TIME WAITS FOR NOR ONE~立川直樹同世代トーク~

第12回 前編

2月のある日曜日、立川さんとぼくは「バレンタイン イブ コンサート~cobaとSweetな仲間達~」というイベントを見に行った。
会場に着くとすでに始まっていて、ドアを開けると会場は満員。
ドアのすぐ前に座っていた上品な白髪交じりの男性が「あっち、あそこ空いてるよ」と立川さんに空席を示す。
席についてしばらくすると桃梨という男女2人のユニットの演奏が始まり、立川さんは「彼等、すごくいいね」とぼくに言う。
cobaさんの素晴らしい演奏の後のトーク・コーナーのゲストは有名フレンチ「シェ・イノ」のオーナー・シェフである井上旭氏。
M:「あれ?あの人、さっき席を教えてくれた人だ・・・。立川さん、井上さんと知り合いだったんですか?」
T:「いや、知らない」
M:「お互い、タダもんじゃないって直感したんっすかね?剣豪小説みたいだ・・・」
T:「さあ・・・(微笑)」
休憩を挟んでステージに現れたゲストの夏木マリさんはますます美しく、そしてぼくたちは会場を脱け出して「野崎村」を見るために歌舞伎座に向かった。
芝翫、雀右衛門、鴈治郎、富十郎、田之助という、人間国宝5人の揃い踏みによるこのお芝居を堪能した後、再びその場を抜け出したぼくたちはcobaさん経営のイタリアン・レストラン「リングアヌーダ」に行き、食事をしながらこの連載のための話をした。
わずか数時間の間に綺羅星のごとき表現者に接したおかげで、ぼくは少しぼぉっとするような気分だったが、久しぶりに、寸暇を惜しんで優れた事象に触れ続けようとする「立川直樹的生き方」の伴走をしたこの日のワインはとてもおいしかったのである。

T=立川直樹 M=三島太郎 L=「リングアヌーダ」のマネージャー)

Goodbye Cruel World !

T: 今、本を書きたいなと思い出しててね。タイトルが「Goodbye Cruel World」っていうの。
M: あ、それ、いいなぁ。なんかそれだけでいい。エルヴィス・コステロのアルバム・タイトルにもありましたね・・・。
今日のテーマはそれで決まりです。
T: そのタイトルにしようと思った裏にはいろんな想いがあるんだけど、たとえば、なんか世の中のみんながネットだ、デジタルだっていう風潮にしてもさ、やっぱりなんか変だと思うんだよ。
M: うん。でもそういえばそんな立川さんと、ネット無しでは生きていけないぼくがこうやって話してるのも、おもしろいですよね。
T: キャメロンはいいんだよ。そういう特殊なスキルを持ってる、ある意味でどこかのシェフみたいなもんだからさ。
でもたとえばぼくらと同世代の、今までそんなことに何の興味も持ってなかったような人がそういう風潮に乗ろうとしてるのがなんか、ね。
別にいいじゃん、メールなんかしなくたって、と思うんだよ。
M: 大きな会社だと、パソコンを使わないと社内決済とかもできなかったりするでしょうからね。
T: でもさ、そういうのがその人の評価にも関係してくるって、おかしいと思うんだけどな。だってさ、エンターテイメントの仕事をするのにパソコンが使えるかどうかなんて関係ないだろう?
M: まあ、もう一回、受験勉強のやり直しをさせられてるようなもんじゃないですかね。
いい悪いは別として、とりあえずやらないと、ある体制の中では認めてもらえないっていう意味では。
T: なるほど・・・。そういうものなのかもなぁ。

