TIME WAITS FOR NOR ONE~立川直樹同世代トーク~

第15回 後編

時代は変わる

T: この前、テレビで奄美大島の番組をやっててね。「海から豊穣と幸福がやってくる」っていうような、人はなぜ海に向かうのかっていうテーマだったんだけど、その中で、船大工が海辺で歌を歌ってるシーンがあったの。
ちょっと前の「ブルータス」にも「世界のビーチ特集」っていうのがあって、ピカソとかセルジュとかの例を出して、「男はなぜ海が好きか」ってやってる、あの記事もすごく良いと思ったんだよね。
やっぱり、波とか海から上がってくる“生まれたて”の風とかって人間にとってすごく必要なものなのかもしれない。
M: 海はねぇ・・・。必要ですよ。
T: 東京って、もともとは東京湾があるから海風が一番来る街だったんだけど、
東京ウォールって言われてるあれが全部(風を)遮断しちゃって、以前とは違う変な都市になっちゃったんだよ。それとITの持つ“何か”が呼応してネイチャーなものに全く興味を示さない人々を作り出しちゃったんだと思う。
M: そこまでITを悪者にしますか(笑)。  
でも、真面目な話、立川さんはデジタルに無関係で生きていける最後の人種ですよ。 今の大学生はネットに触れなきゃ就職もできないんだから。
T: エラ・フィッツジェラルドがある時、「今の歌手ってたいへんね」って言ったんだって。「歌うだけじゃだめで、踊れなきゃいけないし、おまけに顔も良くないと今はデビューできないんですってね?(それなら)私なんか(デビュー)できないわ」って。
その伝でいけば、ぼくなんかも今の社会にはデビューできないな(笑)。
M: ま、立川さんはね。でも、立川さんだから許されてるっていうのはあると思いますよ、本当に。
今の若い人が「インターネットには一切触りません」っていうのは、ちょっと前に「電話は嫌いだから家に引いてないんです」って言ってるのに近いですから。
一般の若者が言ったら「何、浮世離れしたこと言ってんだ」ってことになるでしょうね。
T: やり通してるから、まぁ良かったのかね?
M: その幸せは最後までキープするべきだと思いますよ。
でもね、このあいだ、「これはデジタル化の恩恵だよな」と思ったのは、「駅前旅館シリーズ」とか「社長シリーズ」とかの昔のプログラム・ピクチャーのDVDがTSUTAYAに並ぶようになってるんですよ。まあ、立川さんは「駅前旅館」とかあんまり見ないと思いますけど。
T: ・・・。
M: あの時代の娯楽映画って、単純に楽しいんですよ。一々、人間くさいところが。
ただ、その“人間くささ”って、今の時代からすると“ポリティカリー・コレクトでない”っていうことと重なる部分が大きいんですよね。たとえば、社長が小唄の師匠を囲おうとしてそれをうまくいなされるやりとりのおもしろさ、とか。
だから、こういう楽しさって、おおげさに言えば日本においては過去の遺物なのかなと思ったり思わなかったりしつつ見てるわけなんですけど。
T: でもさ、「セクシャル・ハラスメント」って日本だけの言葉じゃないわけじゃない?
M:
T: 前はさ、雇用主が「うちはいい女しか雇いたくない」って公言したり、求人広告に「容姿端麗」って書いたりしちゃってたわけじゃん。だから、まあ、そういうのって世界的な風潮なんだろう。
M: それって、アメリカでも昔は良かったんですかね?
T: 良かったんじゃないの?
どこまで遡るかってことになっちゃうけど、ある時期には一番人種差別をしてた国がア メリカなんだよな。
それが今は公的な場面においては、過剰なまでに差別ということに敏感な国になってる。
だからもしかしたら“そういうこと”って、何でもアメリカから始まって、他の国に伝わっていくのかもしれないね。
M: なるほど。
T: 古い歴史を持つ国からしたら、アメリカって、すごくパラドキシカルでナンセンスな国だと思うよ。
世界で一番たくさん煙草を作っている国が病的な嫌煙運動をする、Rock’n Rollを生んだ国が真っ先にRock’n Rollを規制する・・・。
M: アメリカって、「望めば叶う」とか「万人平等の原則」みたいのが前面に出ているせいか、デカダンスみたいな感覚の存在が全く感じられないですよね。
T: ないね。
M: 退廃っていうと、フォークナーみたいなすごく荒涼とした世界観に行っちゃう。
T: エレガントなやつは元々、アメリカなんか行ってないんだから(笑)。食い詰めたやつとか一旗上げようとしてギラギラしてるようなやつが行ってできた国なんだから。
M: (笑)それは昔はそうだったんでしょうけど、あの国だって豊かになってずいぶん経つじゃないですか
T: でも不思議だよね、それ。
M: 建前の正義みたいなほうにすぐ行っちゃう。  
せいぜいサリンジャーぐらい?
T: サリンジャーだって屈折はしてるけど「美」はないよな。
ウォーホールだって「美」はないもの、クリムトやコクトーみたいな意味ではね。 
そう考えると、第2次世界大戦の後、どうやったら日本にアメリカ文化を伝えて洗脳できるかっていう発想の下に実行された占領政策が、今になって見事に効いてきてるのかもしれないとさえ思うね。

