TIME WAITS FOR NOR ONE~立川直樹同世代トーク~

第11回 後編

T: 3月の頭に和田誠さんの展覧会を久しぶりにキリンプラザでやるんだよ。
その時はぼく、何日か大阪にいるからその時にスケジュールが合ったら来れば?
「美加佐」、行こうよ。
M: それもいいですね(笑)。  
その展覧会はどんなテーマなんですか?
T: 「シネマ・ランド」っていうタイトル。
「お楽しみはこれからだ」のあの線画の作品ってあるじゃない? それをベースにして、元の絵は小さいんで出力で大きくしたりいろんな展示の仕方をして。
あと、「映画が出来るまで」っていうコーナーは「真夜中まで」や「快盗ルビー」のメイキングの映像や書き込みの入った脚本とか、絵コンテとかね。
M: 和田誠さんの(描いた)絵コンテっていうのは見てみたいですねぇ。
T: そうでしょ? 他にも「世界一小さな映画館」っていう10席ぐらいの小さな小屋を作ったり、まだ交渉中なんだけど「和田誠の選ぶ洋画ベスト10」をやりたい、とかね。
M: 和田誠さんって、常人の何倍も色のグラデーションを感知できるんだっていう話をなにかで読んだことがあるんですけど・・・。
T: あの人はさぁ、一見、人のいいおじさんみたいだけど実は天才ですよ。やっぱり。
見た目で損してるとまでは言わないけど、もう少し鬼才っぽい見た目だったらアーティストとしてもっと評価されるんじゃないかな。ま、その逆の人、多いもんね。
M: そう、和田誠さんと、宿輪(貴子)さんの個展のレセプションでお会いになったっておっしゃってましたよね。個展はどうでしたか?
T: 彼女のやろうとしてることは好きだね。あと、細かいアイディア、絵の上にガラスやアクリルをはめるとリフレクションして見辛いからって絵と枠だけで展示してるとか、ああいうことを考えてるところはいいね。
M: なるほど。
T: ただ、もっと良くなる人だとも思ったな。
ここから先は一般論なんだけど、今、グラフィック系のアーティストってさ、ロックの世界と一緒で3パターンぐらいしかないわけ、画風っていうのは。それを、誰がその手法の中でトップに立つかっていうせめぎ合いをしてるんだよね。
だから作品の見せ方なんかにもすごく気を配るべきなんだけど、たとえば、画廊で何かをやるとかっていう時に、どういうふうに見せるかっていう見せ方がみんな弱いよね。小さいギャラリーの方がむしろなんでもできるはずなんだけど。
M: そういうふうに「弱いな」と思った時、立川さんはなんとなくでもアドバイスをしたりするんですか?
T: それはしないね。それが仕事で、プロデューサーとアーティストっていう関係性が確立されてるとかいうのでない限りね。
それは早乙女ぐらい(関係が)近い人間には言うよ。
この前あるきっかけがあって、彼に「そろそろ巨匠とかって言われるようになるための準備を始める年だよ」って言ったの。
彼ぐらいになれば良い意味でのポリティカルさも必要になってくるし、「自分が何をしたことで、いつぐらいの時期にどのぐらいのポジションに行くのかっていうことを考えたほうがいいよ」って。
M: へぇ。そうなんですか?
S: そうなんですよ・・・。おれ、客観性ないからなぁ。
M: でも早乙女さんとも今回一緒に仕事させてもらった諏訪のプロジェクトでの立川さんの仕事振り、本当にすごいですよね。ぼくはもう感動してますね。
T: そう?
