野洋平さんの関係で何度かみんなで会食したことがあって、その時の“感じ”が蘇ってき たっていうこともあるんだろうけど、自分の中にふっとある「情景」が浮かんだんだ。

ある女性がいる。
彼女は明治から何代も続く旧家の人間なんだけど、いろんな訳があって、長く住んだ家を明け渡さなきゃいけない。とどのつまりは、没落して。
その最後の1日に、売り払った着物を引き取りに呉服屋が来て、残っていた家具も全部処分して、最後は彼女が家の門をしっかりと閉めて出て行く。

それだけのことをね、映画にしたらすごく良いんじゃないかと思ったの。 彼女が自分の家で過ごす最後の1時間半っていう時間、を。
m : いいですね。
t :

何かに翻弄されて生きていくんじゃなくて、深いものを一つずつ大切に作っていきたいなっていう欲求が自分の中にあるんだよ。
(その一つが、)もしかしたらこういう映画なのかもしれないって思うんだ。
決して大げさなドンパチもんじゃない、とっても静かでとっても哀しい映画。

m : うーん。
t :

その映画のスタッフって、すごく少なくていいわけ。それでさ、どこか撮りたいところに行って撮影してるところをまたドキュメンタリーにして“最後の夢”みたいな映像にしたら、それだけで2本、作れるなって思ったの。
さっきキャメロンが言ってた、今までのぼくの人脈とか“仕事脈”、あと土地勘みたいなものを集めるだけで、大きくない映画だったら、作れちゃうような気がするんだよ。
だってさ、たとえば彼女が10年前の夏を回想して、

あの頃、つれあいと一緒に『あさば』に新内を見に行った時には、まさかこんなことになるとは夢にも思いませんでした」って呟く。 
そこに、『あさば』の池に船が出て、新内仲三郎さんが歌うシーンが、かぶさる。 

これは外人が見たら泣くぞ(笑)?

m :

確かに、そういうものを舞台装置やCGを使わずに撮ったらすごいでしょうね。
現在の日本映画として、画期的なものになるような気がする。

t :

そうでしょ? 他にも京都の祇園町の座敷とか、そういうものもきっちり撮っていってさ・・・。
それでそういう話をしてたら、「それは立川さんが自分でやるしかないんじゃないですか?」って言われて(笑)、確かにそうかもしれないなぁ、と。


このWebサイトのために立川直樹に聞いたことや書いてもらったことの中には、何ら かの理由でWeb上には掲載していないものもある。
その中の一つの文章を、Web上には結果的に掲載されなかったけれど、個人的に妙に引っ掛かっていたこんな短い文章を思い出した。

「有馬温泉の陶泉・御所房、神戸の老祥記、村上の鮭料理、金沢の成巽閣の雛人形、佐世保の夜、修善寺の「あさば」・・・。
かつて行ったことのある場所を扱った雑誌の記事が、気ままな旅への夢を見させる。
そして琵琶湖一周や京都の庭めぐりにも出かけてみたくなる。」

とても私的な、デザイア

m : そういうデザイアみたいなものって、今は映画に対するものが一番強いですか? 今までの集大成みたいな・・・もちろん、まだ全然エンディングじゃないから集大成じゃないんでしょうけど。
t : うーん、それは本、かなぁ。
m : 本?
t :

うん。書籍として売りたいとかヒットさせたいとかいうことではあんまりなくてね。それこそ昔、澁澤龍彦とか植草甚一とかが書いてたような、(一編ずつは)長さも不揃いでタイトルも脈絡のないようなものを書きたい。
たとえばね、最近、ロサンジェルスの老人ホームみたいなとこで、九十何歳かのタップダンサーが死んだんだよ。その人、昔、ニコラス・ブラザーズっていうタップダンサーチームを組んでた片割れなの。階段をだーっと降りてきてやるようなタップ。

m : ああ・・・。
t :

昔、戦時中に兵隊に娯楽のために見せる「ストーミー・ウェザー」っていう映画に出てて、それがまあすごいの。
今はもちろんみんな、ニコラス・ブラザーズのことなんて忘れてる。でもぼくは、彼がロサンジェルスで死んだっていうことをきっかけに1000字くらいの文章は書けるし、書きたいと思うわけ。そういうのが結構いっぱいあるのよ。

m : おもしろいですね。もう一つぐらい教えてください(笑)。
t :

・・・。田中泯ってさ、子供の頃から盆踊りとかあると、それについていっていつまでも踊っちゃう、みたいな子供だったんだって。それって、ぼく、すごくわかるのね。
あと、小泉八雲が初めて日本に来て盆踊りを見た時のことを書いたエッセイがあって、それもすごくいいの。その二つのイメージをシンクロさせて「盆踊り」っていう話を書くっていう・・・。いいじゃん?