泉鏡花と玉三郎

T: 悪いことばっかりだとあれだから、っていうわけじゃないんだけど、最近「ああ、日本人はまだ大丈夫だな」と思ったことがあってね。
M: なんでしょう。
T: ほら、キャメロンも見に行った、7月の歌舞伎座、ぼくは来週見に行くんだけど、評判いいんだよね。チケットもすごく売れてるみたいだし。
M: そうみたいですね。
T: ぼくは、まず、玉三郎が泉鏡花で昼夜をやっちゃったっていうことだけですごいと思ったのね。「平成中村座」に対する“返し技”みたいな感じもあって。
それでやっぱり、泉鏡花と玉三郎っていったら、日本人の美の世界の極致なわけじゃない? それに対してこれだけの反応があったっていうことはすごく良かったなと思うんだ。
M: 夜の「天守物語」、玉三郎さんはもちろん最高なんだけど、海老蔵さんの図書之助がまたすごくいいんですよ。
T: 海老蔵、最近、いいんだよね。 前はそうでもなかったんだけど、襲名の時の「助六」を見てちょっと(いい意味で)やばいなと思ったぐらいから・・・。
海老蔵、菊之助は今、“買い”だね。歌舞伎界のネクスト・ジェネレーションはあの2人が引っ張っていくんじゃないかな。その“2人いる”っていうことが結構大事でさ、相撲でいえば「栃若時代」みたいに・・・。
海老蔵もいずれ団十郎になって、っていう中であの2人がいれば歌舞伎は大丈夫だって思えるものが、今、確かにあるよね。