M: うん。何がすごいって、年齢も知識レベルも所属する業界も全くバラバラな関係者それぞれに対して、すごく明快な接点を提示して物事をきっちり進めていくじゃないですか。  あれはやっぱりすごい技だなと思う。
S: ぼくがすごいと思ったのが、そのいろんな人が出てきて同じ話を何回も聞かれても、立川さんはすごく丁寧に何回でも同じことを説明するところ。 
あれは偉いというかすごいなと思った。
T: そこはね、結構大事なんだよ。
そういう時に「それは前に言ったじゃないですか」っていうふうにハショろうとすると、そこでそう言われたほうはもう、こちらに対して(心理的に)距離感を持っちゃうわけよ。それはやっぱりまずいことなんだよな。
だからね、偉そうに言うわけじゃなくて、そういうところでもしもぼくのやり方が良いと思ったら、学んでほしいんだよな。早乙女にもキャメロンにも。
それが“人から盗んでも怒られないノウハウを盗む”っていうことだと思うんだよな・・・。
芸や技は教えてもらうものじゃなく、盗むもの。
ぼくはあとどれだけの芸と技を立川さんから盗めるんだろう。>
M: その諏訪のプロジェクト、すでに現地の新聞では大きく取り上げられたりもしてますが。
T: まず“今回のプロジェクトはよくある地域再生プロジェクトじゃないよ”っていうことだよね。
だって諏訪ってすごくきれいで良い街だし、“終わって”ないんだよ、全然。
それをいったら六本木ヒルズの方がよっぽど“終わっちゃった未来都市”だよ。
M: どうしてですか(笑)?
T: なんか全体に漂う雰囲気が、さ。
たとえば(六本木ヒルズの中にある)森美術館ってさ、行きは52階までエレベーターで上がるんだけど、帰りはそのまま降りられないでエスカレーターで下に回りこまなきゃいけないじゃない?
 それで案内の女の子とかも、真面目なんだと思うんだけど、「ここから帰れないの?」って聞いた時に、冗談の一つも言ってさ、笑顔で「規則なんでしょうが ないんですよねっ」とか言えばいいのに、なんかエクスキューズを堅く禁じられてるみたいな感じで、アンドロイドみたいに「申し訳ございません、こちらから お願いします」って言うんだよ。なんかそういう一つ一つがすごくイヤーな感じなんだよね。
M: ああ、なるほどね。
T: でも諏訪はあの美しい自然や精密工業の伝統や良い美術館に代表される文化があって、その上、良い温泉まである。
 「諏訪圏」っていう捉え方をすればもっといろんなものがあるよね?
そういう条件に加えて、諏訪の人たちって山崎さんっていうリーダーを筆頭に、すごく“人間がいい”んだよ。お人良しとかっていう意味じゃなくてね。可能性を感じる。
だから諏訪は“再生”じゃないの、絶対。
M: はい。
T: ただ、あれだけの可能性があるんだから、もっともっと良くなる街だなとは思ったんだ。だから(ぼくもプロジェクトの仕事を)やろうと思ったんだよね。
恵まれた資産を使って素晴らしい人たちがある目的に向かって力を結集していけば、これはすごいことが起きると思うんだよ。
東バル跡地(東洋バルブの工場跡地)をどうするかっていうことは確かに大事な問題だし、規模は大きいけれど諏訪圏全体を良くしていくっていう目的の中ではあくまでもファースト・ステップなんだよね。
M: うまく行きますかね。
T: うん。ただ後は地元の若い人がどれだけ積極的に関わってきてくれるか、だよね。
今回のプロジェクトを成功させるために必要な要素っていくつかあると思うのね。
明確なビジョンとか、そのビジョンをブレさせない意思みたいなもんだとか、そうはいっても政治的な動きをするタクティクスだとか。
ただ、そういうものがうまく揃っても地元の人、特に若い人が一緒に考えたり行動したりしてくれなかったら、やっぱりそれはうまくいかないと思う。
M: なるほど・・・。  
でも、上諏訪駅の近くにサロンとして機能するようなカフェがあるといいねっていうあの話、とりあえずやりたいですよね。
T: うん、そうだね。
M: 立川さんが言ってたみたいに期間限定でもいいじゃないですか。  
Va-toutみたいなカフェでおいしいものも食べられて、夜は例えばAsshが地元の若いバーテンダーとバトルしてる、みたいな。いや、カクテルのバトルですよ(笑)?  