「リングアヌーダ」にて

T: ここは最近の拾い物・・・っていうと言葉は悪いんだけど、ここは外食の日々の中でたまにふと行きたくなる、すごく好きな店なんだよね。料理の量とかも含めての程の良さがね。
M: cobaさんって、ここが自分のお店だってオープンにしてるんですか?
T: 隠してるわけじゃないだろうけど・・・でもそんなに大々的に宣伝してはいないよね。彼、そういうところ、基本的に性格がいいからな。
M: 性格がいいって?
T: cobaって、なんか芸能人と芸能人じゃないところの微妙なハザマを泳いでるじゃない?。でも、この店にしたってさ、誰々の店って言われちゃったら、みんなそういう印象で見るじゃない?。そういう「芸能人の店!」みたいな見られ方はあんまり好かんのじゃないか?
というのも彼は、ぼくも金沢とかで一緒に寿司屋に行ったりさ、カネキヤっていうすっごいうまい居酒屋のりの料理屋に行ったりして知ってるんだけど、本当にうまい食べ物が好きなの。
M: へぇー。
T: そう。だから純粋にいい店をやりたいんだろうなって、気持ちはすごくわかる。
(「リングアヌーダ」のメニューを指して)5000円を切るプリフィックスっていうのは画期的でしょう?夜で、しかもおいしくて。
M: そうですね。。
T: ぼく、全然タイプは違うけど、ここって「オステリア」と対極を成すイタリアンだと思う。
M: 「オステリア」だとひとり1万円ぐらいでしょ? もっと?
T: うーん、「オステリア」だと意外とメインを食べなかったりするからな、お任せで1万円ぐらいかな。
M: ここはよく来るんですか?
T: うん。だから結局、「Va-tout」みたいなもんで食堂だよね、ぼくにとっての。
ここはメニューを見るとわかると思うんだけど、「どことか直送の新鮮な魚!」とかそういう、過剰に素材に依存したメニューってあんまりないんだよ。煮込み料理とかを多くして、なるべくロスが出ないように考えてるんだと思うの。
それは「おいしい食堂」としては非常に賢明なんだよね。
M: なるほど。確かに、ホントにそれを売りものにしたい店でもないのにあんまり素材がどうこうとか言い出すと、泥沼にはまるのかもしれないですね。
T: そう。そういうところがいろんなところに出ていて、良い意味で“雑に”食べられるって感じがあって・・・すごくいいんだよ。
うん、このワインもすごく美味しい。
「リングアヌーダ」のマネージャー(以下、L恐れ入ります。トスカーナのワインて、本当においしいと思います。
T: ホント、安くて美味しい。
L: まあ、高いもので美味しいものもたくさんあるんですけど、早く飲めないものが多いんで、なるべく早く飲めて美味しいワインを、と思ってます。
M: トスカーナのワインって最近、よく耳にしますね。こないだ立川さんと行った、西麻布の「ヴィーノ・デッラ・パーチェ」でも、おいしいトスカーナのワインがよく出てくる。
T: あそこ、面白いねぇ(笑)。ワインもさることながら、あのマネージャーのキャラは強烈だよな。
M: 面白いでしょ(笑)? 前菜からデザートまで全部食べてもその料理に合わせて彼が良いと思ったワインを選んで出してくるスタイルで、毎回、驚きがあるんですよ。
ぼく、今、一番好きな店かもしれない。

T: (昼のイベントの応援に行っていた「リングアヌーダ」のマネージャーに向かって)しかしすごかったね、さっきのイベントね。フルーチェを使ったデ ザートを「シェ・イノ」のシェフパティシエが作りましたっていうんで、(来場者はそれを受け取るために)全員並んでたもんね、見事に。
M: でもやっぱし一番すごかったのは立川さんがフルーチェを知らなかったことでしょう・・・。
L: あ、そうなんですか? ご存じなかったんですか?
T: cobaがMCで「日本の方はみんなフルーチェ、知ってますよね?」って言ったんだけど、ぼくはフルーチェっていうものを知らなくて。
で、彼(=三島)に「フルーチェって有名なのか?」って聞いたら「誰でも知ってますよ」って言うんだよ、またこいつが勝ち誇ったように(笑)。結構ショックでさ。
M: 食べたことはないっていう人はいるでしょうけど・・・。
T: 存在は普通知ってるものなんだ?
M: でも、ホントに知らなかったんですか? それはロッテのチョコレートを知らないのに近いかもしれないですよ。
T: いや、そこまで言わなくても(笑)。ただ、ぼくは本当にそういう世事に疎いところはあるんだよな。6~7年前までコンビニって行ったことなくてさ。
M: ホントに?
T: うん、H・アール・カオスの公演のリハーサルをやってた時にさ、時間がなかったんで、彼女たちとそれから亡くなった高円宮殿下も一緒にコンビニに 行ったんだよ。それで誰かがカレーを買って「これ、あっためてください」って言ったの。「あっためる」ってなんのことだかぼく、わかんなくてさ。
で、「何、それ?」って聞いたら、その、カレーあっためてって言った子には「立川さん、コンビニ、来たこと無いでしょ?」って見抜かれちゃうし、殿下まで「ぼくだってたまに来るよ。ゴルフに行く途中とか便利なんだよね」って言うし、あれは恥ずかしかったなぁ・・・。