栄えないから枯れない

M: これも定期的に立川さんに聞いてるような気がするんですけど、「栄枯盛衰」って立川さんにとってどういう感覚なんでしょう?  
たとえば、「あいつはもうダメだな」とか噂を立てられたりしたことだってあったと思うんですけど、そういう時、どういうふうに考えるのか、とか。
T: ぼくは、「あいつはもうダメだ」っていうところまでも、行ってないと思うんだよね。つまり、上り詰めてないから。
一位になると常に落ちるわけじゃない? ぼくはNo.2の論理で、自分は表に出ないで常に裏にいたいっていう発想だから。
M: ああ・・・。
T: そういう話でいえば、昔、与那嶺っていう野球選手がいたんだよ。ウォーリー与那嶺って呼ばれてた2世の選手なんだけど。
M: あ、知ってます。
T: 昔は、有名選手が巨人から(外の球団に)出ることってあんまりなかったんだけど、彼は巨人を出て中日に移籍して、その後(中日の)監督になったの。
それと、あれだけ長く日本にいたのに日本語を覚えなかった2世っていうのも、珍しいわけ。
そのへんが“頑な”っていうのとも違うかもしれないんだけど、携帯の機能も覚えない、メールもやらない自分とダブるんだね。
M: なるほどね。
T: それでね、彼が監督をやってたある年に中日が優勝したんだよ。その時の彼の言葉が良くてね。
「meは・・・」
あ、彼、自分のことを“me”っていうのね。
「meはthis year、No.1になろうと思わなかった。No.2になろうと思ってたんだ」と。「でも、そうやっていたら、他のチームがloseして、We got winなんだよ」って。
M: へぇ。なんかちょっと斜に構えた感じでかっこいいですね。
T: そうでしょ。それと、あの頃のプロ野球では、一度監督になった人はコーチにはならなかったのよ。
M: “上がり”だった?
T: そう。監督になったっていうことは、(当時の球界では)横綱になったみたいなもんだったから。でも彼は監督を辞めた後も、当時できたばかりの西武ライオンズでその能力を買われて打撃コーチをやったりするのよ。そういうところも、ぼくはすごく好きで。
ぼくも、プロジェクトの中で監督みたいなこともやったりするけど、その次に「立川さん、これ、やってください」って言われてコーチみたいことをやるのも、嫌じゃないの。
だからキャメロンの言う「栄枯盛衰」っていうことでいうと、ぼくは「栄」にも行かないし、「盛」にも行かない。だから結果的に「枯」にも「衰」にも行かないっていうのが、自分の中での感じなんだよね。何か本能的なものとしてそういうのがある。
みんな、一所懸命「栄」に行っちゃうから「枯」に行っちゃうんだし、「盛」えるから「衰」えるんだと思うんだよね。
M: でもそれってどうやって「栄」や「盛」に行かないで“踏み止まれる”んですか?
T: 最後まで行っちゃうと、なんか、かっこ悪いと思っちゃうんだよね。
M: でも、普通は行っちゃうでしょ?
T: だから・・・ぼくは、なぜか踏み止まれるんだよ(笑)。
それがなぜかは自分でもわからないし。
バブルの頃に何億円になる仕事が来てた時、「なんか違うなぁ」と思ってやらなかったのも、よく「なんでやらなかったんですか?」って聞かれたけど、今でもわからない。
だからよく例に出すけど、「愛のコリーダ」の「吉」(きち)みたいに生きていきたいと思ってるだけだから・・・。

ロック・スターから学んだ“ギャップ”