そういうとこにいろんな人が集まってはあれをやろうこれをやろうって話してるのって、めちゃめちゃ文化ですよね?
T: だからアリなんだよ、それは。
アートや映画だけが文化じゃないからね。
さっきキャメロンが言ってた秋葉原と西麻布の話じゃないけど、何かしら人を惹きつける街って、それ自体が一つの文化だと思うよ。
それにこれって、東京の企業や人にとっても興味のある話だと思うんだ。
レストランをやってる会社にもちょっと話をしたらすごく関心を持ってるし、ほら、こないだフクちゃんだっておもしろがってたじゃない?
M: そうですね。
T: あとさ、あの造り酒屋の「真澄」とかの古い建物が並んでいるあたりに、映画のスタッフと一緒に大正から昭和初期のイメージの居酒屋を作るといいと思うんだよな。
M: ああ、いいですよねぇ。ぼく、商圏とかを考えた時に、中野ブロードウェイが有名になったみたいに、すごくマニアックなショップを誘致して周辺からの人の導線を作るっていうのもありなような気がするんですよ。
T: それもあるよね。ただね、最初からあんまりいろんなことをやり過ぎちゃって、プロジェクトに関わる人が消化不良になってるような状態にはしたくないんだよ。
だから、スピード感は大事なんだけど拙速になっちゃいけないっていう、そのバランスが、ね。
M: でも、いいよなぁ。夏の諏訪で映画の「ダーティ・ダンシング」みたいな、若者たちのひと夏のロマンスとか生まれちゃったりするわけですよ? 楽しいと思うなぁ。
T: ・・・。
ただ、野球でいえばオープン戦はすでに始まってる状態だから、もう少しスピードアップしたいのも確かなんだけどね。
Suwa Future Design Projectから何か新しいことが始まればいいなと思う。
何か新しくて画期的で見たこともないようなできごとが起こせたらいいなと思う。>
T: 最近さ、カイリー・ミノーグって結構すごいかな、と思ってるの。
今度の、ニック・ケイブと一緒にやってる2枚組とかいいよ。
あと、平気で脱いじゃったりするあの感じとか、好きなんだよね。
あの♪ナーナーナーナナーって曲なんてむちゃくちゃいい曲だよね。
あれからするとブリトニー・スピアーズなんかはまだガキだなと思う。
M: ブリトニー・スピアーズってポップ・スターとしてはどうなんですか?
T: アイコンになってないと思うんだよね。
ブリトニー・スピアーズと浜崎あゆみとMISIAと、他にクリスティーナ・アギレラとかもみんな同じふうにしか見えない。
商業音楽として成功させるために“こういうふうに方程式通りにやるとうまくいきます”っていうのを忠実にやっていった結果だからね。
M: 商品としては優れているとは思います?
T: 「優れた商品」っていうのはぼくにとってはなくて、「良く出来た商品」ではあるのかなぁ、っていうところだね。
ブリトニーの今度のベストでも最初の3曲ぐらいは「ああ、結構かっこいいじゃん」って単純に思ったりはするんだけど、4曲目、5曲目って聞いてくと「なん かみんな同じかな」って思い始めて、それが8、9曲目になると「ま、いいか」ってなっちゃう。つまりアルバム全体を通じて感動させる構成になってないと思 うんだ。
でもそれは今の商業映画も同じで、アタマのインパクトと後は結末のところしかない。
さっきの「ギャンブル・プレイ」ってそんなに長くない映画なんだけど、全体を通じてあるムードが流れてる作品なの。でも(そういうのは、今の)商業映画では絶対、当らないですよ。
M: 浜崎あゆみさんってなんであそこまで売れるんですかね。
T: わかんないね。
ただ、一つ言えるのは、彼女って一度作ったあの「あゆ」っていうキャラクターを完璧に演じきってるじゃない? そのことによって商業的に成功してるっていうことはあるんじゃないかな。
それって単純なことのようだけど、実はあそこまで長きにわたってやった人っていなくて、そういう意味ではマドンナに近いものがあるのかもしれない。
M: やっぱり(MAX)松浦さんがとてつもなく優秀だったってことなのかなぁ、となんとなく思ったりするんですけど。
T: ただね、エンターテイメントの人が売れると、プロデューサーとか周りが良かったんだっていう話は程度の差こそあれ常に出るんだけど、やっぱり本人に“ある資質”がないと爆発的にヒットするポップ・スターにはならないんだよね。
それは芸の才能だけじゃなくて強烈な上昇志向だったり、“何か”に対する飢餓感や欠落感だったり、いろんな要素があるんだけど・・・、つまりポジティブな要素だけではないっていうことだよ。
それは日本でも海外でも同じだね。これは自信を持って言える。
そういう意味ではポップ・スターっていうのは才能があればなれるとか、作ろうと思って作れるもんじゃないっていうのもまた真実なんだよな。
M: 才能がある人がそういう“ある資質”を持ってないと、どういうことが起きるんで しょう?