チャートから外れた「ダイニーズテーブル」の良さ

M: ほんとに、ここ、Va-tout part2って感じで使えますね。味が変に繊細になり過ぎないというか。
T: だから正しい食堂なんですよ。
最近ちょっと仲良くしてる同い年くらいのフードプロデューサーがね、皆が騒いでる、2万円くらいの高い店にはもう行きたくない、と。馬鹿じゃないかと思うって。
来てる人が食べるっていう本来の目的よりも、そこに行ってる、行ったっていうアリバイ作りのために来てるみたいで、そういう本当に酒飲んでメシ食ってるのが好きなのかどうかわかんない客と混ざってるのがもう嫌だし、疲れたと。
疲れたっていうのは負けて疲れたんじゃなく、「もう勝手にやってれば」っていう感じだって言っててね、それは結構、そうだよな、と思ったんだ。
M: 「Goodbye Cruel World」って、意訳すると「もう勝手にやってれば」なのかもしれないな・・・。
こないだ、立川さんと話してて名前が出た「ダイニーズテーブル」って、そういうわけのわからなさがないから、いいのかもしれない。
T: 「ダイニーズテーブル」なんてさ、今はレストラン特集とかに出ることってないじゃない?「オステリア」も出てない。田代さんとこ(=「ラ・ブラン シュ」)はかろうじて周りが言うから出てるけど、別に本人はそれを名誉ともなんとも思ってない。あの加減って何なのかなと思うんだよ。
M: あれはそういうシステムになってるっていうのも多分にあるんでしょ? 大資本をかけて開店して雑誌に掲載されて一気に人を集める、みたいな。
T: うん、だから今のレストランってなんかこう、エンターテイメントのシーンに似てきていて、常にヒット・チャートに載ることを目的に活動をしているミュージシャンなのか、ヒット・チャートなんか関係ないやっていうミュージシャンになるのかがはっきり分れてきてるよね。
M: そうですね。いろんな雑誌に出てる店って、まるでモーニング娘。のオーディションに集まる子たちみたいに見えることがある。
T: チャートなんだよね。
M: で、ある程度浸透というか露出しちゃうともう表には出なくなって。
でももしかしたら、そこでお店に行く側が試されるのかもしれないですね。今、雑誌に載ってる店だけじゃなくて、いろんな店をどういう風に使いこなすのかっていうのをね。
T: たとえばね、たぶん東京中の99%の人が、「Va-tout」であんなうまい生ガキがあんなに安く食べられるって知らないと思う。今、“食のライ ター”と称している人たちもきっと知らないんじゃない?でもさ、そうしたらその人たちはもしかしたら“食のライター”って言っちゃいけないのかもしれない んだよ。食に関する“街のパトロール”をしてないんだもん。
M: ヒット・チャートに出る店だけをウォッチしてるのかもしれないですね。東京なんてこれだけたくさん店があるから、まあ食のライターも東京全部をウォッチするって感覚がもう最初からないんじゃないですか。
T: だからそこがやっぱり映画ライターとか音楽ライターと同じで、今の食のライターと称する人たちのダメなとこだと思うんだけど、その、チャートもんだけ追ってれば商売として成立しちゃってるっていうのは、結構、情けなくないか?
M: そこって、たぶんポイントですよね。ヒット・チャートもんの紹介っていうことでいえば良く出来たメディアなり記事なりはあると思うんだけど、そうじゃないものになるとねぇ・・・。
T: でもさ、今、キャメロン、モーニング娘。のオーディションって言ったけど、そもそも日本人って、なんか新人とか、そういうのが好きなのかもしれないね?
M: ああ、なるほどね。
T: たとえば、マドンナなんかすごくいいレコード出してても、みんな、もう最初の頃みたいに何も言わないじゃん。たとえばその顕著な例がユーミンで、この前も言ったけど今度の「6×7」なんてすごく良いレコードなのに、前ほど評判にならない。
敬意と愛情を込めて「ダイニーズテーブル的ミュージシャン」とでも呼びたくなるぐらいに・・・。
角松敏生だって、またちょっとレベルが違うかもしれないけど、新譜とか聞くと結構良いんだよ。でも、誰もが「いまさら角松・・・」みたいな感じで何も言わない感じっていうのが、すごく、間違ってるんじゃないかなっていう気がするんだよね。
だからキャメロンが、「ダイニーズテーブルってこの前初めて行ったんだけどすごく良かった」って言った時に、「そうだろおまえ」って感じでうれしかったんだよね。
M: ぼくはそういうのって、なんか変な言い方だけど安全弁なのかなと思ったりするんですよ。
落ち着いておいしいものが食べられて、それでちょっとハレの日みたいな感じになれる店がああやって長く続くための安全弁がこういう形であるんじゃないかって。
T: 店を利用する側からすれば、気張って“お食事”をしに行くのか日常的に外食をしてるのかっていう、外食の“度合い”の問題だと思うのね、結局。
長いこと外食生活を続けてきた人と、ある時に突如外食に目覚めた人の差ってすごくあるんじゃないかなって。
美味しいものってそんなにしゃかりきになって追求するものじゃなくて、言ってみれば街に転がってるものだと思うんだ。
気張らずに普通に外でご飯を食べていて、ふっと「ああ、おいしいなぁ」と思えるものに出会えた時ってすごく幸せな気持ちになれる。
もちろんギンギンに「さあ、うまいものを食べに行くぞ!」っていう楽しさもあるんだけど、ぼくは今はそういう普段の幸せを大事にしたいと思うんだ。
M: うん、すごくわかるな。
T: ほら、今日、cobaのバックでやってた高橋ゲタ夫とか天野(清継)君もその道の一線級のプレイヤーで、前には自分が中心のバンドで売れたりソロを出したりしてる人たちなんだけど、彼らは今はもう、そういうことで戦おうっていう気はないように見えるよね。
すっごくうまいプレイヤーなんだけど、「おれがおれが」っていうんじゃない、言うならば街の定番レストランみたいなアーティストって、なんかいいじゃない?
そういう“良さ”の感じでいうと、食べ物の話はすごくわかりやすいかもしれないな・・・。
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