WORKS~立川直樹全仕事~

1990年 SIDESTORY 5

正しいパンクから日野元彦ソロ・アルバムまで

m: 『KIRIN LAGER CLUB』の話にもう一度戻らせてください。
この年、マリアンヌ・フェイスフルとワールド・ミュージック以外のところで、渋いロックン・ロールが多いですよね。ストレイ・キャッツにニック・ロウに、エリオット・マーフィ。
t: その辺はだから、まあ渋いんだけど、基本的には正しいパンクですよ、みんな。
m: 正しいパンク、なるほど。
t: 渋いっていうのは表層的なもんだから。
ぼくはパンクが出てきた時、正直言うと、ピストルズはわからなかった。後になってわかったんで、出てきたときは嫌いだったの。下手だったし。
ほら、ロンドンによく行ってたから、そのパンクの現場っていうのを見てたわけ。ハービー山口と仕事をしてたから、ピストルズが最初にギグやったところと か、ハービーを連れてずいぶん見てたの。だからデュラン・デュランのデビュー・コンサートなんてタコみたいなもんも見てるし。
m: (笑)。
i: ぼくも『KIRIN LAGER CLUB』は最初から現場見てますけども、立川の目を通して好きなものだけをチョイスしてくれればいいんだっていうことですよね。それで結果的にヒットしたのが、ワールド・ミュージックであり、今の「正しいパンク」なんですよね。
t: うん。だから『KIRIN LAGER CLUB』っていうのは今も続いてるし、いろんなことはあるけど、やっぱりキリンビールっていう会社がすごいなと思うのは、好きなようにやらしてくれてるけど、結果的にキリンのブランドを守ってるっていうところだよね。
そこはぼくもトータルなチョイスがブランド力の維持につながるっていう部分は絶対に守ろうと思ってるから。
i: ニック・ロウ、ものすごかったですよ。全部ソールド・アウトですから。
m: へえー。
あと、エリオット・マーフィを呼ぶっていうこと自体、すごいですよね、まず。
i: 痛快でしたよ、現場にいて。現場では「ああ、やっぱり立川さんはこういうことやるんだよな」っていうところがありましたよね。クアトロでやってるイベントにスポンサードしてる企業なんてなかったですから、当時は。
m: だって、エリオット・マーフィなんか京都磔磔(たくたく)ですよ!?
i: そうそう。だって(エリオット・マーフィは)当時、ブルース・スプリングスティーンと同じような評価をされてたんですよ、アメリカでは。でも日本では磔磔でやるぐらいのレベルなんですよ。
t: そういうのが好きなの。
i: そういうことですよね。だからプロモーターもわかって「立川さん、こういうのやってくれよ」と。その辺をやってるのは 全部あのスマッシュですから。(スマッシュの)日高さんっていうのはもう「立川さんに頼めば、この辺は全部OKだろうな」っていうことで全部相談に来ます からね。
t: 勘なんだけどね、だから。
i: ニック・ロウもそうですよ。あの当時、日高さんが「とにかく頼むわ、ニック・ロウ」っつったら(立川さんが)「『LAGER CLUB』で来ちゃえばいいじゃん」って。まあビョークとかも全部そうなんですけどね。
m: じゃあ、このあたりは正しいパンクなんで、ここで呼んでおけばいろんな意味で良かろうということだったわけですね?
t: うん。
i: で、この年はちょっとズレてた感じの立川さんのチョイスが面白かったと思うんですよ。だってあの時、そういうジャンルが流行ってたっていう話じゃないですもん。もう音楽は打ち込みに移行しようっていう時期でしたから。
t: 正直言えば、打ち込みの元凶はぼくだった、みたいなところがあるわけ。たとえばYMOしかり、その前のクラフトワークが出たときしかり、そういう打ち込みの元祖みたいなところが、大々的に世に出るにあたっては自分も加担してたわけ。
でも、その逆もあるっていうか、なんかちょっと違うなって思い始めたんだね。
もうちょっと肉体的なものに対して自分なりの欲求が向いたのがあのザラザラした感触の音楽だったんですよ。
m: だからこの年ってそういう意味で言うと、正しいパンクあり、S.E.N.S.やサロンミュージックあり、日野元彦さんの『ワイルドトーク』ありで、非常にバラエティに富んでますよね。
t: だから『ワイルドトーク』だってさあ、あれはほんとに強力ですよ。たぶん日本のなかで、ジャズとロックがあれほど音を立てて合体したレコードはないな。すごいよ。
i: 日野(元彦)さんも、あの時、よく冒険したと思いますよ。ジャズの人ですからね。なのに、(あの時やったのは)ロックでしょ。
t: あのレコーディングなんか、キャメロンがいたら喜ぶよ。
i: いやすごいっすよ。お兄さん(日野皓正氏)が来た時なんて、他のミュージシャンに「お前、俺がイッテルのにもっと来いよ!」ってアントニオ猪木みたいになってましたもんね。
t: あと柴田ね、ピアノの。
i: そうそうそう。ロス在住のジャズピアニストで柴田さん。最初、(立川さんと)思いっきり衝突してましたよ。またそれを楽しんでるんですよ。トコさん(日野元彦氏)は。
t: ロス在住のバリバリのピアノに、いきなり、「そんな長いソロ弾いたって、レコーディングなんかしねぇよ」、っつったんだよ(笑)。
i: (柴田氏は)もう、カッチ~ンときて。「プロデューサーだかなんだか知らねぇけど」みたいなことになって、で、トコさんは自分のリーダーアルバムなのにまぁまぁみたいな話になって(笑)。
t: それで「なんで、アルバムでそんなソロが長いの? 半分でいいんだよ、半分で。誰も聞かないよ、そんなの」って言ったら、(柴田氏は)「どういう事なんだ?説明してくれ」って言うから、「理屈じゃないんだよ、半分でいいよそれ」って言ったんだけどね。
m: メンバーも一流の方たちばっかりで。是方さん、野力(のりき)さん、そして立川さんの好きな抜擢組で日野賢二さんもこ のアルバムで本格的なデビューということなんですが、これを見て初めて知ったんですけど、日野元彦さんって、プレイヤーとしてすごく評価高かった方なんで すね。失礼な話。
t: そうだよ。まあだから前も言ったけど、面白いもんは面白いんだよね。なんかこう和食だけじゃなくて、いろんなもん食べたいじゃない? 美味しいものは。で、この時期は食べる資金があったんですよ。やれるものに関してはできて、どんどんやってたから。
こっちがやりたいものをどんどん言っても、客もいたし、お金出す方も安心してっていうか、出せる理由づけも向こうなりにあったと思うんだよね。
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