T: “突き抜けない”よね。あるところまで行っても、そこで恥ずかしがっちゃうんだよ。そうするとやっぱり・・・ビルは建たないんだよな。
M: もしかして立川さんもそういう“突き抜けない”人だったりします?
T: ま、すごく簡単に言っちゃえばそういうことだよな(笑)。
立川さんが表に出ない人生を選んだのはその“突き抜けなさ”を10代の時からわかっていたからなのだろうか。だとしたら・・・なんて早熟な人だろう!>
M: そう、雑誌の「en-taxi」で「倶楽部亀坪」っていう「『クラブ・シャングリラ』に対するリスペクトをこめたパロディという企画」が始まったんですが。
T: うん。連載だか単発だか知らないけど、始まったね。
M: その中で亀和田さんが「立川君も空間プロデューサーとして、あのころ(バブルの頃)ブイブイいわせてた」っていう発言をしていて、へぇーと思ったんですが。
T: でも「空間プロデューサー」っていうといかにもバブルに踊ってたみたいだけど、ぼくの場合常に自分のクリエイティブな興味に従って仕事をしてるだけだからね。
M: でもずいぶんお金持ちにもなったんじゃないですか?
T: ぼくは金持ちじゃないですよ。ぼくの友達の金持ちって、ニューヨークに行くっていう時に「立川さん、(飛行機は)パブリックで行きますか、プライ ベートで行きますか?」って聞くような人たちだもん。そんな友達がいたら、そもそも金持ちになろうなんてこと自体、思わないもんだよ。
M: そんなもんですか・・・。
じゃあ、そういう立川さんから見て、昨今の「エセセレブ・ブーム」とでも言うべき世の中の風潮ってどう思います?
T: 別にいいんじゃないの?
だって、そういう人たちがいるから、ぼくらは暮らしてられるんだもの。
M: それはわかりやすい(笑)。
T: だって、みんながよくわかって悟っちゃったらぼくらの商売なんてないんだからさ。
M: でもその「倶楽部亀坪」の中で亀和田さんが、日本版「フェスティバル・エクスプレス」を実現させられる才能とコネクションがあるのは立川さんだけだって。  
ああ、そういう見方っておもしろいなぁって思いましたね。
T: いつもそんなに特別なことをやってるわけではないんだよ、実は。
だけどさ、ぼくが「これ、こういうことだろ?」って、何かしら言ったりやったりすることが役に立つっていう現実があるからね。
でもさ、亀和田もおっかしいやつだよな。「倶楽部亀坪」もいいけど、いっぺん二人でここに来て一緒に話せばいいんだよな(笑)。
しかし、あの高校の同級生っておもしろいやつが多いなって最近思うよ。亀和田だろ、講談社の丸木だろ、あと元々、諏訪の山崎さんを紹介してくれた中村。で、こないだも、ずいぶん会ってない同級生からメールが来たじゃない? あいつ、今度のSHABECREAMに呼ぼうかと思ってるんだけどさ、いったいどんなふうになってるんだろうって、ね。
なにしろ卒業してから30数年だからね、長いよなぁ・・・。
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