m : いいですねぇ。読みたいな、それ。
t : それってやっぱり本なんだよ。私家版でもいいかな、と思ったりもしてね。

ちなみに田中泯さんのWebサイト、ぼくはすごく好きです
ずっと踊り続けている子供の姿が目に浮かぶような気がするWebサイトです

Min Tanaka 田中泯Webサイト

http://www.min-tanaka.com/

市川雷蔵というスター

m : 「市川雷蔵フェスティバル」っていうのはすごく先駆的な試みですよね。
t : これはね、最初は大映の人が企画を持ってきてくれたの。
 キリンプラザ大阪って、映画でも先鋭的なものしかやってないんだけど、雷蔵は、ぼく、すごくやりたかったの。変なとこでやるより、絶対あのスタイリッシュなキリンプラザでやったほうが良いと思ったから。
m :

それは市川雷蔵の、容姿も含めての美意識みたいなのものが良いんですか?

t : ぼくはね、市川雷蔵は日本のジェラール・フィリップだと思ってるんですよ。そういう位置付けが自分の中でできたんで、当時のKPOのコミッティーのメンバーに「何で市川雷蔵なの?」って言われた時に、明確に説明できたのね。
m : なるほど。
t :

雷蔵、とにかく全てがスタイリッシュなんですよ。たたずまいから目線ひとつとってもね。
やくざ映画でもこう、一つの美学に貫かれてるじゃない? やっぱりさ、あれだけの俳優はいないよ。

m : 日本のジェラール・フィリップっていうのはわかるなあ。
t :

うん。コメディもできて、シリアスなのも現代劇もコスチューム・プレイもできてさ。
だって、眠狂四郎に、陸軍中野学校に、忍びの者に・・・。

m :

「ある殺し屋」!
なんか透明感っていうか、異星人みたいな感じがありますよね。

t :

市川雷蔵にしろジェラール・フィリップにしろ、夭折型なんですよ、明らかに。
赤木圭一郎とかジェームス・ディーンとか、事故死した人も含めて、夭折するスターって、天からその凝縮したものしか授かってないんじゃないかと思えてくるよね。
ミュージシャンもそうでしょ? だってモーツァルトだって35歳で死んでるんだから。

m :

多いですよね。

t : うん、結局ぼくなんか思うけど、今年自分が57になって自分が考えてるよりは、もう20年ぐらい生きちゃってるから、こうなってくると死んだ人には勝てないよね。
m : うーん。
t :

(自分が) 昔書いた原稿とか見ると、絶対書けないと思うもん。“美”があるのよ。
手馴れたものじゃなくて、こう、何か得体のしれないものに向かって突き進もうっていう、やや青臭い“美”。
それはやっぱり中原中也みたいにさ、10代後半とか20代のうちに書いたものにしかないんだよね。寺山修司だって、若い時、良いもんね。

m : それは思い切りみたいなものから来るんですかね?
t :

それと、カッコつけたいっていう気持ちが滲み出してきてるような感じ・・・。
若さなんだよね、やっぱり。
ミュージシャンなんかだとさ、若い頃のフレーズの切り込み方の鋭さみたいのとかあるじゃん。
それはビジネスマンとかでも同じなんじゃない?

m :

前にぼくが立川さんに、「フランク・ザッパってどのアルバムを聞けばいいですか?」って質問した時に、「迷った時はフランク・ザッパに限らず、 ファースト!」って答えてくれたことがあるけど、特にミュージシャンのファースト・アルバムって、デビュー時の全力投球感っていうか、凝縮された感じって ありますよね。

t : うん。
m :

そう考えると市川雷蔵って、夭折してるけどある程度のものを残してますよね。

t :

残してるね。夭折の年が良かったんだよ。ジェームス・ディーンみたいに20くらいで死んじゃうとあんまり残しようがないんだけどさ。
ボリス・ヴィアンにしろ、39から42くらいが一つの山・・・・っていうのも変な言い方だけど、なんじゃないかな。

m :

若い時にすごく輝いてた人が年をとっていった時に、見ている方がちょっと切なくなっちゃうようなことってありますもんね・・・。

t : 俳優とかは、特にかわいそうな気がすることがあるね。表に出続けてなきゃいけないから。
m :

「日本侠客伝」とか「悪名」とかの、昔の日本映画のシリーズものを見てると、逆の意味で愕然とすることがあるんですよ。
え? 佐久間良子さんってこんなに凄絶な美しさを持った女優さんだったの? とか、中村玉緒さんの、すごくチャーミングで強くて、でもどこかはかないような感じって何だろう? とか・・・。

t :

男優だと岡田真澄とか、すごいよね。妖気漂ってるよ。さすがヴィスコンティが惚れたっていうだけある。

m :

そういう人たちが年をとって容姿が衰えていく時って、どんな気持ちがするんだろう。ぼくには想像もつかないけど・・・。

t : 残酷だよね。
でも人の一生って、多かれ少なかれそんなふうにできてるんだよ、きっと。

“God only knows”とまでは言えないにしても、ね。
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