T: でもさ、ぼくからすれば、みんな、なんでそんなに頑張っちゃうのかなぁ、と思うよ。一番になるとかどんどん拡大するっていうのはアメリカ的発想だと思うん だよね。ヨーロッパもここ10年ぐらいはだいぶアメリカナイズされてきちゃったけど、その前までは「小さくていいじゃないか、家族でやってる靴屋なんだか ら」っていう小さなユニット的な考え方がしっかりあって、ぼくはそれでいいと思うんだよ。
M: 今の日本では、なかなかそうは思えないでしょう。
T: まあ、“事業”っていうとらえかたをすれば、長くやってれば左前になる時期もあるわけさ。
でも、ずっと同じことをやってると、世の中があっちから寄ってきたりもするのよ。
あんまり正確な答えになってないかもしれないけど、「ヒット曲を出し続けよう」って思うんじゃなくて、好きな音楽をやり続けていれば、満足のいくものがで きてその上売れることもある。その時に、「まあ今回は1,000万円ぐらい儲かればいいかな」と思ってたのがたまたま評価もされて2,000万円儲かっ ちゃったりすれば(その差の)1,000万円は労せずして入ってきたものだと思うほうなの、ぼくは。
それで、次に「これ、やりたいな」と思ってやったことで(今度は)1,000万円の赤字が出ちゃった、と。そうしたら、「この前の1,000万があるからこれでチャラだな」と思って、そんなふうに歩んでいければそれでいいじゃない、って思うんだよ。
でも、それがビルを建てたいとか周りに対して自分をエスタブリッシュしたいとかって考え始めると、そこで、人間としてやらなきゃいけないことがたくさん出てきちゃう。ぼくは、それはないから。全然。
M: あと、立川さんは長くエンターテイメントの世界にいて、だめになっていっちゃった人っていうのをたくさん見ていると思うんですけど、そういう時、どんなことを思います?
T: それはそれで美しいと思う。映画とかでも“転落する美”っていうのがあるじゃない。
だから・・・ぼくは意外と勇気がないのかもしれないんだよね。心のどこかで転落するのは嫌だって強く思ってるのかもしれない。だから転落しないようにしないようにしてるんだよ、きっと。
でもさ、“バクチ系”の人ってホントに行くじゃない? ガーッと(笑)。
M: 行きますね(笑)。ぼくがいるIT業界っていうのも“バクチ系”の人がすごく多いんですよ。
ものすごく仕事をとりまく環境の流れが速いから、つい一発当てる方に走りたくなるっていうのはもしかしたらエンターテイメント業界とも近いのかなって思うんですけど。 それでこないだある人に、「三島さんって、仕事でギャンブルしないよね、なんで?」って言われて、「あんまりバクチが好きじゃないからかな」って答えて。
丁半バクチで、どうだ!ってやって生きていくより、いろんな人に「おまえ、そこでタコヤキ焼けば?」とか、「君は綿飴(を)売るのが得意そうだね」とか言ってやらせて日銭を集めて、それを裏のほうで心配しながら見てるのが好きなんだよなって。
T: ぼくも同じで、バクチって意外としてないんだよ。
M: 堅いですよね。でも、その堅さを周囲に気付かせない上手さがあると思う。
T: イメージだよね。やたらcoolだと(自分では)思うし。
M: でも、そういうバクチ系の、やたら“張っちゃう”人(笑)に対して、どう思います?
T: うーん・・・。良く言えば勇気があるなぁと思うし、無邪気だし。悪く言えば無謀だなぁとも思うし。
無邪気と無謀って両方、頭に「無」がついてるんだけど(笑)。
だから、ぼくがデヴィッド・ボウイとかミック・ジャガーとかセルジュ(・ゲンズブール)とかから学んだのは、彼らが作ってるイメージと彼らの現実とかcoolな判断力のギャップみたいなものの大きさ、すごさなんだよね。
M: その3人ってホントにギャップがすごそうですよね。
T: あとは、無理をすると、堕ちるよね。
音楽家でも役者でも「ここまでだったらできる」っていうことをやってるうちは「栄」であり「盛」なんですよ。でも、人間って時々誤るのは「もっといける」って思うんだよね。
「分相応」って、ぼくはとてもいい言葉だと思ってるんだけど、人って、やってることが「分不相応」になると絶対堕ちるね。
M: でも、現状維持を狙ってるとそれはそれで凋落していきませんか?
T: あ、それはダメよ。
つまり、水平飛行っていうのは落ちていくことだから。紙飛行機だってそうでしょ。
少しづつでも上昇気流に乗っていくから落ちないんであって。
そうじゃなくて、グーンって急発進して、気流の状態とかを考えずにいきなり上のゾーンに行こうとするのがダメなのよ。それをやっちゃうと、うまく上のゾーンに入れればいいけど、もし入れなかった時って失速状態に重力がかかっちゃうから、どうしようもなく落ちるよ。
それは、そこでたまにアクロバティックに“ウィン”って戻る人もいるけど(笑)、そんなの500人に1人ぐらいだと思うよ。
M: 立川さんならその“ウィン”、行きそうですけどね(笑)。だって「関係するイベントは必ず晴れる」っていうぐらいだから。
T: うん、ぼくはかなり運はいいね。
もうダメかもしれないと思うことはあるんだけど、そういう時には必ずいいことが起きる(笑)。
勝てるところまではいかないけど、「10対9で惜しい試合でした」っていうぐらいにはなるからな。
M: じゃあ、その500分の1はおいておくとして、今、若い人が人生でうまく生きていくためにどうすればいいか・・・っていうあたりを教えていただけませんか。
T: まず、自分が人より優れている部分を見つけることだよね。
今は情報化時代だから、若い人って、みんな、いろんなことを少しづつ知ってるんだけど、その代わりに特化型のやつがいなくなっちゃったような気がするんだ。
M: なるほど。
T: たとえばさ、雲丹(ウニ)のことなら○○クンに聞けば何でもわかるってなったら、いろんな人がその○○クンを頼ってくるよね。
まあそこまで特殊なケースじゃなくても、若い子が60年代のロックのことにものすごく詳しいっていうことになったら、それだけでもそこから何かが生まれると思うんだよ。
M: 立川さんも、若い時は“特化型”だった?
T: そうだよね。昔は「博覧強記」って言われたこともあるけど、知らないことは全く知らないからね。
まあ、ぼくの場合はそのまま来ちゃって、今でも特化型なんだけど。
M: でも、それでいいんですよね?
T: うん。何ら問題は無い、と思うよ(笑)。
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